音楽連載小説 第二十三話

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修禅寺は伊豆半島の北部にある山間の小さな町だが、町の中心を川が流れており、その名の通り修禅寺という寺があり、北条家に政治の実権を握られた源氏が滅ぼされた場所でもあり、そして温泉や明治時代に建てられた教会すらある、なかなか※①歴史と文化の深い土地である。僕たちが宿泊していた下田からは車でだいたい一時間半ちょっとかかる。

僕たちはそこで観光しがてら昼食をとった。メソポタミア文明ズと成戸はまだ暫くそこで観光していくつもりらしかったが、僕たちは肝心のバンド合宿の進み具合が気になっていたので、後ろ髪を引かれつつもスタジオへと戻っていった。到着してから15分ほど休憩すると早速スタジオに入り、いよいよ僕が作った曲を披露する段となった。

あらかじめ印刷しておいた歌詞とかコードを書いた紙をみんなに配る。それは四小節を一行とした簡単な進行表になっていて、

I——I——I——I——I

こんなバーの上に歌詞とコードが書かれていて、曲の構成がわかる様になっている。イントロと間奏については何にも考えていなかったので歌の部分だけの構成が書いてある。歌詞はこんな感じだ。

※②West Side Story

Aメロ
西を目指した砂漠の劇団が
核武装した商社マンとクロスする
不細工な太鼓がそこで鳴り響き
僕らこれから行くとこ、とてもいい所というと

Bメロ
夜の砂漠はとっても寒いから
みんな抱き合って眠るのさ

サビ
West Side Storyがだんだんと広がっていく x2

101階建ての馬鹿げた建築の
エスカレーター上がればまるで雲の上
刑務所より重い警備をかいくぐり
今日も誰かが最上階から飛び上がろうとしては

隣人の顔をだあれも知らないけど
幸せな国から来たのだろう、Hello。

West Side Storyがだんだんと広がっていく x2

間奏

良く晴れた土曜の昼下がり
ニュータウンを汚す誰かの仲たがい
脂ぎった視線が眼鏡で集まって
善良な誰かの背後を焼き尽くそうとすれば

愛されたいといっても誰も本気にはせず
僕たちは完璧を目指してる さようなら

West Side Storyがだんだんと広がっていく x2

新しい曲をバンドメンバーに披露する時はいつも試されている様な気がして緊張感が自分の中にはしる。僕はギターを弾きながら、各セクション毎に曲をうたって説明していった。皆僕が手渡した進行表を見ながらじっくりと聴いている。

今思い返してみるとこの曲は全体的に※③ポリスの影響を受けていた。頭にあったアレンジもそうだし、考えていたギターフレーズもアンディ・サマーズの出来損ないみたいなものだった。Aメロの張り上げるような高音域のメロディラインはスティングのそれで、僕の得意とする音の高さではなかった。つまりそれは自分の内側から自然に出てきた曲ではなかった。ただその時の僕はこの曲がポリスにかなり負っている事に全く気づいていなかった。

メンバーの反応はなんとも言えないもので、実際にバンドで肉付けしていかないと判断できないというような顔だった。アレンジについては手慣れているメンバーで、自由にアレンジしてもらっても面白いものになると思って雰囲気だけ伝えて一回やってみたが案の定しっくり来なかったため、曲の始めからアレンジを結構細かく指定した。

Aメロ部分、ドラムは四つうちのバスドラムに三拍目にクローズドリムショットでレゲエアレンジ。ギターはスカっぽく裏拍でリズムを刻み、ベースはかなり自由に動いてもらった。高岸はその間を印象的な短いフレーズでうめることになった。

Bメロはパンク的なエイトビートのノリでつっぱしり、サビ部分は僕が考えてきたミュートをかけたアルペジオフレーズと解放弦を生かしたコードストロークを交互に繰り返して静と動を繰り返すスタイルだ。

曲のキーはGmだったが、間奏部分は石田さんのアイデアでGm#のワンコードでノイジーな高岸のギターがフリーキーに暴れるソニックユース的なアレンジになった。これでなんとなく形になってメンバーもこの曲に対して徐々に前向きになっていくのがわかって嬉しかった。僕自身頭の中にあったアレンジ(ポリスの借り物ではあるが)が形になるのが嬉しかった。

スタジオを出るとメソポタミアの面々と成戸がもう帰ってきていて、庭でバーベキューの準備を始めていた。僕は気疲れと肉体的な疲労でノロノロと準備に参加した。

夜にはまた2時間スタジオに入り、今までやってきた曲のおさらいとジャムセッション、新曲の打ち合わせをして2日目はほぼバンド漬けで終った。

続く

※①修禅寺といえばマジカルパワーマコの出身地でもある。

※②さて、これからプロのミュージシャンなら絶対にしないであろう事、すなわち、歌詞の意味と由来を事細かに解説していこうと思う。これはマジシャンなら客の目の前でトリックを明かすような態度で、曲の解釈を限定的にして、曲自体を殺すことにもなりかねない。しかしだ。僕はミュージシャンではない。ただのくたびれたリーマンだし披露しているトリックも大したものじゃない。スーパーイリュージョンでもなんでもない。だから問題ない。ただここから長くなるので覚悟してもらいたい。

West Side Story

タイトルのWest Side Storyはご察しの通り映画『ウエストサイド物語』から拝借した。

Aメロ
西を目指した砂漠の劇団が
核武装した商社マンとクロスする
不細工な太鼓がそこで鳴り響き
僕らこれから行くとこ、とてもいい所というと

この部分は2003年から2011年まで続いたイラク戦争の影響を受けていると思う。砂漠の劇団がイラクで、核武装した商社マンがアメリカというわけでは全くないのだが。不細工な太鼓とは戦火の大砲の事とも解釈できる。最後の行はお互いの価値観のすれ違いを指していると思う。

サビのアルペジオと開放弦を利用したコードストロークのフレーズ。そしてこのAメロ部分の詩が最初に断片としてあって、その二つが結びついた時点で曲の全体像が見えてきてこの曲は誕生した。

Bメロ
夜の砂漠はとっても寒いから
みんな抱き合って眠るのさ

ずっと暑いイメージのある砂漠が実は夜はとても冷えるというトリビア的情報と、危機的状況下で対立者同士が団結するというファンタジーを書いた箇所。

サビ
West Side Storyがだんだんと広がっていく x2

欧米的な価値観が世界で支配的なムードになりつつある、みたいなことを暗示したかったのかもしれない。特に何も考えていなかった。やはり9.11やイラク戦争の影響かもしれない。

2番Aメロ
101階建ての馬鹿げた建築の
エスカレーター上がればまるで雲の上
刑務所より重い警備をかいくぐり
今日も誰かが最上階から飛び上がろうとしては

自然に出てきたのは1番の歌詞までで、2番からは人工的に捻り出したので苦労した。が、その分言いたい事もはっきりとしている。

「101階建ての馬鹿げた建築」このころは建築物がもつ暴力性について興味があったらしく、他の曲でもそのような歌詞がでてきたりする。当時よりも100階を超える建物は珍しくなくなってしまった気がするがどうだろう。バベルの塔は神の怒りをかって完成しなかったが、現代のバベルは完成したものの、最上階から神に近づくために「飛びあがろう」とする人が後を立たないというイメージ。最初は「飛び降りる」という表現だったが直接的過ぎてつまらないのでやめた。とにかくテクノロジーは進歩したものの、それで自殺が減ったわけでもなく…みたいなことが言いたかったのだとおもう。

2番Bメロ
隣人の顔をだあれも知らないけど
幸せな国から来たのだろう、Hello。

お互いのコミュニケーションの希薄さと他人の幸福への妬みをあらわした箇所。案外この曲はコミュニケーションが主題なのかもしれない。

3番Aメロ
良く晴れた土曜の昼下がり
ニュータウンを汚す誰かの仲たがい
脂ぎった視線が眼鏡で集まって
善良な誰かの背後を焼き尽くそうとすれば

最初は「仲たがい」は「よがり声」だったのだが、石田さんに披露するのが恥ずかしくてこうなった。そういったドロドロした昼ドラみたいなモノを排除した世界がニュータウンの理想だったはずなのにそんなものは不可能で実際はそうではないみたいなことを示したかったんだとおもう。そういう意味では仲たがいの方がややリアルかもしれない。後半部分は現在ではより加速してしまった感のあるネットにおける中傷や非難を描いている。

3番Bメロ
愛されたいといっても誰も本気にはせず
僕たちは完璧を目指してる さようなら

「愛」を気軽に口にするJポップへのアンチテーゼと自己啓発本ブームを揶揄し、最後はそういった状態への決別を示している箇所。

以上。初めてまともに作った曲にしては色々と考えている歌詞だと思う。逆にだからこそ創作ペースが遅かった、と言えるかもしれない。

※③ザ・ポリスは70年代の終わりから80年代前半に活躍したイギリスのスリーピースバンド。レゲエとパンクを組み合わせたような音楽性が特徴で当時めちゃくちゃ売れていた。メインのソングライターはベースボーカルのスティング。ドラムはスチュワート・コープランド。そしてギターはアンディ・サマーズで、エフェクターを駆使したその透明感のあるギターフレーズはレディオヘッドをはじめ、後々のバンドに大きな影響を与えた。

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