音楽連載小説 第二十五話

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合宿4日目。最終日は午前中にスタジオに入り、すとれい しいぷすとメソポタミア文明ズがスタジオで5,6曲ずつお互いに曲を披露、そしてそれに対して意見交換することになっていた。まずは我々「すとれい しいぷす」から。石田-高岸共作の新曲に関しては事前に作者の2人がアレンジを煮詰めた事もあり完成度も高くあまり厳しい意見は出なかった。ところが僕が作った「West Side Story」はまだアレンジもこなれてない上に僕のボーカルも不安定だったから、結構厳しい意見が出て、ありがたかったがショックでもあった。それは曲自体が良くないということではなく、半分は全体のバランスの問題だった。かなり世界観が違う楽曲でボーカルも変わるので違うバンドのように聞こえるというのだ。僕は自分で歌うにはキーが高すぎること、キーとなるギターフレーズが開放弦を利用していることもあり、キーを落としたくない旨をまず説明し、可能ならAメロのベースフレーズをもっとシンプルにして、石田さんに歌ってほしいとその場で提案した。その提案は快く受け入れられ、Aメロ石田さんが歌い、その部分のベースラインはもう少しシンプルにして、歌いながら弾くという事で落ち着いた。驚いたことに早速石田さんはその場でベースフレーズを単純化してベースボーカルをこなしてしまった。対応の素早さもそうだったが、僕は単純に石田さんが僕の曲を覚えていてくれた事に感動した。歌詞は適当だったけど…。

次はメソポタミア文明ズの番だった。前にも言ったがその時にはまだ彼らの演奏を聴いた事はなくこれが初めてだった。

メソポタミア文明ズは簡単に言ってしまうとR&Bやファンクのコピーバンドで藤田さんがベースを弾きながらボーカルとってその他のメンバーがそれをサポートするといったようなバンドだった。その時はオリジナル曲も一応1曲は披露されたものの正直言って、(ま、当然と言えば当然なのだが)カバー曲には見劣りするものだった。

錦の演奏は熱はこもっていたものの最初にスタジオでセッションしたときの熱量や自分の曲を弾き語りして見せたような人を圧倒するような感動的なプレイではなかった。それが僕にはひどくもったいないことに思えてなんだか演奏を素直に楽しむことができなかった。

そんなこんなでライブが終わって帰り支度をすると、僕たちは行きの組み合わせで車に乗り込んで東京まで帰った。

合宿から帰ると早速僕は合宿中に初めて出会ったアーティストたちを深掘りし始めた。

クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイバル、リトル・フィート、デレク・アンド・ドミノス、レーナード・スキナード、などのサザンロック、スワンプロック、そしてジェフ・バックリーだ。ジェフ・バックリーは特に気に入ったので僕は藤田さんに他にジェフ・バックリーみたいな弾き語りで気迫迫るアルバムやアーティストなどはないかを尋ねた。そこで挙がったのが、ジョニー・キャッシュ、ニック・ドレイク、ビリー・ブラッグ、遠藤賢司、友部正人、友川カズキ、それからブルース・スプリングスティーンの『ネブラスカ』というアルバムをすすめられた。今まではバンドでどうありたいかを考えながら曲を作っていたが(完成に漕ぎ着けたのは例の「West side story」だけだが)、それらのアーティストの諸作に打ちのめされながらも、そういう弾き語りだけで成立する曲をなんとか自分で書けるようにならないかとおもい始めるようになった。そのためには曲の世界観を広げるか深めなければならない。シリアスなムードを獲得しなければならない。だが、その方法が全くと言っていいほど分からなかった。彼らはどうやってその凄みに到達したのか、手がかりすらなかった。なにしろ僕は普通の曲ですら満足に作ることもできなかった。しかし、この時点でその方向性について考え始めたことは、後々W3でものすごく役に立った。

そうこうしているうちに上京してきて初めての夏が全く冴えないままに終わろうとしていた。9月に入り、いよいよ我々「すとれい しいぷす」の下北沢のオーディションライブが近づいていた。そんなわけでバイトとバンド練習を慌ただしくこなし、合間に教習所に通った日々だった。成戸に何度か遊びに誘われたが、都合がつかず、全て断ってしまっていた。そんな日々の中で僕は時々錦の事を思い出していた。合宿の時に連絡先は交換していたが、錦とはあれから全く連絡していなかった。しかしあの才能が埋もれてしまう可能性を考えるともやもやして仕方がなかった。

前に僕が高岸と2人だけで出演した例の大塚のライブハウス(石田さんや石崎さんと初めて出会った場所でもある)は確かフルのバンド編成じゃなくて1人や2人だと少しはチケットノルマが安くなるはずだった。僕はその話をしがてら錦にメールを送った。彼女は表舞台に立つべきだと僕は強く確信していた。彼女からの返事は簡潔で、ひとりではとても出る自信がないからサポートしてほしいとの事だった。彼女と一緒に演奏できる機会があるということはこの上ない喜びだったが、同時に自分のギターの腕では力不足だということも分かっていた。そして単なる僕のエゴだったが、彼女のむき出しの才能を見せつけてやりたかったから、やるなら最小限のユニットが良かった。

ほぼ初心者レベルだけどベースでいいなら是非やらせてほしい

と返事をした。その頃にはドラムには石崎さんを誘ってスリーピースで出演したいという計画まで思い浮かんできた。正直すとれい しいぷすの事を考えるよりもドキドキしていた。

錦からの返事は「是非お願いします」だった。

続く。

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