音楽連載小説 第五話

第四話はここから

ライブは休日のお昼のイベントで、対バン形式で僕らの他に5バンドが参加することになっていた。持ち時間は1バンド30分位。MC含めて大体5、6曲できる計算だ。ということで今形になっている曲は10曲だからそれをスタジオで煮詰めて、最終的に5、6曲に絞り込むことにした。

その時の僕は頭ごなしに無理だと否定したがバンドなんて2人もいれば十分いいライブが可能である。フォークミュージシャン達はアコースティックギター(と時々ハーモニカ)と歌だけで、多くの聴衆を魅了してきたし、ビリー・ブラッグは最初、歪ませたエレキギターと歌だけのアルバムを作っていた。ジェフ・バックリーの代表曲は魂を揺さぶる彼の歌とテレキャスター美しい音色だけの「ハレルヤ」だし、ホワイト・ストライプスはギターとドラムだけで何万人も入るフェスの会場を湧かせていた。バンドだからといって、ギター、ベース、ドラムがそろってないと感動的なライブができない、というわけでは全くない。ただ「みんながそうしているから」という理由で僕はベースとドラムがいなければ何にもできないと思い込んでいた。一方、高岸は「今なにをすることがベストなのか」常に考えていた。というわけで残り一ヶ月弱、僕達は可能な限り集まって曲を練り、週二回ぐらいのペースで二人でスタジオにも入った。高岸が作った曲がメインだったから彼が基本ギターを弾きながら歌うので、何曲かは僕がドラム叩いたりすることになった。しかしどうしてもギターが二本要りそうな曲や、僕の拙いドラミングでは心許ない曲では高岸の持ってるドラムマシーンを使った。僕たちはその黒くてでかいドラムマシーンを※①エコーと呼んだり、ビッグ・ブラックと呼んだりしていた。高岸は僕が用意してきた、例の曲になりきってない断片的なフレーズをなんとか曲の形にアレンジしてくれたので、※②その曲も一曲やることになり、それは僕が歌うことになった。

ということで最終的に6曲が用意され、

  1. 高岸ギターボーカル、僕ギターとコーラス、ドラムマシーン
  2. 僕ギターボーカル、高岸ギターとコーラス、ドラムマシーン
  3. 高岸ギターボーカル、僕ドラム
  4. 二人でギターボーカル
  5. 高岸ギターボーカル、僕ドラム
  6. 高岸ギターボーカル、僕ギターとコーラス、ドラムマシーン

のセットリストになった。

本番当日は僕が自分の機材、ギターやエフェクターを持って高岸のうちに行き、彼の機材の一部を持って、高岸は自分のギターとドラムマシンを持っていった。僕たちの出番は最初から2番目という、一番どうでもいいポジションだったが、それぐらいがむしろ僕らには好都合だった。ライブ本番前に軽くリハーサルがあって、出番の遅い順にトリからリハーサルをするので、2番目の僕らは割と遅めの到着でよかった。たまにリハーサルを最後の練習と勘違いしているようなバンドがいるがリハーサルは出音のバランスや(演者がステージ上で聴くモニターからの)音の返しをチェックするもので、基本的に一曲毎にワンコーラス確認して終わりである。僕たちは変な編成で曲によって音量バランスが変わるので、結構時間がかかってしまった。僕らは地元でそれぞれ二回程度しかライブをやった経験しかなく、若干不慣れということもあった。

会場には僕らの知り合いが若干名きてくれたが、それはチケットあげたうちの十分の1ぐらいの人数だった。1組目は※③ハイスタに影響を受けたようなメロコアバンドで、技術はあったけど歌詞がいまいちで僕らは自分を棚に上げて苦笑していた。それでも結構人気があるらしくて(まぁ全員友達とかなのかもしれないけど)それなりに盛り上がっていたし、ステージ前は賑わっていた。僕たちは彼等の演奏が二曲終わると、準備のために舞台袖に消えた。

バンドの経験なんて社会では役に立たないと思うかもしれないが、僕はそんなことは無いと思っている。チームの運営に必要な能力が身につくし、多くの人の前でプレゼンするような度胸が付いたのは間違いなく、ライブでの経験があるからだ。そしてライブで堂々と演奏出来るか否かはどれだけ練習してきたか、数こなしてきたか、事前に準備してきたかによる。それはプレゼンテーションの場においても同様だ。

話を戻そう。出番がきた。僕たちはガチガチに緊張していた。正直僕がステージで思うようにプレイ出来る様になったのはW3を始めてからで、それまではこの緊張をうまく乗りこなせず、大して無い実力の更に何割しか発揮できていなかった。そしてその時は高岸の方が僕よりも緊張していた。先程はあんなにステージ前は混雑していたのに、僕らの出番になるとそこにはポッカリとスペースがあって、僕らの知り合いが遠慮がちにステージ端っこの前の方にいた。

「どうも、Katie’s been goneです」と若干声を震わせながら高岸が言うと僕はドラムマシンをスタートさせた。

※④1曲目は高岸がギターボーカルで僕がギターとコーラスを担当するパワーポップチューンで、ドラムマシーンのパターンがやや単調だったが、当時僕らが2番目に自信があった曲で、1曲目が終わる頃には僕たちの緊張も大分ほぐれてきていた。2曲目は例の僕が素材を持ってきて高岸が完成に漕ぎつけてくれた曲で、僕がギターボーカル、高岸がギターとコーラスを担当した。高岸は1曲目が終わった後に軽く喋ってドラムマシーンをスタートさせた。僕の曲はそもそもギターフレーズから無理やり曲に仕立て上げたこともあって歌自体の力に乏しいのでアレンジで聴かせるしか無い。よってドラムのプログラミングもギターフレーズも結構凝った物になった。とっつきにくい事もあり反応はいまいちだった。3曲目は高岸がギターボーカルで僕がドラムを叩いた。6/8拍子のスローなフォークロックナンバーで元の楽曲の力で聴かせるタイプの曲でアレンジは簡単だった。次は二人で歌いながらギターを弾く、ザ・バーズを下敷きにしたフォークロック的なアレンジの曲をやり、5曲目は高岸ギターボーカル、僕がドラムでザ・バーズの「すっきりしたぜ」(I’ll Feel a Whole Lot Better)をやった。最後はストーン・ローゼズの「Waterfall」みたいな四つうちのドラムが気持ちいい高岸の自信作だった。ドラムマシーンに合わせて僕はギターリフを繰り返し、高岸は基本的にボーカルに専念して、サビで僕は彼の歌にコーラスをつけ、最後に高岸がギターソロを弾くという構成で、これに関しては観客が前のめりになって聴いてくれてるのがわかって気持ちが良かった。高岸のギターソロもスタジオで前もって作ったフレーズと全然違うものだったけど、むしろ本番の方ができが良かった。唯一残念だったのがギターソロが長くなってしまったため、ドラムマシーンが先に演奏を終えてしまい、終わり方がなんだかしまらなくなってしまった事だったが、それだって高岸がギターをフィードバックさせてなんだかそれっぽくまとめて締めたのであった。僕らはそれなりの歓声を浴びてステージを降りた。初めてにしては成功と言ってもいいと思う。

続く

※①エコーは、エコー・アンド・ザ・バニーメンが初期に使っていたドラムマシンに彼らがつけた名前でそこからとった。ビッグ・ブラックはドラムマシンと金属的でノイジーなギターサウンドで知られる80年代のバンド。ニルヴァーナのプロデュース等で知られるスティーブ・アルビニがやっていたバンドだ。

※②「The Headache Production」という曲。歌詞を一部載せようと思ったけど恥ずかしいのでやっぱやめた。自らのアイデンティティを問う歌詞である。

※③柳のやっていたバンドではない。念のため。当時は本当にメロコアバンドが多かった。

※④ここから僕たちがライブでやった曲の解説が始まるが、皆さんが想像しているものをかなり酷くしたもの、と思って差し支えない。

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