音楽連載小説 第三話

【第二話はここから】

雪の日の出会いから僕は自然と柳のうちに遊びに行くようになった。僕は出会ったその日から柳とバンドを組みたいと強く思っていたが中々言い出せないでいた。

理由は2つある。実はその出会いの日に、柳は自分のバンドを辞めてきた所だった。彼はその腕と知識を買われてか、大学のサークルの先輩からバンドに誘われてハイスタとゴイステを下地にしているであろうメロコアバンドに在籍していた。柳の音楽的な守備範囲からすると別に不思議では無い気もするのだが、後の柳のオリジナル曲を知っている身としては何故彼がパンクバンドに加入していたのか本当に謎である。

柳はその秘められた自己主張と個性の強さとはとは裏腹に、人間関係において主導権を取ることに無頓着というか、ある意味流されやすい所もあるので、二つ返事で軽くOKしてしまったのだろうと勝手に思っている。

とにかくその日、例のメロコアバンドは大雪にもかかわらず大学で練習があった。当然柳は部室兼スタジオに向かったのだが、時間になっても誰一人こない。携帯で連絡をとってみると「外をみてみろよ、今日は当然むりだろうが」と逆に怒られたそうだ。

「うん、まぁその時もういいかなって思ったんだよね」と柳はボソボソと喋った。

結局スタジオでギターもひかず、四時間ぐらい好きにドラムを叩き、スタジオを出るときにメンバーに「辞めます」とメールして帰ってきたという。

そんなわけで辞めた真意はつかめないがバンドを辞めたばかりの彼にまたすぐにやろうと持ちかけるのはなんとなく気が引けた。

それにまぁくだらない理由なんだけど柳の背が高すぎるのもちょっと気になった。柳は決して美形とは言えなかったけどサーストンムーアみたいに背が高くて(もちろんあそこまで高くはないが)、寡黙で、雰囲気のあるやつだった。いつも前髪が前にかかりぎみで、歌うときだけはっきりと目が見えた。対照的に僕はどちらかというと背が低い方だから、二人並ぶと凸凹の漫才コンビみたいにみえた。音楽的にいうなら、並んで歩くと二人はまるでサイモンとガーファンクルだった。しかし僕はポール・サイモンほどの作曲や歌の才覚もなく、能力的には歌が下手くそで背の低いガーファンクルだった。

しかしこれはもう一つの理由じゃない。もっとデリケートな理由が一つあった。これはもっと話が長くなって大学入学当初、高岸との出会いから始めないとならない。

高岸とは大学に星の数ほどあるバンドサークルの1つで知り合った。彼は(その後の事を考えれば本当に信じられないことだけれども)出会った当初は大学デビューに完全に失敗したオタクみたいな風貌で、早い話が僕らは似たもの同士で、サークルの新歓では僕らだけが浮いていた。そんなわけで居酒屋の隅っこでボソボソと探り探りに音楽の話を僕たちは始めた。

「出身どこ?」話しかけたのは僕が先だった。みんな盛り上がってる場所に集まっているから僕らの席の周りは人が居なくなっていて、いつの間にか僕らだけだった。よくある現象だ。

「石川県※①、君は?」高岸は、ずれたメガネをかけ直していった。

「僕は青森」

「あっ※②スーパーカーだね」

「そうそう!スーパーカー好きなの?」

「好き好き※③ナンバーガールもくるりも好きだよ」

その3バンドの話はきっかけに過ぎなかった。僕たちは二人ともイギリスのロックが大好きで、中でもビートルズが大好きで、XTCはもっと好きだという共通点に気がついたのだった。その日のうちに僕達はバンドを結成した。もっともメンバーは当然僕ら二人だけだった。高岸も僕もギターボーカルだ。ビートルズ、XTC、クラッシュ、ピンク・フロイド、フリートウッド・マック、ユニコーン…。僕達には複数のボーカリストやソングライターがいるバンドが理想だった。当然そういうバンドを目指すべきだと二人とも思っていた。コンセプトは中期XTCと初期ビートルズとエルヴィス・コステロとアトラクションズを足して割ったようなバンドだった。つまりポップなんだけど同時に攻撃的なギターロックだった。実現すればライブが楽しい凄いバンドが誕生するはずだった。

2次会には行かずに僕らは二人だけで、駅前のマックに入り引き続き新しいバンドの話をしてバンド名の候補を考えた。ざっとこんな感じだ。

  • ダンス・ダンス・ダンス*④
  • ワインズバーグ、オハイオ
  • September Girls
  • No Surprises 
  • マジカル・コネクション
  • Katie’s been gone

ワインズバーグ、オハイオかKatie’s been goneのどちらかにしようということで、その場はお開きになった。もう朝になっていた。一週間後に大学で待ち合わせして、高岸の部屋でお互いに一曲づつ書いてきて披露するということになり、その場で眠い目をこすりながら始発で帰った。高岸は大学の近くに住んでいたので、歩いて帰った。僕はその日家に帰るとシャワーを浴びて寝て、夕方にのろのろと目を覚ましてそのままだらだらと過ごして1日を終えた。高岸は眠れずにそのまま疲れ果てて眠ってしまうまで曲を作った。

僕は高岸と出会ったその晩はかなり熱に浮かされて将来の希望や展望、アイデアでいっぱいだった。しかしいざ日常に戻ってみると、それを実現するための行動を何一つとろうとしなかった。結局僕は約束の日にまで新しい曲を作ることもできず、高校の時に作った断片的なギターフレーズを携えて高岸に会いに行った。

対して高岸は実は行動力の鬼みたいなやつだった。僕は大学生活を通してそのことを思い知らされることになる。

第三話に続く

※①社会人になってから3年ほどたったある日、この時の会話を思い出して石川県(金沢)に旅行に行った。当時は新幹線もなく東京からのアクセスが悪かったが良いところだった。そのときはあいにくの雨だったのだが、雨の兼六園も美しかったし、金沢21世紀美術館も僕は大いに楽しんだ。その後会社の金沢出身の同僚にこの旅行の話をしたら金沢が雨が多いと教えてくれ、「どうせなら雪が降っていればよかったのにな」と言った。僕もそう思う。

※②スーパーカーは青森県出身のバンド。地元に誇れるバンドがあるということはなんとも素晴らしいことである。

※③これら3バンドがいたおかげで、いやそのせいで僕らはバンドには「まだ」未来があると思い込んでいた。異論はあるだろうが実際にはそんなものはなかった。

*④ダンス・ダンス・ダンスは村上春樹の同名長編小説、ワインズバーグ、オハイオはシャーウッド・アンダーソンの小説で僕が考えた。September Girlsはビッグ・スターの「September Gurls」から、No Surprisesはレディオヘッドの曲から高岸が候補にだした。マジカル・コネクションはピチカート・ファイブの曲名で僕。Katie’s been goneはボブ・ディランとザ・バンドの共作アルバム『ベースメント・テープス』からで高岸がだした。

第三話に続く

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