音楽連載小説 第十七話

【第十六話はここから】

テストやレポート群も無事終わり、夏休みになって、8月になった。その間高岸に何度か学内であって※①ディスク・ユニオンの話をして今度ディスク・ユニオンの各地の店舗を2人で全制覇しようという話になった。そして僕が石崎さんと出かけた様に高岸も石田さんと集まって曲作りや意見交換をしていたみたいだった。彼は石崎さんと石田さんが付き合ってない事も知っていた。

3回目の練習の日がやってきた。この日の練習は前回とは比べ物にならないほど充実していた。まだまだ課題は残るもののバンドとして目指すべき方向性が見えていたため、修正が容易だったから、暗中模索感は大分緩和された。

それに何より高岸と石田さんが共作で作ってきた新曲が素晴らしかった。ロキシー・ミュージックからの影響を隠さない、アップテンポな曲で、おそらくこれは2人のボーカリストの声質によるところも大きいと思うが、ロキシーよりかは幾分かポップでとっつきやすさのある曲だった。歌詞はシュールでファンタジックな内容で主に石田さんがイメージを書き出して、高岸が細部を修正していったらしい。本人達曰く「自分でも何のことを歌っているのかはさっぱりわからない」らしいが独特の世界観を聴くものに印象づける一曲だった。この曲の一番素晴らしい所は2人のボーカルとコーラスで、AメロBメロを交互に歌う構成のメリハリの良さと、サビで2人が合唱するのだが、言葉数の多い疾走感のあるメロディーを息ぴったりに合わせてくるところなどは鳥肌ものだった。最終的にはそれに僕と石崎さんのハモリも時折加わって更に強力になり、仕上がりはビートルズのコーラスワークとロキシーの変態性を兼ね備えた※②スペシャルズ、またはレピッシュみたいになった。それはKatie’sは当然のこと、エーテルワイズの一番いい曲をも軽くなぎ倒せるぐらいのインパクトを持った曲で全員が手応えを感じていた。しかしながら結局僕のパートのギターのフレーズはほぼ高岸が考え出したもので、僕はまたバンドへの貢献をあまり感じることが出来ずにいた。この曲はその場で※③「Fresh!」というタイトルになり、その日の練習は結局その「Fresh!」を追い込んでいくのと前回やったエーテルワイズの曲を話し合って決めた方向性でアレンジし直すことに終始した。その結果エーテルワイズ時代の曲も一曲だけは新体制で物に出来そうだった。

練習終わりにまたいつものファミレスに入り、このまま石田高岸の共作で何曲か新曲を作り、合宿で集中的にアレンジを練ろうという話になった。更にそれぞれが宿題として聴いて来た音源の感想や分析の結果を披露して、前回作ったバンドの指針、各パートの目指すべき方向性をより具体的にしていった。ただもちろん全てガチガチにこの指針に従わなくてはいけないというわけでは無い。あくまでも目安で、余地や可能性は残しておこうという事は再度確認した。

練習の振り返りが済むと僕らは来るべき合宿の話をした。

合宿には僕ら「すとれいしぃぷす」の他に「メソポタミア文明ズ」という変な名前のバンドも参加するという。メソポタミア文明ズは石田さんと石崎さんの大学の同じ軽音サークルの3年生である藤田というベーシストが中心になって結成し、ファンクやソウルなどのブラック・ミュージックのコピーをやって、たまにオリジナルも作るという4人組のバンドだった。持ち物や宿泊費用の確認をして、当日は朝8時に高田馬場で僕と高岸を拾ってくれるという事だった。車は石崎さんが地元から前日に持ってくるという。

合宿までに各々練習や曲を書いてくるという事を約束し、その日はお開きとなった。

というわけでその日の練習は大満足に終わり、僕はもう青森への帰郷の事を考えていた。

最初は※④新幹線で八戸まで行き、そこから在来線で実家に帰るつもりだったが、合宿などの出費の事を考えると新幹線で帰るという贅沢も言っていられない。夜行バスで帰る事も考えたが※⑤「青春18きっぷ」で帰るのが一番安いという結論に達した。そしてただ鈍行で帰るのは面白く無いので途中で仙台に寄って観光してやれと思い立った。仙台には、60年代、70年代の古典的なロックばかり聴いていた僕に90年代や最近のバンドのCDを色々貸して教えてくれた佐々木という友達がいた。くるりやグレイプバイン などの日本のバンドも彼から教えてもらった。その佐々木に久しぶりに連絡をとって、もしまだ実家に帰って無いのなら仙台で遊べないかと話したら、2、3日仙台で泊まって、一緒にバイクで青森まで帰ろうという思いがけない話になった。

早速次の日に仙台に向かうことになり、荷造りを始めた。荷造りといっても大したことは無く、2、3日分の着替えと服や雑貨、※⑥文庫本2冊とCDプレイヤーをリュックサックに詰めるだけだ。問題はCDである。CDをそのままケースに入れて持っていくとかさばるので当然CDファイルケースに入れていくのだが、僕が当時使っていたのはタワレコでおまけかなんかでもらったやつで10枚ぐらいしか入らなかった。という事で10枚で長い鈍行列車の旅の往復と帰省中の間の音楽を賄わなくてはならない。

長考の結果、下記のCDを持っていくことにした。

  • 『GOLDEN BEST』井上陽水(二枚組)
  • The Best of )New Order
  • The Stone Roses / The Stone Roses
  • 『シングルス』フリッパーズ・ギター
  • The Greatest / Duran Duran 
  • The Single Collection/ David Bowie (二枚組)
  • blur : the best of
  • 『Best Sky』サニーデイ・サービス

経験上こういう時はベストアルバムが役に立つからベストアルバムばかりになってしまった。なんだかんだでいい曲が沢山入っていて収録時間が長いベストアルバムは長時間の移動に最適だ。

そうそう意外と大事なのはCDプレイヤーの替えの電池である。ということで駅前の100円ショップで単四電池と電車で飲むためのお茶と朝食用のおにぎりとゼリーを買った。だらだらと過ごして1時ぐらいに寝て、5時に起き、始発電車で仙台へと向かった。イヤホンからはサニーデイ・サービスが流れていた。

第十八話に続く

※①ディスク・ユニオンとの出会い以来、音楽の仕入れ先に中古CD屋も加わった。タワーレコード、HMV、新星堂、TSUTAYA(主にレンタル)、その他CD屋に加えて、ディスク・ユニオン、レコ・ファン、ブック・オフなどの中古チェーン店が加わったわけだ。

※②ザ・スペシャルズは70年代後半から活躍するイギリスのバンドでスカにパンクの要素を取り入れたバンドである。レピッシュもスカとパンクをミックスした様な音楽性の日本のバンドでとても格好がよい。

※③スライ&ザ・ファミリー・ストーンのアルバムから来たわけではないらしい。タイトルの経緯は忘れてしまった。

※④当時は青森駅まで新幹線は通っておらず、八戸までであった。

※⑤青春18きっぷはJRが発行している旅客切符で使用するとJRの特急や新幹線などの特別車両を除いて1日乗り放題になる。5日分で11,500円(当時)と1日2千円ちょっとでJRが乗り放題の大変お得な切符。もちろん18歳でなくても使える。

※⑥ジャック・ケルアックの『路上』(原題:On the Road)とドストエフスキー『罪と罰』の上巻。

第十八話に続く

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