音楽連載小説 第十五話

【第十四話はこちらから】

次の練習は2週間程空いて8月になってからになった。駅までの道で石崎さんが聞いた。

「そういえば2人とも実家帰るの?」

僕の実家は親戚の集まりとかも特に無いため、次の練習が終わったらすぐ帰省してお盆前に帰ってくるつもりで、高岸はお盆に金沢に帰るといった。年長組は2人とも実家が高崎と比較的近いので、特に日にちは固定して決まってないがやはり盆あたりに4、5日ぐらい帰る予定とのことだった。僕たちは年長組の後ろをとぼとぼと歩いていた。僕らの帰省に関する返事を聞いて2人は何かゴソゴソと話している。一通り話し終わると石崎さんが振り返って言った。

「親睦も兼ねてお盆明けにバンド合宿とかどうかな? 費用はおそらく2、いや3万ぐらいかかっちゃうんだけどさ」僕たちは急なことで面食らったものの合宿自体は楽しそうだったので快諾した。話し合いでテンションが高くなっていたのであんまり深く考えていなかったのもある。「OKそれじゃそれぐらいに予定空けといて」僕たちはうなずいた。

「私たちの知り合いのバンドも呼ぼうかと思ってるんだけど良いかな? 女の子も2人いるよ」と石田さん。後者の情報は別にどうでも良かったが、たった4人よりも人数が多い方が良い気はした。もちろん知らない人たちといきなり泊まりという気づまりはあった。高岸は急激に社交性を獲得しつつあったが、基本僕はそれほど人間関係に関してはあまり自分からいくタイプでも無い。けど音楽の好きな人と話をするのは好きだからバンドの人なら初対面でもいいかと言う思いもあった。色々と考えだすと面倒になってきそうだったので僕は考えるのをやめた。バンド練習とボーリング、それにかなり頭を使った話し合いでとても疲れていた。

「そもそもどうして僕たちとバンド組んでくれたんですか」と駅で別れる前に高岸が尋ねた。そうそうそれは僕もかなり気になっていた事だった。しかしそれを尋ねてしまうと全てが流れてしまうような気がしてなんとなく聞けずにいた。

「あんまりロキシー・ミュージックっぽさもなかったじゃないすか。そもそも僕らが理想とする音楽性にもまだ届いていなかったし」

うーんと石田さんは少し考えて、

「勘…かな」といった。電車の時間もあったし、みんな笑ってこれ以上の追求はなかった。

彼女の勘は半分合っていて半分間違っていた。StraySheepsは凄いバンドになった。が、それはあまり彼女のためにはならなかった。

石崎さんから早速帰りの電車の中で聴くべきプログレとネオアコのアルバムのリストが送られてきた。なるべく有名どころ、※①定番をおさえてくれた様なリストだった。

・プログレ

  • 『クリムゾンキングの宮殿』キング・クリムゾン
  • 『こわれもの』イエス
  • 『フォックストロット』ジェネシス
  • 『狂気』ピンク・フロイド
  • 『タルカス』エマーソン、レイク&パーマー

・ネオアコ

  • 『ハイ・ランド・ハードレイン』アズテック・カメラ
  • 『パシフィック・ストリート』ペイル・ファウンテンズ
  • 『スティーブ・マックイーン』プリファブ・スプラウト
  • 『カフェ・ブリュ』スタイル・カウンシル

実は僕は中学生の時プログレにハマっていた事もあってディスクガイドを買うぐらいに好きだったし、石崎さんのリストに入っていたアルバムは全部聴いたことがあって、ジェネシス以外はCDも持っていた。ネオアコはペイル・ファウンテンズとプリファブ・スプラウト以外は聴いていて、スタイル・カウンシルは大好きなバンドだった。ということで石崎さんとは意外と音楽の共通点が多いことが明らかになり、結局その日はかなり遅くまでプログレについてメールをし合って明け方にようやく寝たと思う。

僕は次の日昼頃のろのろと起き出すと早速近所のTSUTAYAでロキシー・ミュージックを借りた。石田さんがオススメしていた『サイレン』と『フォー・ユア・プレジャー』だ。それとアズテック・カメラの『ナイフ』、プリファブ・スプラウトはオリジナルアルバムがなかったのでベスト・アルバムを借りた。まず初期中期のロキシー・ミュージックを聴いて思ったのは石田さんがロキシーミュージックを好きなのはもっともだということだ。とにかくベースラインがかっこいい。対してギターは個人的にはあまり魅かれる所は無かった。ギターに関してはコステロやXTCを参考にしようと思った。

アズテック・カメラの『ナイフ』は一般的に代表作といわれる前作の『ハイランド・ハードレイン』より断然好きだった。前作よりアコースティック・サウンドは後退しエレキの比重ときっちりとしたプロダクション感が増していて好みだった。そして最後にプリファブ・スプラウトだ。最初に入っていた曲「キング・オブ・ロックンロール」はなんだかコミカルな曲調であまり好みではなかった。エルヴィス・プレスリーをモチーフにした曲のようで、ボーカルが彼の歌い方の物まねすらしている。ところが2,3曲と進むうちにどうやら1曲目はなかなか例外的な曲だとわかってきた。そして僕はプリファブ・スプラウトの音楽をのめり込む様に聴く様になった。

この時期は高良くんから教えてもらった日本語ラップとプリファブ・スプラウトを何度も何度も聴いていたと思う。今でもそれらの音楽を聴くとこの時期の事がふっと胸によみがえってきて切なくなってしまう。特にプリファブは彼らの音楽自体がもうセンチメンタルな感情を引き起こすようなサウンドだから特にだ。そうだ、それで僕は最近プリファブを聴かないように努めていたのかも知れない。気持ちの悪いいいかたかも知れないが、まるで恋愛のようにあるアーティストに心酔してしまう一時期というものがある。この時から三か月ぐらいはまさにプリファブ・スプラウトの音楽に恋をしていたと言っても過言ではなかった。

早速石崎さんにプリファブ・スプラウトとアズテックの『ナイフ』が良かったことを伝えると早速返事がきて楽しい音楽トークの続きが始まった。そして次のバンド練習の前に一度二人でCDを買いに行くことになって、一週間後に御茶ノ水駅で集合することになった。

第十六話に続く

※①あとで石崎さんは「本当はキンクリは『アイランズ』の方が好きだし、ピンク・フロイドは別にプログレバンドだとは思っていないし、アレア(イタリアのプログレバンド)とかソフト・マシーン(ウィリアム・バロウズの小説のタイトルから名前をとったイングランド出身のプログレバンド。その出自からカンタベリー・ロックともいわれる)の方が好きだし、アズテックも3枚目の『LOVE』が一番好きだったり、ぺイル・ファウンテンズも2ndのほうがすきだな」ということを言っていた。

第十六話に続く

タイトルとURLをコピーしました