今回はASIAN KUNG-FU GENERATIONが2006年に発表した3枚目のアルバム、『ファンクラブ』を取り上げたいと思います。
アジカンもキャリアが長くなってきたので、最高傑作候補も複数あります。
大ヒットシングル「リライト」を含む『ソルファ』か。
殆どの作詞作曲を担当する、ギターボーカルの後藤正文本人が自信作としている『マジックディスク』か。
本稿は3作目『ファンクラブ』こそが、アジカンのバンドとしての最高傑作である、という話をしていきます。
それでは『ファンクラブ』はどんなアルバムなのか、そして何故バンド最高傑作なのかをじっくりと解説していきます。
1. なぜ『ファンクラブ』が最高傑作なのか
i.「良い」バンドの定義
一般的にバンドっていうと、ギターとベース、ドラムだと思います。
そこにボーカルが選任だったり、ギターボーカルだったり、ギター2本の代わりにキーボードだったり、いくつかの組み合わせがあって、このようにバンドの編成には様々なバリエーションがあって様々なスタイルがありますけど、じゃあ「良い」バンドの条件ってなにか、っていわれるとどうでしょうか。
楽器同士のコンビネーションが生み出すマジックがあるかないか、と僕は考えています。
もちろん楽曲のよさも重要なポイントですが、それはバンドの良し悪しとはまた別の話で、そのチームワークの良し悪しがバンドとしての良し悪しではないでしょうか?
後藤 正文(ゴッチ):Vo&Gt
喜多 建介:Gt&Vo
山田 貴洋:Ba&Vo
伊地知 潔:Dr
アジカンのメンバーは上記の4人ですが、本作はそれぞれのパートがガッツリ組み合って、最高のバンドサウンドを作り上げているアルバムだと僕は考えています。
そういった意味でアジカンが最も「バンド」している一作、それぞれのパート同士のコンビネーションがマジックを生み出している一作が本作『ファンクラブ』なのです。
バンドをやられている方なら非常に参考になる教科書的な一作だと思います。
具体的な内容は後ほど詳しく見ていきましょう。
ii. ドラムアルバム
そんなバンドとしての充実作である本作ですが、中でもピカイチの働きをしているのが伊地知潔によるドラムです。
ドラムもメロディアス足りうるんだということを示してくれる、伊地知さんの素晴らしいプレイがいっぱい詰まってます。
ロック系のドラマーのかたは必聴ですね。
なにがどう凄いのか、後ほど詳しく一曲ごとに見ていきましょう。
ドラムといえば、まえにスティーリー・ダンの『彩(エイジャ)』というアルバムを紹介しました。
こちらもドラマー必聴ですので是非。
それでは実際に本編のハイライトとなる曲をピックアップして紹介していきたいと思います。
2. 「ファンクラブ」必聴おすすめ曲紹介
「暗号のワルツ」
慌てなくたって
何時か僕は消えてしまうけど
そうやって何度も逃げ出すから
何もないんだよ
いきなりドキッとする歌詞から始まるアルバムの一曲目。
音楽的にはとてもトリッキーな曲で、この時点で今までのアジカンのアルバムとはちょっと違うぞ、というのを見せてくれます。
ワルツというタイトル通りに最初は三拍子でズンタッターズンタッターとすすんでいきます。
途中でドラムは普通のエイトビート、つまり4拍子を叩き出すのですが、なんと、それ以外のギター、ベース、ボーカルは3拍子のままなのです!
その時点で何が起こった?? って感じになります。
更に、ドラム以外のバンドと歌はサビに突入すると4拍子に淀みなく合流して、さらに????ってなります。
その異物感がだんだん癖になる非常に中毒性の高い曲です。
聴いて下さい。聴けばわかります(笑)。
またドラムの音がめちゃくちゃ気持ちいいんですよね。
とくにドラムだけが4拍子の部分の「ドドパッ、ドトパッ」っていう音なんか最高ですね。
「ブラックアウト」
本作のハイライトの一つ。
ぐわーっと大きく盛り上がる曲ではないが、きっちりと作りこまれていて、バンドの熱量が静かに伝わってくる曲。
ギターの繰り返しのリフで始まり、それにメロディアスにベースがゆったりと印象的に絡みます。
ギターが繰り返しで曲のリズムを作り出している分、ベースが比較的自由に動いています。
ベースが聴き物です。
そしてドラムです。またまたドラムに耳が行ってしまいますね。
曲の部分部分で豊かに表情をかえる、実にメロディアスなドラミング。
ベースとドラムのリズム隊だけに注目しても楽しめる曲だと思いますね。
この曲にはPVもあって、実に印象的なPVですので是非見ていただきたいです。
まずは防犯カメラで各所の映像が映し出され、その一つ一つの映像もただの日常を切り取ったものから、結構ショッキングな場面を映したものまで様々なのですが、それで終わりません。
なんだか訳のわからない黒い物にみんなが怯えて逃げていくのです。
それがなんであるかは全く説明されず、なんとも不穏なPVになっています。
さて歌詞ですがゴッチお得意の抽象的な歌詞で、事細かにこういうことだ、と解釈したり、全体でこういうことを歌っているんだと解釈するのは難しいです。
しかし何か切実なものがつわたってくるのは確かです。
この曲はそういった意味で歌詞を「感じて」ほしいなと思った曲でもあります。
また効果的に部分部分で韻が踏まれていてそれが気持ちいいです。
印象的な一文を紹介して終わります。
真名板の鯉はその先を思い浮かべては眠る
光るプラズマTV 来る未来の映像
「ブルートレイン」
これもアジカンのバンドとしての力量を見せ付ける本作のハイライトの一つでしょう。
ギターが最初はリズムを刻む脇役に徹し、イントロからドラムが爽快に飛ばしまくります。
それにギターがフレーズを変化させて、負けじとからんでいきます。
うたが始まるまで存分に聴かせてくれます。
この曲、はっきり言って歌が主役じゃないんですね。このアルバムにはそういう点が結構あって、そういう意味では歌が聴きたいファンには不評かもしれないですね。
正直「リライト」と比べると地味に聴こえるかも知れませんが、それは歌だけに注目しているからで、バンドの演奏に注目すると実に饒舌な演奏でいいんですよ。
PVも仕掛けがあって面白いので要チェックです。
作曲はゴッチとギターの喜多さん。
「センスレス」
押され気味?だったギターの反撃です。
この曲はギターが主役でベースとドラムはダンスビートなどで盛り上げに徹していますね。
ギターでコピーしたら気持ちよさそう。ミュートされてザクザクと刻まれるギターが実にキモチいい曲。
歌もリズムを意識して放り投げられるようにメリハリ良く歌われています。
ここまま続くのかと思いきやどんどん曲は展開していき、バッキングギターの見せ場が続きます。
最後がまた展開していって最高潮に盛り上がるんですね。
『ソルファ』路線が好きな人にもオススメ。
「月光」
イントロのピアノはフランスの作曲家クロード・ドビュッシーの「月の光」。
弾いているのはドラムの伊地知さんで、本作本当に大活躍です。
6分を超える大作なんだけど、全然長さを感じない曲ですね。
静かに感動的に盛り上がり、心地よいサウンドが続きます。
広がりとおおらかさを感じる、本作の終盤を盛り上げるにふさわしい感動的なナンバー。
一曲目の「暗号のワルツ」と共に僕はアジカンの代表曲だと勝手に思っています。
そして、またしてもドラムの音がいいですねー。ギター、ベースの盛り上げ方も本当にグッときます。
まとめ
何回か言及しましたが、本作、一見地味です。
サビで露骨にグワーーッと盛り上がるわかりやすい曲(勿論盛り上がるのですが)が多いわけではありません。
しかしサビ一点集中ではなくAメロからしっかりと聴かせてくれる素晴らしい曲が沢山詰まってます。
聴き所は全部といっても過言はないでしょう。
なんとなく歌を追っかけるのではなく、バンドが一丸となって静かにしっかりと盛り上げていくのを感じて欲しいです。
もともと抽象的な歌詞が多いですが、今までのアジカンよりダークなつくりになっていることは確かです。
この後アジカンはこのしっかり聞かせる「バンド」路線、ドラム目立ち路線を進化させるのかとおもいましたが、『ソルファ』寄りの作りにまた寄っていったり、バンド以外の楽器を取り入れた多彩なサウンドの方面にすすんでいったりしました。
それはそれですばらしいのですが、バンドサウンド好きなわたくしとしましてはどうしても本作が1番好き、ということになってしまいます。
このアルバムが、気に入った方、または興味が湧いた方は、ジミー・イート・ワールド(Jimmy Eat World)というアメリカのバンドの『ブリード・アメリカン』というアルバムがオススメです。
『ファンクラブ』は静かな熱とでもいいましょうか、他のアルバムに比べで「エモい」要素は表面的には抑え気味ですが、『ブリード・アメリカン』はバンドのコンビネーションはタイトで、より「エモい」アルバムです。
なにせジミー・イート・ワールドはエモ(エモーショナル・ハードコア)という音楽ジャンルでくくられることが多いですから。
ギター(ベース含む)とドラムのコンビネーションの妙をもっと味わいたいという方は、
XTCというイギリスのバンドの『ブラック・シー』(Black Sea 1980年発表) というアルバムがオススメです。
また彼らには『ドラムス・アンド・ワイヤーズ』(Drums and Wires) というアルバムもあります。
ワイヤーというのはギターの弦のことで複数系でワイヤーズとなっているので、ギターそのものをさしています。
つまりこれはドラムとギターのアルバムなんだぜってことを宣言するタイトルです。
『ファンクラブ』も『ドラムス・アンド・ワイヤーズ』な傑作だと僕は思ってます。