スーパーカーの最高傑作はデビュー作の『スリーアウト・チェンジ』(凄くいいタイトル。青春の諦念が伝わってくる)、もしくは『HIGHVISION』、次点が『Futurama』という傾向があるんですよね。
確かに、『スリーアウト・チェンジ』はジャパニーズシューゲイザーの名盤の一つだし、『HIGHVISION』『Futurama』もエレクトロとバンドサウンドのポップな融合で新天地を開拓した傑作であるのは事実だと思います。
しかし、この風潮には異を唱えたいんですよ。
というのはあまり語られることのない最終作『ANSWER』こそ、一番格好いいスーパーカーが聴ける、最高傑作だからです。
今日はこのアルバムを推す理由と世間で評価されにくい理由の考察を含め、スーパーカーのラストアルバム、『ANSWER』を紹介していきます。
『ANSWER』はどんなアルバムか
『ANSWER』は前作である4枚目の『HIGHVISION』から一年以上のインターバルを経て2004年に発表されたアルバムでした。
そして結果的にスーパーカーの最終作になってしまいます。
プロデューサーはROVO、DUB SQUADで活躍する益子樹。
アルバムジャケットは世界的なグラフィックデザイナー、イラストレーターの田名網敬一。アートワークの監修は後期のスーパーカーのPVを手がけていた宇川直宏。
初回限定版はいわゆる縦長のボックスセットみたいなデザインになってまして、中にポスターみたいな見開きのアートワークとあとは歌詞カードが入っています。
歌詞カードは英詩と日本語詩が併記してあり、英語で歌っている部分にも日本語が振り当ててあります。
なぜ低評価なのか
前述の通り、なんかこのアルバム、言及されることが少ないんですよね。
そこでちょっと音楽面以外でのマイナス要因たりうるところを考えてみました。
コピーコントロールCD問題
今ではすっかり滅んでしまいましたが、当時はコピーコントロールCDというフォーマットが存在していました。
コピーコントロールCD(以下CCCD)はその名の通りコピーを制限するCDで、パソコンに取り込めないCDだったのです。
他の CD同様、カセットテープやMD(両方滅んでしまいましたが)には録音可能ですが、パソコンにだけは取り込めないのです。
これはかなりの反発、論争を巻き起こしました。
もちろん不正コピーなどの問題が横行していて、かなりの問題になっていました(残念ながらそれは今もそうです)。
だからといってパソコンでCDを聴く権利、iPodなどのデジタルメディアプレーヤーで音楽を奪ってもよいのか、という議論がまきおこりました。
しかも場合によっては通常の CDで上手く再生できないなどの不具合があったり、音質が通常の CDよりも悪くなるといったような話もあり、とにかく評判は最悪でした。
その折衷案として出てきたのがレーベルゲートCDでした。
レーベルゲートCDは個別の CDにIDのような番号が割り振ってあって、それでネットワーク上でその CDの情報を管理して、一回だけパソコンに取り込めるようになっているんですね。
で、2回目からは取り込みが有料になるんです。
まぁそれでも当然CCCDであることはかわらず、レーベルゲートCDにもCCCDの亜流として当然反発はあったわけです。
当然のごとくレーベルゲートCDもCCCDも廃れて行きました。
それどころか CD自体も廃れていったのは皆さんもしるところだとおもいます。
今回紹介する『ANSWER』はそのレーベルゲートCD(正確にはレーベルゲート CD2というタイプ)を採用していました。
僕は当時新しいメディアに疎くて、ずっと CDプレイヤーで音楽聴いてましたから、あんまりデメリットを感じませんでしたが、正直あまりいい気はしませんでした。
アマゾンのレビューでも本作がレーベルゲートCDである事を理由に評価が低いレビューが散見されます。
内容は評価されていてもCCCDには不満なレビューもあります。
いま手元にある 『ANSWER』のCDですが、上記のようにめんどくさいことしなくともちゃんとパソコンに取り込めます(もちろん機種によるのかもしれませんが)。
パソコン側がいまはもうCCCDでも問題ないように対応したんですね。
このようにアーティストの権利や利益を守るためのCCCDは逆に聴かれる機会や評判を奪うことになってしまったのです。
『ANSWER』もその被害者でした。
『スリーアウトチェンジ』から一番遠く、『HIGHVISION』路線でもない
なんだかんだで、とても聴き易く歌詞も共感しやすいファーストアルバム、『スリーアウトチェンジ』が凄い人気なわけです。
海外メディアとかでも日本のシューゲイザーの名盤として取り上げられたりもしますし。
『ANSWER』は最終作ですのでそこから音楽性は1番遠く感じられるんですね(まぁ実際はそうでもないんですが)。
歌詞も初期の青春を想起させる具体的な歌詞から、より抽象的で包括的な歌詞になっています。
だから『スリーアウトチェンジ』が好きな人からは1番手に取りにくいアルバムでもあります。
もうひとつの名盤の誉れ高い『HIGHVISION』ですが、これは彼らがエレクトロニカサウンドを追求した作品です。
その作品に比べるとバンドっぽさが復活している今作は、『HIGHVISION』路線を期待しているファンにとっては肩透かしを食らってしまう作品なわけです。
進化したスーパーカーはどこにいった、と。
支持を集めたサウンドとの時間的、音楽性の隔たり。
これが『ANSWER』が敬遠される理由その2です。
では『ANSWER』はどこがいいのでしょうか?
『ANSWER』の名作たる理由
上記の様な、不利な点、とっつきにくさはあるのですが、それらの偏見をとっぱらって聴いてみてほしいです。
音楽的には、3枚目、4枚目で身に着けたエレクトロサウンドと生のバンドのよさを上手く融合して、より格好いい音を作ることに成功しています。
歌詞も確かに1枚目、2枚目に比べると親しみ易さ、わかりやすさは減りましたが、一つ一つの言葉の重みが増し、行間から意味や、イメージを読み取る、より広がりのある深化した詩作だとおもいます。
『スリーアウト』は、いわば轟音ギターをならしてシンプルなロックをやってきた4人ですが、同じシンプルな作りでも、ただ隙間を埋めるような安易な音作りではなく、それぞれのパートがそれぞれに意味を持った効果的なフレーズを弾いて、完成度の高いものになっているんですね。
ファーストからここまできたんだぞと、ここまでの成長示してくれるようなつくりになってます。
ということで、歌詞の面でもサウンドの面でも今までの集大成的なものになっているんです。
それでは具体的な曲紹介にいきましょう。
曲紹介
- FREE HAND
オーケストラの本番前の音だしみたいなフレーズが繰り返される中、4つ打ちのバスドラムのビートが入ってくるという、クールでダークなイントロで始まります。
いわゆる流行っているようなEDMやハウスみたいな享楽的なものではなく、不穏なものです。
- JUSTICE BLACK
1曲目から3曲目までは似たような雰囲気のダークで格好いい曲が続くんです。この冒頭の3曲、夜、町の灯りがほとんど届かない深夜の人里離れた国道や、高速道路で聴くとめちゃ雰囲気がでるのでオススメです。
アートワークにちりばめられているコウモリのシルエットの刷り込みもあるでしょう。どことなくバットマンを想起させるダークヒーロー譚的な曲。
4つ打ちのビートとハイハットシンバルの刻みのなか、シンプルだけど印象的なギターフレーズが鳴り響きます。
そしてなんといっても格好いいのがイントロから曲を引っ張っていくベース。
本作ベースが本当に格好いいんです。ベーシスト必聴です。
- SUNSHINE FAIRYLAND
僕はこの曲と「FREE HAND」「WONDER WORD」のベースを基礎練のメニューに入れて楽しんでいました。
イントロの乾いたサウンドのドラムのフィルインが格好いい。
それぞれのパートがやっていることは非常にシンプルなんだけど、1+1+1+1が4になっていないというか、もっと大きな数になっている、もしくはより強大な1になるような感覚があります。
この前の2曲もそうですが、初期ニューオーダーみたいな引き算の美学を感じさせる曲。
- WONDER WORD
16枚目のシングル。シングルとは若干異なるアレンジ。
スーパーカーの中でも1番すきな曲かもしれません。中毒性があってこればかり聴いていた時期がありました。
今回あらためて歌詞カードみて驚いたのが、歌詞の量が初期に比べて少ないんですね。
俳句や短歌のように、実際の言葉の量より多くのことが語られていますので、気にならなかったのですが。
これは確かに歌詞になれ親しみ、その路線を期待していた初期のファンにはきついかもしれないです。
これは『A』という時系列で曲が並んでいるスーパーカーのベストを、最初から順に聴いていけば明白なんですが、どんどん歌詞が短く、抽象的になっていくんですね。
- BGM
シングル曲。
シングルとして切るには歌詞が抽象的過ぎるかもしれない。『HIGHVISION』の流れがあるとはいえ、勇気の要る決断だったと思います。
こういう所も格好いいのですが。
本曲だけ元電気グルーヴの砂原良徳(現METAFIVE)によるプロデュース。
前作『HIGHVISION』に1番近しい路線の曲。それゆえアルバムから若干浮いていないでもないです。
- RECREATION
まるで今までのバンドのキャリア、創作という行為を振り返っているような曲。
ずっと前をずっとただ前を ずっと見ていた じっとただ前を
「最初のころから前だけをみてやってきた。その成果がこの音なんだ」という宣言にも思えます。
日本語を英語の様に響かせる手法がこのアルバムでは顕著ですが、特にそれがわかりやすく出ている曲。
たとえば
いま絵になりそうな透明な鳩の絵
という歌詞が1番にありますが、この鳩がHeartに聞こえる。
その上で最後には
いま絵になりそうな透明なハートの絵
ってもうハートになってしまっているんですね。
つまり意識的にやっているんですね。
- LAST SCENE
結果論かもしれませんが解散を匂わせる歌詞です。
アルバム終盤を飾るに相応しい良曲。
これもまたバンドの歴史や重みを感じる曲です。
最後に
いかがだったでしょうか。
結構このアルバムが駄作という意見も散見されますし、納得できるものが作れなくなって解散にいたった、という意見の方もいます。
しかし、僕としてはこれだけの作品を残したんだからこの絶頂期に解散しようという前向きな姿勢を感じました。
円熟味を増したその深化したサウンドと詩作を感じてほしいとおもいます。