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レディオヘッドじゃなかったらもっと評価されていたはずのデビューアルバム『パブロ・ハニー』

このバンドのアルバムじゃなかったらもっと評価されてたのになーってアルバムありますよね。

例えばビートルズThe Beatles)のファーストアルバムPlease Please Me)とか、デビュー作としては最強のポップアルバムだと思うんですよ。

でもアルバムにとって不幸なことは、作った連中がビートルズだったんですよね…。

その後のポピュラーミュージック史を塗り替えていくようなアルバムの影にどうしても埋もれてしまうという。

ストーン・ローゼズThe Stone Roses)の2枚目(Second Coming)とか70年代的な王道ハードロックのギターサウンドとダンスミュージック、マッチョイズムを排したボーカルが混ぜ合わさった良作だったのにファーストアルバムがあまりにも完璧なキャッチーで踊れるロックミュージックだったので影が薄かったり。

今回はそんなアルバムの筆頭とでも言えるような一枚、レディオヘッド(Radiohead)のファーストアルバム『パブロ・ハニー』(Pablo Honey)について語りたいと思います。

もし、レディオヘッドが、このアルバムか2枚目の『ザ・ベンズ』(The Bends)の時に行き詰って解散してたとしたら、90年代ギターロックの秀作として本作ももっと評価されてたと思うんですよね。

ヒット曲は「Creep」一発だけだったけど他の曲もよいよ、的な。

まぁ本人達の評価も低かったり、この路線での決定的なアルバム『ザ・ベンズ』がすぐ発表されちゃったせいでこのアルバムの影響力って「Creep」を除けばものすごく限定的になっちゃったんですけど。

今回はそんな不遇のアルバム『パブロ・ハニー』の魅力を語っていきたいと思います。

1. ユー “You”

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トレモロのエフェクトの効いた不穏なギターのアルペジオから始まる6/8拍子のオープニングトラック。

メタルみたいな激しいギターリフが挿入されたり、前述の不穏だが美しいアルペジオや、変拍子的を交えた展開など、既に様々な要素が盛り込まれた曲でもあります。

デビュー作のEP『Drill』にも収録。

そちらの演奏に比べるとこのアルバムバージョンの方が演奏が上手くなってて、メリハリも効いてます。

本作にはこのEPに収録済みの作品が三曲あるんで、曲のアレンジを比較する事でこの短期間で彼らがどれぐらい進化したのかわかって面白いです。

2. クリープ “Creep”

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本人達が拒否しようと、レディオヘッドの代表曲であり、90年代を代表するロックナンバーの一つ。

鬱屈した感情を耽美的に描き出すロマンティックでありながら攻撃的な歌詞とメロディ、ギターという楽器が作り出すノイズやディストーションサウンドの魅力が存分に発揮されているサウンドプロダクション、ロックミュージックとしては最良の部類であることは間違いないです。

この曲がもたらすどうしようもない陶酔感にやられた人は多いはず。筆者も最初に夢中になって何度も何度も繰り返した曲はこれでした。

ピクシーズ(Pixies)由来でニルヴァーナ(Nirvana)が大成させて一般的になった、ヴァース部分(Aメロ)が穏やかでコーラス(サビ)で轟音ギターを鳴らす、所謂「静」と「動」のスタイルを踏襲しています。

本人達も影響を公言してますので、これはニルヴァーナを参考にしたというよりは直接的にピクシーズの影響だと思われます。というか本作は全体的にピクシーズの影響が濃いですね。

サビ前のジョニー(グリーンウッド)の「ガコッガコッ」っていうギターノイズは90年代のロックを象徴するアイコニックな音だと思います。

直後に続く暴力的な分厚いギターサウンドと併せてロックミュージックの、ギターサウンドの快楽性を体現してますよね。

同じコード進行が基本的にループされるシンプルな構成ですが、ドラムのキックとベースが裏箔がちょっとはいっていたりして微妙にダンサブルなものになっているのもポイントで、トレモロとリバーブが効いたギターのアルペジオの浮遊感と相まってゆったりとした酩酊感もあり、飽きません。

本人たちはうんざりしているかもしれませんが、シンプルな様でいて良くできた完璧なポップソングの一つだと改めて思います。

3. ハウ・ドゥ・ユー “How Do You?”

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2分強のパンクっぽさもある攻撃的な小品。

後半ピアノやギターノイズやサンプリングが入ってきてカオティックになるところは今後のレディオヘッドの展開を予感させます。

とはいえシンプル過ぎても物足りない所は正直ある一曲。それもあってか短めで終わる。

アルバムタイトルの由来となったアメリカのコメディアン二人組The Jerky Boysスケッチがサンプリングされてます。

4. ストップ・ウィスパリング “Stop Whispering”

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2つのコードだけを使用したかなりシンプルな構成を持つ一曲。

本作が他のレディオヘッドのアルバムと一番異なっている点はやはり使っているコードだとか展開のシンプルさですよね。

まあ、普通二つのコードだけで5分持つかといわれたら持たないですよね。

ファンクとかラップとかリズムの面白さで聴かせるジャンルだったら持つんですけど、そういうわけでもなく、そんなにアレンジも凝ってるわけでもないのに結構5分聴けてしまう。

それはバンドの盛り上げる部分と抑える部分の表現力と歌メロの美しさがなせる技なのかなと思ってます。

アメリカ向けの別ミックスバージョンがあるんですけど、それもいいんですよね。

オーケストラを模したようなシンセが全体を包んでいて、全体的にエコーがかかってて、キュアー(The Cure)みたいな音像になっています。

全編このミックスで聴いてみたかった気はしますね。

その方がもっと評価が高かったかもしれません。

残念ながらその別バージョンはサブスクとかでは聴けないですが、日本編終盤のCD『イッチ』に収録されています。

こちらも廃盤ですが、今のところ比較的安価で中古で手に入りますのでオススメです。

5. シンキング・アバウト・ユー “Thinking About You”

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アコースティックギターの弾き語りを基調とし、トムのエモーショナルな歌唱が胸を打つ一曲。

EP『Drill』にも収録されてるんですけど、そのバージョンはピクシーズの早い曲、もしくは、R.E.Mがやってたパンク的なカントリーみたいなガチャガチャしたアレンジ

本作収録のアレンジの方が、崇拝している相手との現在の絶望的な距離感がよりシリアスに描かれていて感動的に響くので好きです。

6. エニワン・キャンプレイ・ギター “Anyone Can Play Guitar” 

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後の『ザ・ベンズ』での緻密なギターワークにもつながる、ギターのフレージングが印象的に響くノイジーなロックナンバー。

皮肉たっぷりの攻撃的な歌詞もらしさ全開でいいですね。

ギターロックは大好きなんだけど、そのあり様だとか、ロックの行き詰まり感に辟易しているようなスタンスが滲み出ている歌詞は、バンドとしてのダイナミズムを重視しつつも従来のギターロックの枠組みから出ていこうとする、その後のレディオヘッドの歩みを予見しているようで面白い一曲。

そういう意味では本作で最重要な一曲。

7. リップコード “Ripcord” 

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これまたピクシーズの影響を受けてそうな3分強の曲。

Ripcordとはパラシュートの引綱のこと。

サビの部分でNo Ripcordと繰り返しています。落下してるのにパラシュートを開く綱がない、それぐらい先が見えない現状だってことですね。

コーラス部分(サビ)が短い言葉の繰り返しで終始するパターンは2ndの「High and Dry」や3rd「Subterranean Homesick Alien」などにも出てきており、この後紹介する「Prove Yourself」もそうですが、この頃からありました。

ピクシーズもそういうコーラスが多いので(「Debaser」「Tame」など)、またしても元ネタはそうかもしれません。

8. ベジタブル “Vegetable” 

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比較的穏やかな曲調ですが、社会から痛めつけられている主人公の反骨精神がI’m not vegetable(俺は植物人間じゃない)という一節に表れた一曲。

日本盤の訳では過激な表現のせいか、単にその意味をしらなかったのか「俺は野菜じゃない」となってましたけど…。

ブリッジ部分の一回しか出てこないメロディとバックで鳴るギターのフィードバックが美しくて震える。

9. プルーヴ・ユア・セルフ “Prove Yourself” 

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「クリープ」クラスとは言わないまでもかなり美しいメロディーラインを持つ曲。

特に歌い出し部分はこのアルバムでも随一の美しさかと。

まあこのAメロ部分はニールヤングの「Heart Of Gold」に酷似してるんですけど(笑)。ただ、その後の展開が単調なのでちょっと勿体なかったかもしれないですね。

EP『Drill』にも一曲目に収録されていて最初期の代表作と考えられていたことが伺えます。

そっちのバージョンは基本的なアレンジは一緒なんですけど、「静」と「動」のメリハリがかなり極端になっていて、このアルバムバージョンの方がいいですね。

10. アイ・キャント “I Can’t” 

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他のアルバムの曲よりも幾分かトムの歌唱の感情の振れ幅が抑えられた一曲で、そのおかげで淡々とした印象を受けるがなかなかの佳曲かと。

3分ごろから一旦曲が静かになって、ドラムのフィルインと共に盛り上がるアウトロ部分がかっこいいです。

こういう展開のさせ方もピクシーズっぽさがあります。

11. ラーギー  “Lurgee”

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淡々と続いていく穏やかな曲調にトムのエモーショナルなボーカルが心地よく響く一曲。

ある人間関係が解消されてしまった主人公が「これでいいんだ」と言い聞かせるような歌詞ですが、どこか諦念がただよっているような、穏やかなんだけれども隠しきれない感情がにじみ出るような歌がいいですね。

隠れた名曲的な良さがあって結構何度も聴いてしまう佳曲。 

12. ブロウ・アウト “Blow Out” 

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スミスの静かな曲みたいなイントロのダークな終曲。

中盤で転調してギターノイズが炸裂したり、後半もギターエフェクトを駆使した展開がある一曲ですが、やや単調な気もします。

Everything I touch turn into stone(ぼくが触ったものは全部石ころになってしまう)という一節が印象的。

まとめ

今回改めて聴きなおしてみて、思った以上にピクシーズの影響が大きいアルバムだと思いました。

装飾や凝った展開が(彼らの他のアルバムに比べると)少ない分、ロックバンド的な攻撃性やトム・ヨークのボーカルのエモーショナルな部分、歌のメロディの美しさがはっきりとわかる良くわかる一枚にもなっているかと思います。

なんだかんだ全曲キャッチーで聴きどころはあるし、個人的には頭から最後までスキップせずに聴いてるアルバムですね。

レディオヘッドのほかのアルバムは濃密過ぎで疲れるから聴きとおせないとか、好きな曲とそうでもない曲の差が結構はげしかったりするので、どうしても曲単位で楽しむことが多いですけど、本作は聴きたいときに一気に聴いちゃうことが多いです。

冒頭でも書きましたが、「あのレディオヘッドの」デビュー作品として考えてしまうと確かに物足りなさは確かにありますが、それを抜きにすると、90年代ギターロックの良質な1枚としてカウントすることに何ら違和感もないので、未聴の人は是非聴いてみてください。

レディオヘッド苦手だけどシンプルなギターロック好きという人には案外響くかもしれないですしね。

まあそういう人はこんな記事読まないんですけれども…。

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