PR

ヴァン・ヘイレン、ファーストアルバムにして最高傑作『炎の導火線』

今回はヴァン・ヘイレン(Van Halen)デビューアルバム、『炎の導火線』(Van Halen)を取り上げます。

ヴァン・ヘイレンは主に80年代を中心に活躍したアメリカン・ハードロックバンドで、このデビュー作は1978年に発表されました。

発表されるや否やその革新的なサウンド、特にエドワード・ヴァン・ヘイレン(以下エディ)のギタープレイは世界に衝撃を与えたんです(残念ながらエディは2020年10月6日に亡くなってしまいました)。

勿論エディのギタープレイは今聴いてもすごいんですけど、今回は意外と語られていない凄い点を今回は存分に語っていきます。

そしてその意外と語られていない魅力こそががこのファーストの、いえ、第一期ヴァン・ヘイレンの魅力のコアな部分だと思ってます。

Van Halen 炎の導火線 / Van Halen (2015 リマスター・エディション) [WPCR-16425]

ヴァン・ヘイレンの何が革新的で、どこが従来のロックと違っていたのか

ロックの徹底した茶化し、パロディ化

冒頭で述べたように本作の革新的だった要素の一つはのエディのギタープレイでした。

あらゆるテクニックを自在に使いこなし、かつテク偏重ではなくあくまでも音楽的な快楽を提供し続けるギタープレイは今までにありそうで無かったんですね。

後々それぞれの楽曲解説で細かく見ていきたいと思います。

そしてもう一つの革新的な要素はロックの徹底した茶化し、パロディ化です。

1978年というと既に「ロックとはこういうもの」が固まってきて、それに対するアンチテーゼとしてパンクロックが出てきたりしていたんですね。

その過程で大物ロックバンドが批判されたり、「ださいよね」といわれるようになってきました。

ヴァン・ヘイレンも音楽的にはそう言った古いロックの型を踏襲していたのですが、先人達が大真面目でやっている様なテーマをヴァン・ヘイレン、というかボーカルのデヴィッド・リー・ロスとことんチャラくやっちゃってパロディ的にしてしまうんですよね。

そういう振り切ったパーティ感覚が魅力であると同時に、そうしたロックの「今ではちょっとダサいな」って所をパロディ的にしてしまうことで、2020年代でも「ここまで振り切ってるなら逆にありだな」とおもわせるような作りになってます。

前述したエディのギターもパロディ化、相対化に当然貢献しています。

ロックの冗長な部分、泣きとかタメとか、ロックにお決まりではいっているような要素、そういうしめっぽさを排除した、徹底的にドライでクールなエンタメ、聴く人がひたすら気持ちよくなるような快楽性を重視したギタープレイは旧世代のギタリストとは一線を画していたんですね。

曲もポップで聴きやすく、無駄を省いてスパッと終わるようになってますね。

まあコテコテのハードロックも大好きなんですけど、もしこの時代におんなじ事やってたら、現在70年代のロックのオリジネーターの様には聴かれてないでしょうからね。

ヴァン・ヘイレンの方向性は間違ってなかったと思います。

ということで彼らが革新的だった要素、最大の強みは、おおきくは上記の二つですが、リズム隊、ベース(マイケル・アンソニー)ドラム(アレックス・ヴァン・ヘイレン。エディの兄)の確かな腕と魅力もヴァン・ヘイレンの大きな特徴であり強みです。

またこの時期のヴァン・ヘイレンの特徴として語っていかなきゃいけない要素が実はもう一つあります。

独特のチューニング。

普通一般的に楽器は440HzがAの音に合わさっていますが、デヴィッド・リー・ロス(以下デイヴ)がボーカルをしていた時代のヴァン・ヘイレンは半音下げと普通のレギュラーチューニングの間ぐらいのチューニングになっています。

つまり大多数の440Hzでチューニングされた音楽と無意識に一「違う」と思わせることが出来るのです。

ただ多くの人は周波数なんか気にしませんし、そんな事は意識はしないでしょう。

ただ周波数が明確に違うので「何かが他の音楽とは違う」と思わせることができます。ところがデイヴが脱退してからは意図的なのかどうかわかりませんが、440Hzになっちゃうんですよね。

まぁこの周波数については別の機会に詳しく述べたいと思います。

という事でヴァン・ヘイレンをコピーするときは周波数も変えてチューニングしなくてはなりません。

長くなりましたが楽曲解説に入ります。

1. 悪魔のハイウェイ “Runnin’ with the Devil” 

ベスト盤にも必ず入っている彼らの代表曲のオープニングナンバー。

地を這うようなスタッカート気味(音をだした瞬間にミューとさせてボッボッとならす)のベースから始まるイントロがかっこいいですね。

ギターのナットとペグの間のかなりテンションが高いところをチャラんと弾いてからギターリフが始まるんですけど、そんなの茶目っ気を最初から出してくるのもらしいです。

さていきなりなんですけれどまずはベースのマイケル・アンソニーの話からさしてもらってもいいでしょうかね笑。

ヴァン・ヘイレンといいますとどうしてもギターのエディ・ヴァン・ヘイレンのテクニックだったりフレーズであったりが何かと取り立たされますけど、ドラムのアレックスとベースのアンソニーのリズム隊も最高なんですよね。

特にベースのアンソニーのスタッカートを使ったメリハリの聴いたリズミカルなベースにいちどハマると癖になります。

本作には収録されていませんが、「アンチェーンド」と言う名曲がありましてこれのアンソニーのペースのぼぼぼぼぼぼぼ、と言うベースフレーズの気持ちよさは何とも言えないですね。

2. 暗闇の爆撃 “Eruption” 

ほぼ全編ギターソロだけの、1:42秒のインストナンバー。

当時のギター・キッズは相当衝撃を受けたのではないでしょうか。

かくいう僕も初めて聴いた時ぶっ飛びました。

エディ・ヴァン・ヘイレンといえばタッピングですね。

一時期はライトハンド奏法なんて言われてました。

弦は通常、ピックや指で弾くことで音を出すんですが、弦を押す力だけでも音を鳴らすことができて、その奏法をハンマリング・オンといいます。

そのハンマリング・オンを弦を押さえるネック側の指だけでなく、本来ピックや指で弦を弾く側の手でギター弦を指板に叩きつけて音を出すのがタッピングです。

まぁ下の動画を見てください。

実はエディ以前にも似たような演奏法を駆使しているミュージシャンはいました。

クイーンのブライアン・メイなどもそのうちの1人です。

またクラシックギターやアコースティックギタリストの界隈では一般的です。

ただ、ロックギターの分野でここまで奏法として確立させて世のギタリストたちを驚かし一般化させたのは、やはり彼の功績でありライトハンド奏法の確立者、発明者として評価されてたのはある意味妥当だと思います。

この曲だと0:57ごろからタッピングが炸裂しますね。派手ですねー。

しかしこの曲自体は当然凄いんですけどエディのギタープレイを存分に見せつけるだけの曲で、ギターインストとして意図されたものでもなんでもないので、ヴァン・ヘイレンというバンド自体の魅力を伝えきってるわけでもなく、曲として魅力があるわけでもなく、それほど日常的に熱心に聴くことはないですね。

もともとはエディが戯れに弾いていたものをプロデューサーのテッド・テンプルマンが採用したみたいです。

テッドの判断は正しく、相当なインパクトを世間に与え、ギタリストとしてのエディの存在を印象付けるにはこれ以上ない一曲です。

話はそれますが、僕はテッド・テンプルマンが好きなんです。

彼はリトル・フィートやドゥービー・ブラザーズのプロデュース、そしてハーパース・ビザールというポップバンドもやってました。

【国内盤CD】【ネコポス送料無料】ハーパース・ビザール / シークレット・ライフ+2

興味が出てきた方は是非。

3. ユー・リアリー・ガット・ミー “You Really Got Me” 

ザ・キンクスのカバー曲でデビュー曲。

カバー曲でデビューというのは昔のロックバンドには結構あって、ローリングストーンズもチャックベリーのカバー「カム・オン」でデビューしましたし、本作のプロデューサー、テッド・テンプルマンがいたハーパース・ビザールのデビュー曲もサイモン&ガーファンクルのカバーです。

以前ギターリフベスト100という企画をやったのですがかなりの上位にこのリフをランクインさせました。

そしてカバー曲ベスト10にもこの曲を選出しました。

ヴァン・ヘイレンというバンドの良さ、アイデアがとにかく詰まった一曲です。

4. 叶わぬ賭け “Ain’t Talkin’ ‘bout Love” 

この曲のギターリフは有名ですね。ベストなどにも必ず収録される代表曲です。

リズム隊が入ってからはコードを中心としたパターンになって、歌が始まってからはまた冒頭のリフに戻ります。やっぱりギターカッコいいですね。

アルバムの中では珍しくシリアスなトーンの曲です。

ということもあってヴァン・ヘイレンのチャラさや明るさが苦手なへビィ・メタルファンにも人気の一曲ですね。

ギターリフにも切迫した雰囲気を感じます。

基本歌詞に関してはこのアルバムは一貫していて「お前が欲しい…」か「俺はやばいぜ」みたいな、まぁ昔のロックに典型的なテーマです。

5. アイム・ザ・ワン “I’m the One” 

高速シャッフルナンバー。

シャッフルというのはどういうことかというと、いわゆるハネたリズム。

普通は結構ゆっくり目かそこそこのアップテンポで効果を発揮するリズムなんですけど、この曲はそれをめちゃくちゃ早くやってます。

これは正確に弾くの結構難しいかもしれないですね。同じ高速シャッフルで有名なのはスティーヴィー・レイ・ヴォーンの「ルード・ムード」があります。

最後のサビの前のブリッジ部分でドゥワップっぽいコーラスだけを聞かせる部分があるのですが、こういう所でも持ち前のパロディ精神とサービス精神が現れていますね。

とにかくどんな手を使ってでも聴き手を気持ち良くしようとしているという。

そういう姿勢が全開なのでこのバンドいいところです。

それ故「深みがない」とか「不真面目過ぎる」とか「真面目に論じる対象ではない」とされちゃったりするんですけど。

6. ジェイミーの涙 “Jamie’s Cryin'” 

ドラムのフィルインで始まるゆったり目のナンバー。

エディはタッピングを駆使した攻撃的なギターソロや、キャッチーなリフで有名ですけど、僕はリズミカルで工夫に満ちていて飽きが来ないバッキングこそがエディのギタリストとしての最大の魅力だと思っています。

リフやソロだけでなく「しっぽまでぎっしりとあんこの詰まったたい焼き」みたいに曲の頭から終わりまで美味しいギターフレーズを聴かせてくれるんですよね。

ヴァン・ヘイレンの曲ってコーラスワークがポップで気持ちいいんですよ。

エディとベースのアンソニーがコーラス入れてるんですね。

特にアンソニーがコーラスの要なんですけれどももともとベース兼ボーカルをやっていただけあって上手いんですよね。

分厚い確かなコーラスワークでしっかりと楽曲の骨組みを作ったり、メロディの補佐をすることで、曲に厚みをもたせたり、デイヴが好き勝手シャウトやアドリブっぽいフレーズを繰り出したり出来るんですよね。

マイケル・アンソニー、ヴァン・ヘイレンに不可欠な一員ですよ。

後々首になっちゃうんですけど…。

7. アトミック・パンク  “Atomic Punk”

フェイザーなどのエフェクトをガンガンにかけたフリーキーなギターのブラッシングで始まる一曲。

DJのスクラッチみたいにも聴こえますね。

イントロからエグくて最高です。

その後に続くギターもアーミング(トレモロアームというパーツをいじって弦の張力を変化させて音を上下させる)を適度に混ぜたカッコいいフレーズが続きます。

曲のイントロだけでも十分に楽しませてくれるしやっぱりエディは最高のギタリストですね。

このアルバムではギターで出来ることなんでもやりましたって言う実験精神に溢れていて最高なんですよね。

また、ただ単に「これ面白いでしょ?」ってだけじゃなくて音楽的に心地よいんです。

ソロ前のデイヴの「うわーーーぁ」って言う意味不明の叫びも知性のかけらも無い感じが好きです笑。

8. おまえは最高 “Feel Your Love Tonight”

またしてもアンソニーとエディのコーラスがキモになっている曲。

サビ部分が掛け合いになってます。

デイヴが歌ってコーラスが追っかけるタイプですね。

コーラスの「フーーッ」っていう合いの手も良いです。

今までツッコミ抜きでしれっと載せてましたけれども、邦題がメタル特有のダサかっこいい感じで面白いですね。

「おまえは最高」は原題とは全然関係ないですからね。

「ジェイミーの涙」とかはまだ理解できるのですが「叶わぬ賭け」とかどこから出てきたんですね。

またアルバムタイトルの『炎の導火線』というのも出どころ不明で面白いです。

もともとはセルフタイトル、すなわち”Van Halen”って言うアルバムタイトルですから。

9. リトル・ドリーマー “Little Dreamer”

テンションの高い曲がずっと続いてきましたけど、比較的落ち着いたブルージーなナンバー。

メンバーのプレイもデイヴの歌唱もらしさ全開というよりは無難にまとまってます。そういう意味ではこのアルバムの中で1番つまんない一曲かもしれないです。

歌が始まる前デイヴの謎の掛け声ぐらいですかね笑。

「シャラーッ」って言う。

当然悪い曲ではないんですけれども。

10. アイス・クリーム・マン – “Ice Cream Man” 

ジョン・ブリムというブルースギタリストの代表曲のカバー。

歌詞は多分にもれずやらしい。

アイス・クリームが何かしらの比喩である事は確かです。

ブルースは結構そういった身もふたもないラブソングが多いですね。

ただ基本的にそういう曲のモチーフは「ホット」なものが多いです。

というのは魅力的な異性に関しては「あいつはホットだぜ」みたいな言い方をするから。しかしこの曲は逆に「アイス」なのが発想として面白いです。

「ホット」な君に「アイス」を届けて涼しくしてあげましょうってことなんでしょうけど笑。

まぁ万一原作者の意図が文字通りアイスをうる男の話をストレートに歌っただけの曲ならすみません。

僕の心が汚れています。

しかし、まぁ少なくてもこのデイヴの歌い方でこのヴァン・ヘイレンバージョンの意図は明確です。

原曲はもっと神妙に歌われてるんですけどね。

さて、この曲のアレンジですがアコースティックギターとデイヴの歌だけで始まります。

アコースティックギターのバッキングは良くあるブルースの定番フレーズで「おお、このままよくある無難な感じで最後までいくのかな」と思わせます。

実際二番の途中までこの形式ですからね。

ところが二番のサビからリズム隊が入ってギターもエレキになり、デイヴの歌もはじけますね。

最後はお得意のポップで分厚いコーラスにダメ押しのギターソロ、デイヴもはっちゃけたチャラチャラのボーカルやシャウトで応戦します。

終わり方もロックやブルースの提携フレーズなんですが、やりすぎ感とデイヴの茶目っ気が全開で最高です。

この過剰さがヴァン・ヘイレンの良さ、原曲を完全にパロディとしてやり切る、リスペクトを感じないドライな魅力ですね。

この原曲を徹底的にパロディ的に演じる路線を更に推し進めたのが『ダイバー・ダウン』5枚目のというカバー曲ばかりのアルバムです。

ダイヴァー・ダウン (リマスター) [輸入盤][CD] / ヴァン・ヘイレン

特にロイ・オービソンのカバー「プリティー・ウーマン」なんか原曲へのリスペクト皆無な徹底的にパロディ化したカバーでプロモーション・ビデオもふざけまくっています笑。

これはロイ・オービソン怒るんじゃないかなと笑。

洒落のわかる人なら笑っておしまいかもしれないですけど。

余談ですがこういうカバーが好きなら是非リンプ・ビズキットの「フェイス」を聴いてください。

ジョージ・マイケルのカバーですが、酷くて最高です。

11. 炎の叫び “On Fire” 

ラストにふさわしいハイテンションなハードロックナンバー。

イントロのギターフレーズだけでも既に2、3曲分のアイデアが詰め込まれているような感じですよね。

とくに他の楽器がブレイクする時に鳴り響くハーモニクスが、その暴力的な音色含めて最高です。

やはりこういうアイデアを出し惜しみせずにガンガン一曲に放り込んでいくのがエディのギタープレイに人々が魅了される所以ですね。

このアイデアをガンガン詰め込んでいくおいしいスタイルは後期も健在で、評価はめちゃくちゃ低い1998年の『ヴァン・ヘイレンIII』というアルバムがあるんですけれども、これに収録されている「ウィズアウト・ユー」という曲なんか、エディの美味しいギターフレーズが堪能できて最高ですね。

まとめ

と言うわけで『炎の導火線』の魅力をたっぷり語っていきましたが、どうでしょうか。

エディのギタープレイだけじゃないってことがよくわかっていただけたかと思います。

全部で36分程度って言う短い尺も気づいたら終わってるぐらいでスリリングでダレることなく聴き通せるのでいいですね。

この後ヴァン・ヘイレンは多少の浮き沈みはあったものの順調にキャリアを重ねていき、キーボードを大胆に取り入れた『1984』というアルバムで1000万枚を超す大ヒットを記録し、名実共にアメリカン・ロックを代表するバンドになります。

しかしながら、デヴィッド・リー・ロスが『1984』を最後に脱退すると、サミー・ヘイガーというボーカリストを迎えてヴァン・ヘイレンのパロディ精神はかなり薄まり、歌詞が真面目になって、いままで茶化していたようなアメリカン・ロックをやるようになります。

ポップさはそのままなので非常に聴きやすいんですけど、デイブの道化という最大の魅力の一つをうしなったのは残念でしたね。

案の定、デイブと残ったヴァン・ヘイレンのメンバーが仲が悪く、お互いのことをアルバムタイトルで茶化し合ったりしています笑。

勿論サミー・ヘイガーの時期のヴァン・ヘイレンも魅力的な素晴らしいバンドですし個人的に好きな曲も沢山あるのですが、やはりデイヴの存在は大きく、パロディ精神を失ったバンドは今聴くと、ちょっと古臭いなという印象もありますね。

というわけでヴァン・ヘイレンで一枚選べと言われたら矢張りこのデビューアルバムになるのかなと思います。

Van Halen 炎の導火線 / Van Halen (2015 リマスター・エディション) [WPCR-16425]

未聴の方は是非。

タイトルとURLをコピーしました