日本で一番最初にミリオン、つまり100万枚うれたシングル曲ってしってますか?
それはフォーク・クルセダーズの「帰ってきたヨッパライ」という曲なんですよね。
というわけで今回はそんな大ヒットシングルを含みつつ、日本のロック黎明期の名盤として名高い1968年に発表されたフォーク・クルセダーズのアルバム『紀元弐阡年』紹介していきます。
ジャックスの『ジャックスの世界』と並ぶ日本のロック初期の名盤ですよね。
音数も限られてますし、確かに68年らしい古さはありますが、色彩感覚豊かな白黒映画の様で、その時代の持てるだけの技術と趣向を凝らした、音楽性の豊かさが味わい深い、フォークミュージックをベースに、スタジオでの実験精神と類稀なユーモアのセンスがさく裂した名盤です。
では早速内容を見ていきましょう。
1.紀元弐阡年
まっとうなカントリーソングにユーモラスな歌詞が面白いアルバム一曲目。
もともとそのバンド名が指し示しているように彼らはフォークミュージックやカントリーミュージックなどの音楽をやっていました。
当時彼らは自主制作盤の『ハレンチ』と言うアルバムを出し、その中の曲がラジオによって頻繁にオンエアされるようになっていました。
そういう背景もありレコード会社からの猛烈なラブコールによって彼らは本作でメジャーデビューすることになったんです。
その際、はしだのりひこ、が加入してこの曲の作曲者の2人(北山修と加藤和彦)と3人でザ・フォーク・クルセダーズとしてメジャーデビューしたのでした。
さてアルバムタイトルと同名の「紀元弐阡年」(読み方はきげんにせんねん)ですが、北山修の人を食ったようなユーモアと皮肉が初っ端からきいた歌詞が痛烈です。
北山修はこの後作詞家としても成功を収めていますがもともと医者志望で、しばらくしてから医療の道に進みました。
2. 帰って来たヨッパライ
日本初のミリオン超えシングル。
「テープスピードの編集」や「サンプリング的引用」を駆使した実験的コミックソングがこれだけ大ヒットしたというのも興味深いです。
内容は飲酒運転ソングなのでコンプライアンス的に今は無理でしょうね。
テンポを落として普通に歌って録音したものを、テープスピードを上げて再生するとこのような変な歌声になります。
最後にベートーヴェンの「エリーゼのために」が出てきたり、お経のリズムでビートルズの「ハード・デイズ・ナイト」を引用したりと全編に渡って実験的な試みが繰り広げられます。
これほど風変わりな大ヒットソングはこの先でてこない様な気がしますね…。
加藤和彦はこのザ・フォーク・クルセダーズの活動の後、ソロやサディスティック・ミカ・バンドなどで活躍し、日本のロックシーンを牽引していくのですが、それらの作品の先進性の萌芽がこの曲、このアルバムで見て取れます。
3. 悲しくてやりきれない
当時のヒット曲っぽいテイストあふれる正当派フォークバラードのセカンドシングル。
ヒット曲を作れということで、レコード会社の一室に軟禁されて無理矢理かかされた曲。
コンプライアンス的に今ではこのエピソードもアウトですね。でもちゃんとヒットするから凄い。
オリコン6位でした。
歌詞は童謡「ちいさい秋みつけた」の作詞でおなじみのサトウハチロー。
4. ドラキュラの恋
作詞: 北山修、作曲: 加藤和彦の、歪んだボーカル、サイケデリックでドラッギーな曲調のドラキュラを主人公にした童話的だが悲痛なラブソング。
サイケな雰囲気に風変わりな歌詞の食い合わせがまるで初期ピンク・フロイド。
ここら辺の曲がロック黎明期の作品と認定される一因かと。
ジャズの影響が大きいドラムもかっこいいです。
5. 水虫の唄
ザ・ズートルビー名義で発表された、当時いかにも流行ってそうなグループサウンズ的歌謡曲。
ハープシコードのイントロやオーケストラのバックが付いたバンド演奏で、今聴くと本当に独特のサウンドですよね。
ということでコストもそれなりにかかったかなりちゃんとした作りなんですけど、恋人にうつされた水虫によって別れた恋人との繋がりを感じるという歌詞が異質(笑)。
北山修らしいユーモアが爆発した一曲だと思います。
グループサウンズ的なスタイルを踏襲しながらもこういうおふざけをいれてくる「茶化し」の精神がいいですね。
6.オーブル街
作詞:松山猛、作曲:加藤和彦のオーケストラをフィーチャーしたバラード。
ここら辺のアレンジなんかは一見当時の歌謡曲風なんですけどテープの逆回転をいれるなどの実験的要素も入ってて、一味ちがいます。
作詞の松山猛はこの後ソロや、サディスティック・ミカ・バンドにも詩を提供するなど、加藤和彦のキャリアを語る上で欠かせない存在になっていきます。
コミカルな曲に挟まれてしまっているせいで一見地味ですけど普通にいい曲ですね。
都市生活の孤独を歌っている曲だと思います。
7.さすらいのヨッパライ
「帰ってきたヨッパライ」の続編と言える一曲。
ただ今回の舞台は日本じゃなくてアメリカ西部開拓時代。
西部劇でよく出てくるようなホイッスルと馬の蹄を模したようなパーカッションなど、曲調もそれに合わせたものになってます。
「帰ってきたヨッパライ」同様、スピードを下げて録音したものを通に再生してへの甲高い歌声を再現しています。
結局最後はまた死ぬんですけど、また復活するという同じオチ。
今度は最後に「蛍の光」を歌ったり、淀川長治の映画解説のものまねを入れるなど相変わらずやりたい放題。
8.花のかおりに
オーケストラとバンド演奏の共演の歌謡曲的な一曲なんだけど、バックのバンドの演奏が結構ロックもしくはジャズ的ですね。
加藤和彦の歌声は気品があるのでロックとかはちょっとハマりにくいんですけど、こういう上品な曲には本当にぴったりです。
9.山羊さんゆうびん
みんなが知ってる例の「白ヤギさんたら読まずに食べた」の童謡のカバー。
管楽器をフィーチャーしたNHKっぽい、奇を衒わない至極真っ当な童謡アレンジ。
一体どういうつもりでこの曲を入れてたんでしょうね。
「帰ってきたヨッパライ」は本当に国民的なヒットソングでしたので当然子供にも聞かれていたと思います。
子供への需要の1つとしてこの曲をアルバムに入れたのかもしれないですね。
10.レディー・ジェーンの伝説
5曲目の「水虫の唄」同様、ビートルズのコピーバンドという設定の、ザ・ズートルビー名義のコミックソング。
バックでテープスピードを上げたギターをさりげなく使ったりサウンド的な実験も見られます。
作詞:足柄金太、作曲:河田藤作となっていますが、河田藤作は加藤和彦さん、足柄金太は北山修さんです。
11.コブのない駱駝
コブのない駱駝、鼻の短い象、立って歩く豚の物語。
それぞれにオチがついているコミックソングですが、最後の立って歩く豚の強烈なオチにメッセージ性を感じますね。
12.何のために
作詞:北山 修、作曲:端田 宣彦のラスト曲。
今までの展開が嘘のようにものすごくシリアスなナンバー。
作曲者のはしだのりひこがボーカル。
まとめ 実験精神とバラエティ
いかがだったでしょうか。様々なタイプの曲が入っていましたよね。
そして一人ひとりの実力が発揮されたアルバムだと思います。
この後、はしだのりひこは「はしだのりひことシューベルツ」と言うバンドを結成し「風」などのヒットで見事に成功を収めます。
北山修と加藤和彦コンビのその後の活躍は前述したとおりです。
また北山修と加藤和彦コンビの曲はやっぱり魅力的で、このアルバムの根幹をなしています。
3人とも実力のあるメンバーがあつまって、レコード会社の予算を使ってスタジオで好きにいろいろ実験をして作ったアルバムですね。
日本で1番ヒットした実験的なレコードではないでしょうか。
未聴のかたは是非チェックしてみてください。
また本作は当サイトの『邦楽アルバムベスト100』にもランクインしていますので、よろしければ是非。