フォークロックの歴史的名盤、クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング『デジャ・ヴ』

凄いメンバーが集まれば、素晴らしい音楽が無条件でうまれるのか? そうではないですよね。

意外とそういうバンドやプロジェクトってこちらの期待値が大きすぎることもあって期待外れだったりします。       

ヒップホップだと割とそういう足し算って成功しているケースが多い気はするんですけどね。土台となるトラックが良ければ。

しかし今回取り上げるのは、ロックミュージック。

その足し算が奇跡的に成功している稀有な例を紹介したいと思います。それぞれ強固な世界観を持った4人のミュージシャンたちが結成したスーパーグループ 。

1970年に発表されたクロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング(CSN&Y)の名盤『デジャ・ヴ』(Déjà Vu)です。   

ロック史のなかでは屈指の名盤といわれている本作。どうして個性的なメンバーが集まりつつもバランスを保って名盤が生まれたのでしょうか。各曲を詳しく見ていきながら考察していきます。

メンバーとその経歴

まず本作の登場人物と経歴をサッと紹介しちゃいますね。       

・スティーヴン・スティルス、ニール・ヤング(元バッファロー・スプリングフィールド)

・デヴィッド・クロスビー(元ザ・バーズ)

・グラハム・ナッシュ(元ザ・ホリーズ)       

スティーヴン・スティルスニール・ヤングはカナダ出身のバンド、バッファロー・スプリングフィールド(Buffalo Springfield)でボーカリスト、ソングライター、ギタリストとして活躍していました。

デヴィッド・クロスビーボブ・ディランの秀逸なカバーで一躍人気バンドになったアメリカのバンド、ザ・バーズ(The Byrds)で同じくギタリストとして活躍。

バーズの実験的な音作りやコーラスワークに多大なる貢献をしてきたものの、1967年に同グループを脱退します。

グラハム・ナッシュはイギリスのバンド、ホリーズ(The Hollies)でギタリスト、ソングライターとして活躍し、1969年に同グループを脱退しました。

つまり皆それぞれのバンドで作曲活動に携わってきた作曲家集団ということです。

それからみんなギタリストでもあり、ボーカリストでもあります。

同じパートのミュージシャンがこんなに集まってるバンドってそうないですよね(笑)。

まずはスティーヴン・スティルス、デヴィッド・クロスビー、グラハム・ナッシュの三名が集ってCrosby, Stills & Nashを結成、1969年にセルフタイトルアルバムを発表します。

その後にニール・ヤングが加わって発表されたのが本作『デジャ・ヴ』です。それではいよいよ本編を見ていきます。

1. キャリー・オン ”Carry On”   

スティーヴン・スティルス、デヴィッド・クロスビー、グラハム・ナッシュのコーラスワークの美しさを見せつけるような、ある意味前作の延長線上にある作風のスティルス作のオープニングトラック。    メインボーカルもスティルス。

今回からグループに参加したニール・ヤングはこの曲では不参加。

前述したとおり、前作の作風に近い、3人のボーカルのハーモニーの美しさとアコースティックギターが前面に出たフォーキーな曲。それにスティルスによるロックテイストの濃いギター演奏が加わって、独特の味わいがある楽曲。       

オープンチューニングを多用したアコースティックギターを中心とした音作りと、ボーカルの分厚いハーモニーで聴かせる彼らのスタイルは当時革新的だったようで、レッド・ツェッペリンをはじめ多くのバンドに影響を与えています。

日本でも、ガロ (GARO) というフォークグループがいまして、このCS&Nの音楽スタイルから非常に大きな影響を受けてます。

ヤング抜きの前作からのファンが戸惑わないようにこの曲を最初にもってきたという配慮もあるかもしれないです。もしくはCS&Nはこういう音楽性なんだと示すための曲かもしれないですね。実際スティルスのソロボーカルの部分より三人のコーラスで聴かせている部分の方が多いですからね。       

曲の展開が途中で変わって、後半からバンド形式になります。印象的なオルガンも、ベースギターもスティルスが担当していて、彼が全体的にイニシアティブをとった曲。

ドラムは正式メンバーではない、ダラス・テイラーというセッションミュージシャン。彼が基本的にこのアルバムでたたいてます。

この曲は違うけれど、ベースはグレッグ・リーヴズという同じくセッションミュージシャン。

前に書いた通り、アコギとハーモニーがサウンドのかなめなのでドラムやベースのリズム隊は基本的に必要な時にあればいいやっていうスタンスなんでしょうね。       

内容的には恋人との別れを歌ったラブソングなんだけど、それほど暗いトーンでもなく、君は君の道をいけばいいし、僕は僕の道をいくという内容。       

単なる別れの歌じゃなくて、これからもLove、愛と関係性自体は続いていき(Carry on)、お互いに有益な関係であり続けようという歌だと解釈します。       

ここら辺の愛に関する考え方や使命感のようなものって彼らが中心にいたヒッピー文化に根差したものだと思いますね。   

2. ティーチ・ユア・チルドレン “Teach Your Children”           

グラハム・ナッシュ作詞作曲ボーカルの童謡みたいに柔らかな楽曲。メッセージも感動的でエヴァーグリーンな輝きがあるフォークソングだと思います。

アルバムの雰囲気は前作よりもすこしダークな作風になっているかと思うのですが、そんななか一種の清涼剤のような、ホッと一息できるようなナンバーを提供しているのがグラハムです。

イントロとアウトロで印象的なフレーズを見せ、全体の雰囲気をさらに柔らかなものにしているペダル・スティールギターの名演はグレイトフル・デッド(Grateful Dead)のジェリー・ガルシア。このスティールギターのフレージングって歌詞だけでは語りきれない熱い思いが感じられて僕はものすごく好きですね。

この曲もヤングが不参加なんですけど、その判断は正解だったと思います。やっぱりヤングってこの四人の中でも声のトーンとかギターフレーズとか一番癖のある存在ですから。グラハムが作り上げたこの優しい世界観を壊しそうな感じなんで。

3. カット・マイ・ヘア ”Almost Cut My Hair”

デヴィッド・クロスビー作詞作曲ボーカルのダークでスロウなテンポの一曲。髪を切ってしまいそうだって嘆く内容の歌詞。

え、たかがヘアスタイルのことだけで何をそんなに歌うことがあるのか?

と疑問ですよね。

それは当時のヒッピー文化に関係があって、髪を長く伸ばすということが、一種古い価値観への反抗とそこからの自由の象徴だったんですね。

ヒッピー文化に根差す人がそれを切るという事は相当な事なんです。

1970年代に青春を生きた人たちは、60年代のカウンターカルチャー時代の挫折と衰退の反動もあり、しらけの世代といわれています。この曲は60年代のカウンターカルチャーの時代の終わりを予兆させる曲でもあり、これからの時代を予見した一曲でもあります。そういう意味でドキュメントとしても重要な一曲。       

彼らのグループとしての持ち味だったコーラスワークを封印して、クロスビーだけの歌にしているのも興味深い決断ですね。そのことによってより個人の絶望の深さを表しているような気がします。

この曲でやっとニール・ヤングが登場してリードギターを弾いているんですけど、彼の独特の間がある情熱的なギターソロはこの楽曲にマッチしています。スティルスもギターを弾いているんですが、本当にニール・ヤングとスティルスの二人のギターは熱っぽくて最高です。

4. ヘルプレス “Helpless” 

雄大な自然を想起させるニール・ヤング作曲の四曲目。名刺代わりに一曲ずつ披露する構成にしたんですかね。ここまでの4曲でメンバー全員の曲が出そろいます。

ニール・ヤングってこういうゆったりとしたリズムやスローなテンポに情感を持たせるのがもの凄く得意なアーティストで、彼の独特のグルーヴに一度ハマると病みつきになります。D-A-Gと3つしかコードを使っていないシンプルな楽曲で、割とシンプルなコード進行も彼の特徴なんですけど、コードがシンプルな分このグルーヴで聴かせてますね。       

彼の代表曲は他のアーティストよりもはるかにゆっくり目のテンポが多くて、それが滅茶苦茶ハードでヘビーな演奏をさらに重たく聴かせるときもあれば、今回のように自然の雄大さ、ゆったりとした時間の流れを演出するのに作用するときもあります。そんなわけで実にニール・ヤングらしい曲を提供してきたなと。       

さてニール・ヤングの声は独特で、この声が苦手という方も結構いるみたいです。筆者も正直最初は苦手でした。いまでは全然慣れてしまって、逆に「この声じゃなきゃ」と思ってますが。       

とはいえ他の三人の美しいコーラスワークのなかに入ると矢張りヤングの声は目立つと思います。   

この曲のコーラスはクロスビーとスティルスとナッシュのフルメンバーでやっているのですが、いつものCS&Y的の個性が出ているハーモニーというよりは、大分オーソドックスなコーラスワークに近い気がします。それはあくまでもヤングの歌を前面に出そうという配慮からきているのかも。   

歌詞に出てくるオンタリオとはカナダの州のなまえで、カナダで一番大きな都市、トロントなどを有する州です。カナダには何度か行ったことあるんですけど、雄大な自然が無限に広がっているような国でして、どんなトロントも大都市なんですけど、自然に囲まれているという印象はぬぐえないんですよね。そんなカナダの大自然の雄大な感じ、スケールのデカさがよく出ているナンバーだと思います。

5. ウッドストック “Woodstock”

カナダの有名なシンガーソングライター、ジョニ・ミッチェルの名曲のカバー。名演。本作で一曲選ぶとしたら相当迷うけどこの曲ですね。

それぞれの持ち味が見事に融合して他では味わえない感覚を与えてくれるマジカルなナンバーだと思います。いままでの曲は作曲者の個性を前面に押し出しつつ、ほかのメンバーがサポートに回るような建付けになっていましたが、この曲は総力戦といった趣です。メインボーカルはスティーヴン・スティルス。

前作の面子、CS&Nの三人だけでもそれはそれで爽やかなハーモニーでよかったのですが、そこにまたニール・ヤングという、声もギター演奏もかなり個性の濃いアーティストが参加したことで、グループとしての音の広がり、深みがグンと増しましたね。そのことがよくわかるナンバーだと思います。

ニール・ヤングによる、触ったら手が切れてしまいそうな鋭くて情熱的なイントロ、アウトロのギターソロが最高です。

サポートメンバーであるドラムのダラス・テイラーとベースのグレッグ・リーヴズも熱演していて、まさにバンドが一丸となった曲です。必聴です。   

ウッドストックは60年代のカウンター・カルチャー、ヒッピー文化を代表するような音楽フェスティバル、ウッドストック・フェスティバル(1969年開催)の事を指しています。ヤスガー牧場という牧場が会場になり、ヤスガーの名前が歌詞でも言及されています。そんな象徴的なイベントのことを歌にするぐらいですから、強い使命感、確信のような物が演奏から歌詞から伝わってきます。

We are stardust, we are golden
We are billion-year-old carbon
And we’ve got to get ourselves
Back to the garden

我々は星屑、金色に輝いている
我々は10億年を経たカーボン
我々はエデンの園へもどらなくちゃならない

10億年を経たカーボンとはダイヤモンドのことですね。the gardenとは、theがついているので特定の「庭」という意味をさし、キリスト教文化はではそれはエデンの園のことをさします。つまり人間が堕落する前の状態、カウンターカルチャーやヒッピー文化が標榜するところの「Love&Peace」が実現した場所のことを言っています。それはまさにウッドストックフェスティバルのことも指していて、この曲はウッドストックへの力強い賛歌になっているんです。

しかしながらこのアルバムでは一方で三曲目の「オールモスト・カット・マイ・ヘア」みたいな運動の行き詰り感も歌われています。

ヒッピー文化への賛歌と、結局世の中を変えることはできていない、できないという諦念が入り混じったアルバムだなと思います。

結局ヒッピームーブメントやカウンターカルチャーが目標として掲げていたベトナム戦争は、抗議活動にも関わらず、停戦されるどころか泥沼化していったのが現実でした。

6. デジャ・ヴ “Déjà Vu” 

不思議な雰囲気を持つタイトル曲。ボーカルと作曲はデヴィッド・クロスビー。この曲からレコードだとB面になります。

クロスビーの作風は在籍していたバーズの頃からそうなんですけどサイケデリックで実験的だったりします。バーズの音楽的な領域を広げて来たり、実験的な要素を持ち込んでたのはクロスビーの功績だったりします。

この曲も何やら幻想的でダークな雰囲気を纏っていて、アルバムに深みを与えることに成功しているかと。

曲の構成も凝っています。前半はヤングは不参加で、早いパッセージでCS&Nのハーモニーを聴かせる、ヤング抜きの前作に近い作風。後半はテンポチェンジしてスローになり、じっくりとクロスビーの歌とジョン・セバスチャンによる哀愁漂うハーモニカ、スティルスのギターが聴きものです。

この曲だけやけにベースギターがメロディアスだとおもったらスティルスが弾いてるんですね。後半でもベースソロを披露しています。スティルスは本曲の影の主役ですね。

7. 僕達の家 “Our House”   

グラハム・ナッシュの童謡的なフォークソング。作風は二曲目の「ティーチ・ユア・チルドレン」とほぼ一緒。ナッシュの柔らかな歌声にマッチした小品。

当時ナッシュは先の「ウッドストック」の作者、ジョニ・ミッチェルと彼女の飼い猫二匹と同棲していたんですね。

その時の日常のひとこまからインスピレーションを得て作られた曲です。

この曲もヤングは不参加。

8. 4+20       

スティルスによるギターの弾き語り。当然作詞作曲もスティルス。

トラッド、古いフォークソングや民謡のような暗く内省的で雰囲気のある曲。

スティルスってこの4人のメンバーの中でもオールラウンダーというか、割とどんなタイプの演奏でも作曲でも器用にこなすイメージがありますね。

「この個性的な集まりがまとまっているのはこのスティルスの適応能力の高さがあってこそ」という気がします。

9. カントリー・ガール “Country Girl: Whiskey Boot Hill / Down, Down, Down / Country Girl (I Think You’re Pretty)”

後半のハイライトの一つで、ニール・ヤング作曲の壮大な組曲。

組曲といっても目まぐるしく構成が変わるわけでもなく、ゆったりとしたテンポ、ニール・ヤングの特徴とでもいうゆったりとしたグルーヴが全体を貫いています。

展開は変わるのですが、その独特のノリでずっと心地よく聴かせるナンバーともいえます。

歌詞もこの頃のヤングらしさ全開の歌詞になっています。

10. エブリバディ・アイ・ラヴ・ユー “Everybody I Love You”       

スティルスとヤングによる共作曲。

二人はバッファロー・スプリングフィールドでメインのソングライターとしてしのぎを削っていて、しばし本曲のようにそれぞれの個性がバチバチにぶつかり合う曲を発表しています。

というわけでヤングとスティルスのギターの絡み、前半と後半で曲調が変わるなど、バッファロー・スプリングフィールド風味が堪能できる曲に仕上がっています。それにほかのメンバーのコーラスが絡みあって、バッファロー・スプリングフィールド+クロスビー&ナッシュみたいな曲になっています。

曲のテーマはずばり「愛」。特定の人に向けられたものではなく、ヒッピー文化的な全方向の愛を歌っています。ある意味応援歌に近い感じですね。

という事でアルバムの最後はポジティブなメッセージで締めくくられています。

まとめ

冒頭で個性的なミュージシャンが集まり、しかもパートも被ってるのにどうしてバランスが取れたアルバムになっているのかって問いがありました。

そうです、それぞれの担当曲があって、それに合わせてそれぞれのメンバーか必要な要素を足していったから調和が取れてるんですね。

それに全員がボーカリストという事で見事なコーラスワークが彼らの売りでもあります。

また4人とも個性的なソングライターがだったため、曲のバラエティーもあり、飽きさせません。個々の楽曲の魅力は見てきた通りです。

60年代の終わりと70年代の始まりの空気感が上手くパッケージングされ、優れたドキュメントになっているのもこのアルバムの魅力の一つだと思われます。

ということで1970年に発表されたクロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング(CSN&Y)の名盤『デジャ・ヴ』(Déjà Vu)でした。

タイトルとURLをコピーしました