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80年代を代表するお洒落な名盤、ザ・スタイル・カウンシルデビュー作『カフェ・ブリュ』

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今回は1984年に発表されたザ・スタイル・カウンシル(The Style Council)の傑作デビューアルバム『カフェ・ブリュ』(Café Bleuを取り上げたいと思います。

当時人気絶頂だったパンクバンド、ザ・ジャムを解散させたポール・ウェラー(Paul Weller)が、 デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズDexys Midnight Runners)などに参加していたキーボーディストのミック・タルボット(Mick Talbot)と組んで、ジャズやソウル、果てはラップまで、自分のやりたいことをとにかく詰め込んだ、非常に熱っぽいレコードです。

様々な音楽性に手当たり次第にトライしているだけあって、少しとっ散らかっている印象のある一枚です。

しかしながら、前述したように「これがやりたいんだ」という熱量が伝わってきて、それが本作の大きな魅力になっています。

今回はザ・スタイル・カウンシル『カフェ・ブリュ』のその熱量、魅力にせまりつつ本作の個々の楽曲を解説していきたいと思います。

1. “Mick’s Blessings”

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ミック・タルボットによるアップテンポなピアノのインストナンバー。作曲もミック。

ピアノとタンバリン、ハンドクラップのみのシンプルな編成ですが、アルバムのオープニングにふさわしいワクワクするような華麗さと快活さにあふれた曲。

普通こういうイントロダクション的な曲って、何回かアルバムを聴くにつれ飛ばしてしまいがちなんですけど、これはついつい聴いてしまいますね。

なによりミック自身が非常に楽しそうに演奏している姿が想像できて、思わず顔がにやけてしまうような、いい演奏なんですよね。

2. “The Whole Point of No Return” 

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一曲目とは打って変わって、ジャズっぽいギターのバッキングと歌だけの静謐な弾き語りナンバー。

The Point of No Returnは回帰不能点という意味で、ここを過ぎてしまえば、二度と後戻りできない分岐点のことを言います。

しっとりとした演奏と憂いのある悲し気なメロディーの曲ですが、実はかなり政治的な歌詞。

上流階級や資本家の民衆への搾取に対して今こそ立ち上がるべきなんだというなかなか過激な内容になってます。

サビ部分では「(民衆が立ち上がれば、団結すれば)そんなことは簡単なんだ(it’s so easy so so easy)」と言っていますが、この憂いのあるトーン、悲しげなメロティから逆に「そんな簡単じゃない」というニュアンスが伝わってきます。

このアルバムが発売された80年代前半の頃のイギリスはサッチャー政権による改革で弱者の切り捨てや、失業者の増加などで、労働者にとって苦しい現実が続いていました。

この曲もそんな社会的な背景を元に書かれています。

このタイトルからも「ここで立ち上がらなければもうこの酷い状況はずっと続いてしまうんだ」という危機感、焦燥感が伝わってきます。

この曲だけ、レコードのスリーブに歌詞が掲載されていません。

この曲には特に耳を傾けて、言っていることをきちんと聴きとってほしいという願いもある気がします。

ザ・スタイル・カウンシルはセカンドアルバムで、さらに政治的なメッセージ性を強めていきます。

SpotifyApple Musicなどのサブスクリプションサービスだけでこのアルバムを聴いている人には伝わりようがないですが、実はこのアルバムにはライナーノーツみたいなものが封入されていて、カプチーノ・キッドを名乗る人物が、現状に対して、抗っていこうというアジテーションを繰り広げています。

こういう仕掛けからも、ポール・ウェラーはこのスタイル・カウンシルの活動をする上で、必ずしも音楽的な冒険だけを志していたわけではないということがわかるかと思います。

ミュージシャンとしてどう社会にインパクトを与えていくか、という命題もかなりあったんじゃないでしょうか。

3. “Me Ship Came In!” 

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ホーンセクションをフィーチャーした小粋なジャズのインスト曲。

ミック・タルボットのソロやホーンセクションのソロがメインとなる一曲で、こういうモロにジャズテイストの曲を自由にやりたいということであれば、やはりパンクバンドのThe Jamでは限界がありましたし、解散せざるを得なかったのかなという感じもします。

ポールのギターの出番すら殆どありません。

4. “Blue Café”

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ポール・ウェラーのギターをメインに据えたジャジーなインスト曲。

3曲目がホーンを取り入れた、にぎやかでリズミカルな曲なのに対して、こちらはストリングスを迎えたしっとりとしたナンバー。

ポールのギター演奏は一流のジャズギタリストに比べたら、テクニックもフレージングも卓越しているとは言えません。

けれども、素朴で歌心のある演奏が魅力なのかなと思います。

ここまではミックとポール、それぞれが主役の曲が交互に続く構成になっていて、The Style Councilはこの二人中心のバンドなんだということが強調されていますね。

セカンドだとインストの数がグッと減り、歌ものが中心になり、ポールの存在感がもっと前に出てくるので、この点がセカンドと本作の一番の違いかもしれません。

5. “The Paris Match” 

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Everything But the Girl(以下EBTG)のトレイシー・ソーン(Tracey Thorn)をボーカルにすえたしっとりとしたジャズバラードナンバー。

おなじくEBTGのベン・ワット(Ben Wat)がギターを担当しています。

雰囲気は前曲の「Blue Café」と似ていて、ある意味続編的にもとらえられるかと。

本作より前に発表されたミニアルバムの『Introducing The Style Council』にもこの曲の初期バージョンが収められていて、ポール自身が歌っているんですが、歌のキーが高くてちょっとキツイように感じます。

トレイシーの力強くもありながらしっとりとしたボーカルとベン・ワットの雰囲気たっぷりのギターとジャズっぽいアレンジのバックの演奏でこの曲は名曲に仕上がったと思います。

このようにスタイル・カウンシルは曲を初出の時とは違った形でアルバムに収めるということもしてますし、シングルもレコードのインチの違いで、バージョン違いの長いものを収録したりするので、同じ曲でも沢山のバージョン違いが楽しめるのも彼らの音楽の特徴です。

ちなみにこの曲は日本の音楽ユニット、パリス・マッチの名前の由来にもなりました。

6. “My Ever Changing Moods”

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ミックのピアノ伴奏とポールのボーカルだけのシンプルなアレンジで楽曲の美しさが際立つ本作のハイライト曲。

この曲は先にシングル盤が発表されてて、全然アレンジが違うんですよね。

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アップテンポで、ホーンセクションやパーカッション、リズムギターが入っています。

にぎやかで、カーティス・メイフィールドを思わせるような、ソウルテイストの濃いアレンジだったんですね。

一方このアルバムバージョンは前述した通り、ピアノと歌だけのシンプルさです。

というわけで、大きくアレンジの違うバージョンが二つ(正確にはもっと種類があるんですけど)あって、どちらが好きかといわれると個人的にはこのアルバムバージョンが好きです。

この曲のテーマはタイトルにあるように「気分や心持ちの変化」です。

作者のポール・ウェラー自身も含め「気まぐれに変化しつづけてしまう人の心持ちについて、変わりやすさ、流されやすさを憂う」というのが大意だと思います。

自分が「ずっとこの状態でいたい」と思えるような最高の気分であっても、それはやがて薄れていってしまいます。

または、不正や不満が渦巻いている世の中で、それを何とかして解決していこうという気運や志は、多くの人が一時的に持ったりするんだけど、それは日々の生活の中で忘れられていってしまう。

それらの心の移り変わりは、季節や気温の変化、朝が夜になり、夜が朝になるように、自然なことなんだけれども、やりきれないよね、という寂寥感、無常観が伝わってくる一曲なんですね。

このような歌詞の内容を考えたときに、このアルバムバージョンのシンプルなんだけどエモーショナルな演奏のほうが心に響くんです。

そう考えると歌の内容は暗めなのにアップテンポでカラッとしたアレンジのシングル盤も食い合わせとして面白くていいですよね。

とここまでの6曲だけで、ジャズっぽい曲にしろ、もうちょっとポップやソウルによった曲にしろ、フルのバンド編成ではなく、最小限のシンプルな編成のものが半数以上を占めているわけなんですけど、それで物足りなさを感じることはまったくないんですよね。

むしろ逆でそのシンプルさ故に曲そのもののもつ力強さが浮き彫りになっています。

7. “Dropping Bombs on the Whitehouse”

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なかなか物騒なタイトルの、ホーンセクションをフィーチャーしたジャズインストナンバー。

ポールとミックの共作です。サックスのソロなども入ってきますが、基本的には本作のドラムを担当するスティーブ・ホワイトをフィーチャーした曲。

タイトルにホワイトハウスが入っているのも、アメリカの政治に対する抗議的な政治的なメッセージも勿論あったと思いますが、スティーブ・ホワイトをメインに据えているからでしょう。

ちなみにスティーブ・ホワイトの弟、アラン・ホワイトもドラマーで、オアシスにセカンドアルバムから参加、オアシス解散前に脱退するまでメインのドラマーとして活躍しています。

8. “A Gospel” 

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打ち込みのドラムやシンセベースをフィーチャーした、タイトルはゴスペルなんだけど、ラップ/HIP HOPの曲。ここからレコードではB面です。

1984年というタイミングで、ラップをやるというのは、ロック畑の中では結構はやいタイミングだと思います※。

まだまだラップがチャートを席巻する時代ではありませんでした。

Dizzy Hitesというラッパーがラップしてるみたいですが、全然ネットに情報落ちてないですね…。

経歴は不明です。

加えて声質もなんとなくポール・ウェラーに似てるので、ずっと本人がラップしているのかと思っていました。

クレジットもポールなので、ラップの内容も彼が書いてそうですし、内容も本作に沿った政治的なメッセージが濃いものに仕上がっています。

※もっと早い例として、クラッシュ(The Clash)ブロンディ(Blondie)が1980年には既にラップソングを作ってます(それぞれThe Magnificent Seven」「Rapture)、佐野元春は本作と同年の1984に『VISITORS』というヒップホップを大胆に導入した一枚を作っています。

9. “Strength of Your Nature” 

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「A Gospel」同様、シンセベースや打ち込みを多用した80年代っぽい風変りなファンクナンバー。

この2曲が当時としては最先端ではあったわけですが、今聴くとこの2曲が一番古くさく聴こえるのが面白いですね。

CDやストリ―ミングで聴くと7曲目のジャズインスト、「ゴスペル」とこの曲が続くんで、どうしても流れとしてだれる感じはあります。

この並びがセカンドの隙のないアルバムの流れに比べると弱い気がしますね。

10. “You’re the Best Thing” 

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ポールがファルセット(裏声)を駆使して歌い上げる、ソウルバラードで本作のハイライトの一つ。

本作は政治的なメッセージを持った曲が多いんですけど、こういう割とストレートなラブソングも収録されています。

ポール・ウェラーはThe Jamの時代から、「Heatwave」とかR&Bの名曲をやっていたり、「悪意という名の町」(Town Called Malice)でモータウン・ソウルをやってみたり、ブラックミュージックに対する憧れみたいなものは醸しだしていたんですけど、アルバムB面ではそのテイストが炸裂してます。

この曲にも違うバージョンがあって、12インチシングルバージョンではジャジーなサックスソロとストリングスが加わっていて、こちらもなかなか味わい深いです。

11. “Here’s One That Got Away”

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アコースティックギターとバイオリンをフィーチャーした軽快でお洒落なポップナンバー。

スタイル・カウンシルはネオアコのくくりに入れられることがありますけど、そのイメージに一番近いのはこの曲かもしれません。

フリッパーズ・ギターのファーストやセカンドに近い音楽性ですよね。

アルバムのアートワークの雰囲気にもあってます。

2分半の小品で、サラッと聴けちゃうのもいいです。

12. “Headstart for Happiness” 

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多幸感あふれるR&B/ソウルナンバーで本作のハイライトの一つ。

後にスタイル・カウンシルに正式加入し、ポール・ウェラーとも結婚して、公私ともにパートナーとなるD.C. Leeとのデュエット曲です。

当人がおそらく目指していた、R&Bが持つパワフルさを基準にすると、ポール・ウェラーのボーカルはパワー不足が否めないです。

が、その分、D.C. Leeがカバーしてますし、二人の掛け合いのボーカルのハッピーなフィーリング、無邪気な多幸感はかなり魅力的ですね。

本作より前に発表されたミニアルバムの『Introducing The Style Council』にはポールのギターとミックのオルガンだけのバージョンが収録されてますが、そっちのシンプルなアレンジよりもこちらのほうが断然いいです。

13. “Council Meetin'”

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アルバムのクロージングナンバーとなるインスト曲。これもミックとポールの共作。

オープニング同様基本的にはミックのオルガンがメイン。

ですが、頭打ちのスティーヴ・ホワイトの元気なドラミングもなかなかいいんですよね。

オープニングと同じく、単なるアルバムのイントロ、アウトロ的な小品ではありません。

単体で十分聴きごたえがある名インストだと思います。

ザ・ジャムはよくも悪くもポール・ウェラーがフロントマンとして、前面に出て目立っていたようなところもあったんですけど、スタイル・カウンシルでは、ファーストより前のミニアルバムでも、セカンドでも、本作でも、ジャケットに二人が同等にフィーチャーされているように、音楽面でも、ポールとミックの存在感がキチンと同等になっているところがいいですよね。

既にザ・ジャムでロックスターになっていたポールのバンドとして見られがちだったと思うので、ミック主体のインストが複数曲入っているのも、スタイル・カウンシルはあくまで、ミックとのバンドなんだということの表明の意味もあるんじゃないでしょうか。

まとめ

正直音楽面でもメッセージ性でも、完成度だけの話なら次作の『アワ・フェイバリット・ショップ』の方が上なんですよね。

 “A Gospel”やStrength of Your Nature” みたいな、正直なくてもいいかなという曲や、本格的にジャズしちゃった”Me Ship Came In!”とか”Dropping Bombs on the Whitehouse”とか、いいんだけど彼らがやらなくてもいい気がするという曲もあります。

しかしながら、自分の好きな音楽をやることの熱量や愉しみみたいなものが、より伝わってくるのは圧倒的に本作です。

”A Gospel”とかなくてもいいとか暴言をはいちゃいましたけど、アルバムのバラエティーさには貢献してるし、正直セカンドは完成度は高いんだけどちょっと息が詰まるようなところもあります。

ということで、1stと2nd、どちらがいいか(別に比べる必要もないんですけど)というのはファンの間(少なくとも僕の中)では永遠の課題の一つになっているんじゃないですかね。

筆者も「80年代アルバムベスト30」という企画では悩んだ末にセカンドを選びましたが、こうして聴き返してみるとやっぱりファーストにすればよかったとちょっと後悔していたりします。

ファーストアルバムはかくあるべしですし、ザ・ジャムでキャリアをスタートさせて、またこんな気持ちで音楽を作れるなんてポール・ウェラーは幸運なミュージシャンだと思います。

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