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「ロック」の歴史的名盤レディオヘッド『OKコンピューター』全曲解説

1. エアバッグ “Airbag”    

なにかとこのアルバムでは「パラノイド・アンドロイド」が取りざたされますが、実はこのオープニングトラックが本作で一番「すごい」曲なんじゃないかなと。   

トリップホップ、電子音楽、ヒップホップ、民族音楽、クラシック、それに従来彼らがやっていたギターロック、そういった様々な要素をぶち込んで、優美で、かつ攻撃性を兼ね備えた壮大な楽曲に仕上がってます。

たとえばオープニングのギターリフなんかは完全にクラシックのバイオリンとかチェロとかの弦楽器の動き、息づかいをしてるんですね。またループされるドラムのブレイクビーツやスクラッチノイズはヒップホップもしくはトリップホップの影響が強いです。

ポイントは沢山の要素があるからといってバラバラのちぐはぐな曲になっているわけではなく、不思議と統一感があり、かつここでしか味わえないような感覚を与えてくれる点にあります。

それはまさにこのアルバム全体に言えることで、様々な音楽を取り入れつつもジャンル横断的なバラエティーの豊かさを感じさせるというよりかは、うまく消化してレディオヘッドオリジナルとでもいうべきサウンドを構築しているということは特筆すべき事かと。そういう意味合いで、アルバムの顔たりてるという意味でもまさに名盤の幕開けにふさわしい一曲。

また、サウンドやメロディーが恍惚とする様な美しいものであると同時にロックバンド的なダイナミズムと攻撃性を有しているという点も特筆すべきだと思います。どちらか片方を実現しているアーティストはそれなりにいるものの、両方を同時にやってのけるのはなかなかないです。

例えば本作を作るにあたって彼らが参考にしたIDMの大家、オウテカなんかがそうで、美しい上物のサウンドとは裏腹にビートがもの凄い攻撃的だったりします。本作を好きな人でオウテカを聴いたことない人は是非チェックしてみてください。

そのバランスはアルバムや楽曲によって変化はあるものの、暴力性と耽美的な要素が同居しているというのがレディオヘッドの一つの大きな特徴と強みです。

それは実は1stの頃からある要素なのですが。

2. パラノイド・アンドロイド “Paranoid Android”   

レディオヘッドの代表曲の一つ。Pitchfork の90年代の名曲ベスト200で4位だった曲。それだけのことはあって、彼らの曲の中で一曲選べといわれたらこれを挙げる人は多いかと思います。

この曲は全部で四部構成になっていて、6分のプレイタイムの中で曲の展開がコロコロと変わっていくんですね。

この構成についてはビートルズ「ハッピネス・イズ・ウォーム・ガン」クイーン「ボヘミアン・ラプソディ」が下敷きになっていて、両曲とも展開が目まぐるしく変わる奇妙なポップソングとして知られています。

後々「フィッター・ハッピアー」で出てくるコンピューターボイスも何気に登場します。

わりに複雑なアレンジを施されている楽曲ですが、実は非常に美しいメロティ-を持つ楽曲で、それはジャズピアニスト、ブラッド・メルドーによるカバーを聴くとより分かり易いです。

3. サブタレニアン・ホームシック・エイリアン “Subterranean Homesick Alien”   

独特の浮遊感が心地よい6/8拍子の曲。ベスト盤に入るような有名な2曲に挟まれてて割と地味な扱いをされてる曲ですが、僕はかなり好きですね。曲もそうだけど歌詞がいい。

大事だと思うので詳しくみていきます。

曲のタイトルはボブ・ディランの「サブタレニアン・ホームシック・ブルース(Subterranean Homesick Blues)」のパロディ。

同曲は最初期のラップソングともいわれるディランの有名曲。

タイトル以外の直接的な関連性はみられないんですけどね。「Subterranean」は、聞きなれない言葉だけども、ここでは「目に見えない、秘密の」という意味。

この曲では都市生活に疲れ切った主人公が、秘密裏に地球にやってきているエイリアンを夢想するんです。そして、その宇宙人たちを指してSubterranean Homesick Alien「目に見えないホームシックな宇宙人」といっているんですね。

The breath of the morning I keep forgetting
The smell of the warm summer air
I live in a town where you can’t smell a thing
You watch your feet for cracks in the pavement
Up above aliens hover

朝の一呼吸、僕は忘れていってる
夏のあたたかなあの空気の匂いを
僕は街に住んでいて、そこでは何の匂いも嗅げやしない
歩道の割れ目のために足元に注意するだけ、
頭上ではエイリアンが浮かんでる。

JMX訳

とこのように語り手は僕らの日常をじっと見ているエイリアンの妄想にのめりこんでいきます。

そこからエイリアン目線で、我々人類、自らの魂を締め付けている奇妙な生き物(weird creatures who lock up their spirits)についての彼らの見解が語られます。

Drill holes in themselves and live for their secrets

つまり、彼等エイリアンからすると我々は「自分が入る為の穴を開けては自分達の秘密の為に生きるおかしな生き物」なんですよね。

エイリアンに我々の生活について描写させる事で、現代社会に対する痛烈な風刺をしているんです。

そしてサビです。

They’re all uptight, uptight
Uptight, uptight
Uptight, uptight

ヴァース(サビ)部分がUptightの一語を繰り返すだけになっています。サビの単語量が少ない曲は実はレディオヘッドにありがちでして、本作では「ノー・サプライゼズ」「ザ・ツーリスト」前作では「ハイ&ドライ」とかがそうです。

文脈からすると、They’re というのはエイリアンからの目線で我々のことでしょうね。Uptight というのは色々と解釈できますがイライラしているとかピリピリしているというような意味合いです。つまり宇宙人からすると我々は自分で自分を追い込んでイライラしている奇妙な存在なんです。

2番では再び主人公の目線になり、彼(彼女かもしれませんが)がそのエイリアンにさらわれたらという夢想が繰り広げれらます。

主人公は宇宙人の母船にのって、彼らは宇宙の星々を見せてくれたり、人生の意味をわからせてくれたりするんです。しかし、そんな経験をもししたとして、それを話を周りのみんなにしてもおかしくなったと思われるだけだろうなと主人公は思います。そしてそれでまあ構わないと2番のヴァースで結論づけられているわけなんですが、続くサビは、

I’m just uptight, uptight

Uptight, uptight

となっていて、こんどはピリピリしているのは歌の主人公になっています。

たしかに我々は日々の生活で夏のあの空気の匂いを感じるこころの余裕も、2番の歌詞で宇宙人が見せてくれるようなすばらしい体験、人生の意味の知覚もないまま自らを閉じ込めて窮屈に暮らしているかもしれません。

これはアルバム全体のテーマにも通じているんですが、便利なはずの現代社会で、我々は文明とシステムそのものによって疲弊している。そしていつもUptightしている。

というのがメインのメッセージなんです。

そして、そんな生活を我々が送っていること自体への語り手のどうしようもない怒り、いらだちが最後のI’m Uptightの連呼に続いている。

そう解釈できると思います。

似たようなテーマでは前作『ザ・ベンズ』の「フェイク・プラスティック・ツリー」という曲があり、そこでは登場人物たちは「Wear out」、消耗している、自分をすり減らしてしまっている疲れ切っているというように表現されています。

人には感知することのできない宇宙人に我々が監視されてるんだという語り手の妄想を使って、我々の生活のグロテスクな部分を暴き出しつつも美しいサウンドでうっとりと聴かせてしまう名曲だと思います。

4. イグジット・ミュージック “Exit Music (For a Film)”                 

バズ・ラーマン監督作品『ロミオ+ジュリエット』のために書き下ろされた曲。説明不要かと思いますが、『ロミオとジュリエット』はイギリスの劇作家、ウィリアム・シェイクスピアによる悲劇、ラブロマンスの古典です。

ところがこの曲自体はフランコ・ゼフィレッリが監督した古い方の『ロミオとジュリエット』を思い出しながら作詞されたようです。

ギター・ボーカルのトム・ヨークのアコースティックギターによる弾き語りとして曲はスタートしますが、面白いのはエコーを効かせたその音響処理で、歌詞の内容に呼応するかのように、暗い井戸の底のような場所からまるで歌っているような感じがします。

後半からはノイズコラージュとサンプリングされた人の声みたいなコーラス、野太い歪んだベースサウンドとヘビーなドラムらが、更に曲の暗さ、状況の深刻さを引き立てます。   

5. レット・ダウン  “Let Down”    

このアルバムで一番といってもいいぐらい美しい一曲で、日本のファンの間でもかなり人気がある曲だと思います。とくに曲の後半でトムの歌がファルセット(裏声)に突入するあたりはため息のでるような美しさで、本作のハイライトの一つかと。

前作でレディオヘッドはギターバンドとして一つの完成形を見せてしまったわけなんですけど、それをこの曲ではうっとりするような幻想的で美しい方向へと注力させたような素晴らしいギターアンサンブルを披露しています。

しかしながら、曲のアレンジやメロディーの美しさとは裏腹に歌詞の内容は前曲とはまた別の暗さをたたえた内容で、「移動」に関するイメージを並びたてる一番、身体が破壊されて傷ついているようなイメージを並べた二番、ともにシニカルで自嘲的でみじめな気分を歌い上げています。

ですが、他の曲よりも歌詞の抽象度は高く、具体的にこういう状況と断定するのは難しくなっています。

6. カーマ・ポリス “Karma Police”                       

ピアノによる弾き語りで静かに幕を開ける一曲。構造的には4曲目の「イクジット・ミュージック」に似ていて、だんだんとバックの演奏が追加されて盛り上がっていく構造。そして本曲も「レット・ダウン」のように後半のトムのファルセットによる美しいメロディラインが印象的。

カーマ・ポリスというのは仲間内のジョークで、Karma(カルマ、業)の警察ということで「そんなのだとカーマポリスにしょっ引かれるぞ」みたいな感じでネタにしてたみたいなんですけど、ここら辺の乾いたユーモアを披露するところなんかは冷笑的なジョークが多いイギリスのバンドっぽいとおもいますね。

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