Corneliusキャリア最重要作にして最高傑作『Point』

今回はコーネリアスのキャリアの転換点にあたる超重要作2001年発表の『Point』を取り上げたいと思います。

コーネリアスの代表作一枚といえば前作の『Fantasma』が挙げられることが多いですが、筆者は本作こそコーネリアス(小山田圭吾)が自分のトレードマークと言える音楽性を発見したターニングポイントとなるアルバムで最高傑作だと考えています。

ひたすら気持ちの良い音を追求して作り上げられたsimpleかつ先鋭的な楽曲群が耳に心地良い名盤です。

これまでのコーネリアスのサウンド

それまでのコーネリアスの音楽は音のコラージュやサンプリング的手法理想的世界を構築していくのがメインだったんです。

それは思い返せば小山田さんが、小沢健二さんとやってたフリッパーズ・ギターの頃からそうでした。

フリッパーズのファーストアルバムは、ギターポップやネオアコと呼ばれるジャンルのエッセンスを抽出して作り出されたアルバムだったんですよね。

セカンドはそれらのギターミュージックに加えてフレンチポップや映画音楽、ボサノヴァなど、もっとお洒落な音楽的要素をプラスした作風になっています。

そしてフリッパーズの最終作になってしまった三枚目のアルバム、一般的にはフリッパーズの最高傑作とされている『ヘッド博士の世界塔』は、ビーチ・ボーイズバッファロー・スプリングフィールドなどをサンプリングしたり、同時代のマッドチェスタームーブメントを意識した(しすぎてパロディ的になってしまっている部分はあると思いますが)カラフルでポップでサイケデリックな音作りをしたサンプリングコラージュの集大成とでもいうべき名作でした。

同じ発想で引用やサンプリングメインで作られたポップアルバムがコーネリアスとして発表されたデビュー作の『The First Question Award』

そしてロックやハードロック、メタルの要素、有名リフなどをコラージュして、ポップながらもHM⚡︎HMよりのサウンドになったのがセカンドの『69⚡︎96』

つまり多くの「引用」によって成り立っていたのが、それまでのコーネリアスの音楽でした。

そしてそのソロの2作の集大成ともいえるポップコラージュアルバムが『Fantasma』でした。

しかし、思えば『Fantasma』から「音をどう聞かせるか」ということに対する拘りが見えてきているんですね。

本作『Point』では『Fantasma』のアプローチをより純化させて、一つ一つの音の面白さや透明性を追求し、それを組み合わせて心地よい音楽を作るという手法に変わったんです。

編集感覚を駆使するという意味では変わってないのかもしれませんが、結果出来上がった音楽はいままでの作品に比べるとミニマルでシンプル、しかしそれでいて芳醇な世界になってます。

これ以降のコーネリアスの音楽は本作の手法を更に推し進めたり、先鋭化したものになっています。

冒頭でキャリアの中でもかなり重要な作品といったのはそういう理由からなんです。

それでは曲を細かく見ていきたいと思います。

1. Bug (Electric Last Minute) 

Bug (Electric Last Minute)

音のコラージュでできたイントロダクション的な小品。

虫の羽音を模したハミングやノイズなどが飛び交うなか、このアルバムの要約であるかの様に、キーとなる音が小出しに紹介されていきます。

2. Point Of View Point

CORNELIUS – Point Of View Point

ざくざくと刻まれるアコースティックギターと生ドラムの気持ちのいいビート、それにコーラスワークが絡むビート主体の曲。

音はアナログ的な物を使ってるんですけど、それをサンプリングして、気持ちのいいタイミングで配置させることで、ナチュラルな響きの心地よさと電子音楽的なスクエアなビートの快楽性を同時に発動させている曲。この組み合わせみたいなものは本作のコンセプトのひとつであり、それは前作でも一部見られる動きでしたね。

都市の景観を定点撮影したものを早回しにした、PVもかなりかっこいいです。

発表当時スペースシャワーTVで本作の特集をやってまして、ほぼ全曲にプロモーションビデオが作られて放映されていました。

今YouTubeで公式チャンネルでは公開されていないものもあります。

『FIVE POINT ONE』としてソフト化されたそれは2019年に再発された物に付属しているので興味ある人は是非一度見てほしいです。

3. Smoke

Smoke

ギターという楽器の面白さを最大限活かした曲。「ギターを弾いた」というよりはギターが出すことのできる面白い音を、一つ方向性を定めてサンプリングして面白い曲にしたてた作品。

このアルバム以降小山田さんがギタリストして評価されはじめたっていう流れができたとおもうんですよね。

それがYMO再結成のツアーメンバーへの起用につながったのかなと。

『69⚡︎96』でもメタルやハードロックに接近した音作りで、ギタリスト然としたアルバム作りはしてたんですけど、その流れでは今のようなギタリストとしての評価はなかったんじゃないかなと思います。

やはり本作で一つ一つのギターサウンドにこだわり抜いた経験と実績が様々な所で必要とされはじめた、というのが流れだと思いますね。

またこの曲が気持ちいいのはギターだけでなくて、ドラムもいいんですよね。

2曲目の「Point Of View Point」もドラムきもちいいんですけど。

本作はジャケットにシールが張られていて、その裏には「サウンド点描~ 視点・論点 ラブ ミー テンダー」と書いてあるんですけど、サウンド点描とはまさに本作を言い表した言葉だと思います。

ギター、ドラムを中心に、気持ちのいい音が点でなっていてその点と点を時間の流れで曲になっていく様です。

歌もそんな曲調に合わせるように、断片的に言葉が発せられています。

4. Drop

CORNELIUS – Drop – Do It Again

水がながれてどこかに溜まっていくような音でしょうか。

ずっとバックに水の音がながれてその上で楽曲が展開していきます。

これも「Smoke」と発想は一緒で、水の気持ちいのいい音を色々と集めて一曲作ってみようという実験ですよね。

何かが水に落下する音や、水滴がポチョンと落ちる音、水をぶくぶく言わせる音などが登場します。

ちゃんとそれが実験的なテイストが強すぎるものではなく、聴きやすいポップソングになっているところがミソです。

耳に心地よい音を集めているというのも聴きやすさの一因かと。

音そのものにフォーカスをあてて、その質感を楽しむという、ここ何年かで急にポピュラーになってきたASMR(Autonomous Sensory Meridian Response)のある意味はしりといえるような曲。

そしてこの曲も、アコースティックギターと生ドラムの音、本人の声がメインで構成されていて、アナログ的な音をデジタル的に繰り返すことでグルーヴが生み出されています。

「Point Of View Point」との違いは、「水」の音がキーになっていて、その中で通奏低音的にずっとなっているという所ですね。

本作には他にも鳥の鳴き声や、虫の音、波の音がフィーチャーされており、楽器以外の自然音もサンプリングして反復させることで、楽器として機能させるというのもコンセプトの一つになっています。

5. Another View Point

Another View Point

80’sのNew Wave風ダンスパンクインスト。LCDサウンドシステムにも通じる曲調でカッコいいです。まぁこっちの方が先なんですけど。

ブリブリなっているベースギターがかっこいいです。

パンク、ニューウェーブの頃って、実はベーシストに結構フォーカスがあたっていた時代でもあって、こういうサウンドにはやはりベースが重要だなと改めて思いました。

他の曲のギターサウンドと違って、この曲のベースはサンプリング的な加工なしで、トラックにあわせて弾いていると思います。

その生々しさが格好よさを生み出しているので、当然の選択かと。

6. Tone Twilight Zone

CORNELIUS – Tone Twilight Zone

アコースティックギターがメインのインスト。

打ち込みのリズムのきっちりとしたスクエアな音像の気持ちよさと、アコースティックギターのナチュラルでホッとする響き、やエレキギターのハーモニクスサウンド、遠くでなっている虫の声など、耳や体に心地よい音で構成されたリラックスミュージック。

デジタルとアナログの理想的なミックスで癒しの空間を演出する名曲だと思います。

7. Bird Watching At Inner Forest

Bird Watching at Inner Forest

ボサノヴァサンバ的な打ち込みのリズムとアコースティックギターでブラジル音楽的を本作流に再構築したようなサウンド。

サンバが持つリズムの快楽性と攻撃性が、サンプリングされたギターやドラム、打ち込みのリズムでさらに研ぎ澄まされたような、ダンサブルで爽快感のある楽曲です。

それにタイトルが指し示すとおり、サンプリングされた鳥の鳴き声が実にリズミカルに入ってくる様子も軽快です。

ちょっとこの路線でブラジルのシンガーとかと組んで本格的に一枚作ってほしかったなと思いました。

実は本作で掘り起こされて、まだあまり着手されていない金脈なのではないかと思います。

知らないだけでもうこういう音楽はあるのかもしれないですけど。

8. I Hate Hate

CORNELIUS – I Hate Hate

小山田さんのメタル好きが爆発したような曲。

こういうメタル嗜好は前々作の『69⚡︎96』の直接的なサンプリング、ハードロックのリフの拝借であからさまなんですけど、この曲はメタルやハードロックの最も攻撃的な部分を分解してパーツにしたものを組み合わせて凶悪なHR/HMチューンを作ってやろうという試みだと思います。

ただ完全にメタルにはせずに(0:28からの展開など)ちょっと緩急があったりユーモアがあったりするのがミソですね。

終盤のブラストビートなんか本場のメタルに勝るとも劣らない興奮ももたらしてくれる名演(名編集?)です。

終わりかたも次の曲にスムーズに繋がるようにフェイドアウトしていて考えられてます。

実は前作同様、エッセンスとしては様々なジャンルの音楽が繰り広げられているんですけど、不思議と統一感があるのは、曲間のスムーズさと、とにかく「音」の快楽性にフォーカスしたという全体のコンセプトのぶれのなさから来るものでしょうね。

9. Brazil

Brazil

サンバの名曲のカバー。

ボサノヴァでもしばしスタンダードナンバーとして取り上げられる程有名な曲。

ということでもともとはポルトガル語の曲なんですけど英語に翻訳されて歌われているヴァージョンも有名でして、ここではその英語版をカバーしています。

本作では一番歌メロがはっきりしている曲ですが、全体のバランスを考えてか、歌はボコーダーかなにかで加工され、機械的な響きを帯びています。

そっけないシンプルな青と白のジャケットが黄色と緑のブラジル的イメージからかけ離れているところや、電子音楽的な作りであるため見えにくくなっていますが、本曲に限らず、ブラジル音楽的なテイストがこのアルバムでは少なからず見受けられ(6、7、11曲目)、裏テーマとも言えます。

バレアリック・サウンドのムーブメントがハウスミュージックから興ってきたことからもわかるように、実はトロピカルムードと電子音楽の相性はかなりよくって、サンバやボサノバ的なものとデジタルなものも同様に相性がいいということでしょうね。

グラフィックの世界でもネオンカラーで、トロピカルな椰子の木とか海とか太陽のイメージとかの相性がよかったりして、考えてみると不思議な組み合わせですよね。

10. Fly

Fly

「Smoke」や「I hate hate」でやったサウンドの実験を前作や前々作でやっていたような楽曲に当てはめてみたような曲。

本作の歌って、ぶつ切りな言葉の羅列に近いものだったり、電子音的に加工されていたり(「Brazil」)するのがおおいんですけど、これは小山田さんの素の歌が、一番ちゃんと聴ける曲ですね。

11. Nowhere

Nowhere

Nowhereとは、「実在しない場所」「どこなのか不明な場所」という意味で、ユートピア的、桃源郷みたいな意味合いでも使われるみたいです。

RIDEのファーストアルバムのタイトルだったりにも使われていますし、ロキシーミュージック「アヴァロン」とかもそんなニュアンスですね。

そんなわけでどこかのんびりしたホーンセクションとオーケストラがアコースティックギターとパーカッションと波の音で支えられたリズムのもとでメロディを紡ぎだす、リゾートミュージック的な、まさに理想郷を体現するようなクロージングナンバーです。

曲の終盤では段々音がフェードアウトしていっていきつんざくような電子音がのこり、Point, stop the musicとのコーラスとともに、ビートルズ「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」的なピアノのじゃーんという音がなり、その音が減衰していくなかで、ホワイトノイズが徐々に大きくなってきて、スタジオ内のどたばたする音が入って終わります。

このホワイトノイズ、所謂テープを録音したときにかすかにずっとなっている「サーっ」っていう音ですけど、これも我々が録音物を聴いてるときにずっとなっている「音」なんだぜ、っていうメッセージ的なものを感じますよね。

このホワイトノイズがクローズアップされて音量が大きくなるにつれて、段々これが雨みたいに聞こえてきたり、音楽的に聞こえてくるので面白いです。

また、曲間がつながっているのもそうですけど、この終わり方も一曲目の音の羅列に対になる形で、また「音」を強調して終わっており、アルバムトータルの流れが重視されていますね。

まとめ

どうでしたでしょうか。

今までの「引用」メインなサンプリングではなく、自分で採取した音の再構築がメインのサンプリングに移行した結果、「音」そのものの芳醇な味わいと、オリジナリティーの高い音楽性を獲得した大傑作だと思います。

実は前年の2000年にスティング「ブラン・ニュー・デイ」という曲のリミックスをやってるんですけど、それが本作の下敷き、大きなヒントになったのではないかと思っています。

Brand New Day (Cornelius Mix)

そのリミックスではスティングのアコースティックギターをサンプリングしてボサノヴァ的フレーズに編集し直して、リズムトラックの一部としてループさせているんですよね。

その音は前作『Fantasma』的ではなくもう殆ど本作の音作りに近くて、聞けば一発で「あ、これはコーネリアスのミックスだな」とわかるコーネリアスのシグネチャーサウンドに仕上がっています。

このアナログ音源をサンプリングしてデジタルデータとして配置するのと、ブラジル音楽的アプローチが、これが大きな本作へのヒント、布石になったんじゃないかと思っています。

実際このリミックスは本作収録の「Tone Twilight Zone」と作りが似ています。

コーネリアスが世界進出したのは『Fantasma』によってですが、その評価を決定的にしたのはやはり本作だと思いますし、ele-kingという音楽雑誌/Webメディアが企画した「エレキングが選ぶ邦楽100枚のアルバム」にも本作はかなりの高評価でした(どのくらい評価が高かったかは本誌でご確認ください)。

そのような高評価がかなり納得できる内容ですし、本作で提示された手法から広がる水脈のようなものはかなり大きいのではないかと今回レビューを書いてみて改めて思いましたね。

ということでコーネリアスの大傑作アルバム『Point』でした。

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