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歓迎ムードだったはずが、なぜか今は低評価。そんなに悪いか? デヴィッド・ボウイ『アワーズ』

2018/08/13
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何年か経ってみたら当時とは評価が違っていた。

そんなことってあったりしないでしょうか。

今日はデヴィッド・ボウイ(David Bowie)の1999年に発表された、まさにそんなアルバム、『アワーズ…』(hours…)を紹介したいと思います。

ボウイが亡くなってから早2年が過ぎ、ますます再評価の機運が高まっていますが、90年代の作品郡はいまだに評価ちょっと低めです。

事実今回紹介したい『アワーズ…』も、ウェブマガジンでデヴィッド・ボウイのアルバムをランク付けする企画のなかで残念ながら下の方にランクされることが多いです。

が、そんなに悪いアルバムでしょうか(他のアルバムが良すぎて相対的に評価がさがってしまっているのもあるでしょうが…)。

僕はデヴィッド・ボウイのアルバムで、初めてリアルタイムで買ったのがこのアルバムだったので、バイアスがかかっていることもあるでしょうが、気に入っているアルバムのひとつで、定期的に聴いています。

このまま見過ごされていくのも勿体ないですので、発表当時の状況も踏まえつつ、紹介していきたいとおもいます。

発表当時の反応、背景

このアルバムのリリースを知ったのは、雑誌『rockin’on』を立ち上げた渋谷陽一氏のラジオ『ワールド・ロック・ナウ』でした。

当時の新譜紹介コーナーで数曲かかっていたのです。

その放送の後、なけなしの小遣いを握り締めて近所のTSUTAYAにCDを買いにいったのを覚えています。

当時ラジオで渋谷氏がいっていたり、また、日本版ライナーノーツでthe Yellow Monkeyの吉井和哉氏が書いているように、

「久々に昔のようなボウイが帰ってきた」というような受け取られ方、売り出し方をされていました。

確かに前作にあたる、ドラムンベースやジャングルビートを取り入れた『アースリング』、その前の『アウトサイド』はかなりの意欲作、実験的な作風で、往年のファンからすると、戸惑いの多い作品が続いてきました。

それらに比べると、『アワーズ』は割と聴きやすい普通の「ロック」寄りの仕上がりになっていて、

「いよいよあのころのボウイに近い作品がでてきたか!」と盛り上がるのも無理もなかったかもしれません。

考えてみると83年発表の『レッツ・ダンス』からポップスター的大衆路線を歩みはじめ、区切りがついたとおもったら今度は自分の存在をあえて前にうちださずに、バンド、ティン・マシーンを始動(1988)。

またソロに戻り、ジャズやソウル寄りの『ブラック・タイ・ホワイト・ノイズ』。

小説「郊外のブッダ(The Buddha Of Suburbia )」のドラマ化のサウンドトラックとして作られた『郊外のブッダ』。

それらを経て、前述した『アウトサイド』『アースリング』の発表です。

70年代のカルトヒーロー的な「古きよき」デヴィッド・ボウイを求めていた人たちにとってはかなり長い間待たされて出てきた作品といっても過言ではなく、そういった人たちから熱狂的に迎え入れられてもおかしくはないアルバムでした。

個人的にも、このアルバムの前にボウイをまったく聴いたことがなかったわけではなく、ベストアルバムを聴いて、その後、1972年発表の代表作『ジギー・スターダスト』にのめり込んでいたので、70年代のデヴィッド・ボウイにある程度親しみがあり、すんなりとこのアルバムの雰囲気には入っていけました。

『アワーズ』はこんなアルバム

といっても実情は昔に立ち返ったようなサウンドを目指していたわけではありません。

もともとはOmikron: The Nomad Soulというゲームのために曲を作っていたのです。

「思ったよりもいい曲が結構な量できたのでアルバムにしよう」というところから始まった企画のようです。

それに90年代のこれまでのボウイ完全に異なったアプローチをされたわけではなく、地続きの部分もあります。

このアルバムの収録曲は、基本的にティン・マシーン時代からのパートナーであるギタリストのリーブス・ガブレルス(Reeves Gabrels)との共作で、むしろ彼のギターも、『アウトサイド』『アースリング』より、多くフィーチャーされています。

また、実は新しい試みもなされています。

このアルバムはメジャーアーティストによるインターネットでのダウンロード音源販売の初の試みだったのです。

ダウンロードでのリリースは実際にCDが発売される2週間も前のことでした。

いまでこそあたり前のことですし、ついにCDを出さないまま、無料のダウンロードやストリーミングだけてメジャーなアーティストになってしまった、チャンス・ザ・ラッパー(Chance The Rapper)のような存在さえいますが、当時は画期的でした。

しかしそのとき僕はそんな事実もしらず、ボウイ本人がTwitterやFacebookが登場するはるか前から、Web上でファンと交流していることも少しあとになってから知ったのでした。

その事実を知ったとき、「あのデヴィッド・ボウイと英語できてネットにつながっていれば話ができるのか!!」と驚き喜んだと同時に、当時は自分の中で言語化できていませんでしたが、アーティストの持つ神話性が崩れてしまうのではないかという予兆を感じていました。

このことについてはまた別の機会に話したいとおもいます。

それではいくつかの曲を個別に見ていきましょう。


曲紹介

  • 「サーズデイ・チャイルド」Thursday’s Child

女性コーラスが効果的にフィーチャーされたミドルテンポの落ち着いた曲。

シングル曲。前作アースリングでの爽やかさがここに息づいているような気がします。

  • 「サヴァイブ」Survive

バックでなっている、リーヴスのギターが気持ちいい。

のびのびとした彼のギタープレイが堪能できます。

  • 「セブン」Seven

アコースティックギターの弾き語りっぽい感じで始まるミドルテンポの曲。

  • 「ワッツ・リアリー・ハプニング」What’s Really Happening

カッコいい不穏なギターのイントロで始まる曲。

なんとなくベルリン3部作時代のボウイを彷彿とさせます。

  • 「プリティ・シングス・アー・ゴーイング・トゥ・ヘル」The Pretty Things Are Going to Hell

日本では本作から最初にシングルカットされた曲。

アップテンポで、ギターがメインとなった「ロック」っぽい仕上がり。

この曲のイメージが本作の「原点回帰」的にとらえられた所以かもしれません。

  • 「ブリリアント・アドベンチャー」Brilliant Adventure

笛や琴っぽいシンセサウンドの和物っぽいインスト曲。

当時はなんでは収録されていたのかよくわからない曲でしたが、ゲームのサントラだったと聞いて納得しました。

  • 「ウィー・オール・ゴー・スルー」We All Go Through

日本版のみのボーナストラックですが、これが割と悪くなく、本来の「ザ・ドリーマーズ」The Dreamersより本作の最後のトラックとして機能している気がします。

世間や批評家の反応

残念ながらセールスも振るわず、「ジギースターダスト」以来の全米チャートトップ40入りを逃すという不名誉な結果に終わりました。

本格的にボウイの復活ととらえられ、チャートのセールスもよくなるのは次作の『ヒーザン』を待たねばなりませんでした。

しかし、「サーズデイ・チャイルド 」や「プリティ・シングス・アー・ゴーイング・トゥ・ヘル」などのシンプルで聴きやすい曲も入っていますし、ボウイのファンであれば無視するのはもったいないアルバムと思います。

このあとの『ヒーザン』ではリーヴスと袂を分かち、2016年発表の遺作、『★(ブラックスター)』まで、再び実験的、先鋭的で、それでいてセールスもついてくるという70年代のような全盛期のクリエィティヴィティを発揮し続けました。

ボウイのディスコグラフィーのなかでも少し肩の力を抜いて、シンプルに曲を作って見たという、ちょっと一息ついたようなアルバムだったのかもしれません。

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