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【アルバムレビュー】ピンク・フロイド『炎〜あなたがここにいてほしい』大ヒットアルバムの後のプレッシャーをはねのけて如何にして新たな傑作を作り上げたか

2019/01/05
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こんにちは、今回はピンク・フロイド (Pink Floyd) の9枚目のアルバム『炎〜あなたがここにいてほしい』(原題:Wish you were here)を取り上げたいと思います。

曲をつくったり、文章を書いたり、何か表現活動をしている人なら一度は、「何も出てこない」「何も思い浮かばない」そんなスランプに陥って苦しんだことはないでしょうか。

ピンク・フロイドも大ヒットした前作『狂気』(原題:The Dark Side of the Moon)の成功のあとでスランプに陥ってしまったようでした。

「何も歌うべきことがない」「表現すべきことがない」「歌うべきことはやりつくしてしまった」そんな大きな壁を乗り越えて作られたアルバム、ピンク・フロイドの『炎〜あなたがここにいてほしい』(原題:Wish you were hereを紹介したいと思います。

前作の大成功のプレッシャーをどう乗り越えたか、

そして出来上がったものはどんなすばらしいアルバムだったのか。

存分に語っていきたいとおもいます。



『炎〜あなたがここにいてほしい』とは


『炎〜あなたがここにいてほしい』(Wish You Were Here)は、1975年に発表されたピンク・フロイドの9枚目のアルバムです。

ジャケットのデザインは前作『狂気』に引き続き、イギリスのデザイングループ、ヒプノシスによるもの。

二人のビジネスマンが握手をしていますが、片方のビジネスマンが炎に包まれています。

これは”Getting burned”という表現が印税支払いを拒否されたアーティストの間でよく使われていたことからきています。

邦題の「炎」はここからとられたのでしょう。

オリジナルのレコードでは、このジャケットは黒い収縮包装フィルムで覆われていました。

収録曲はわずか5曲、全44分28秒。

前述した大ヒット作、『狂気』の後に発表されました。

トータルの売り上げ枚数は2004年時点で約1,300万枚。

前作もとんでもない売り上げを誇っていますが、続く今作もとんでもない売り上げです。

前作の巨大な壁

結果的に前作に引き続き大成功した今作ですが、その道のりは平坦じゃなかったんですね。

それもそのはず、前作『狂気』は「人生」「時間」「お金」「戦争」などの大きなテーマを取り扱い、それをコンセプト・アルバムとして一枚にまとめ上げてしまったとてつもない傑作だったのです。

しかもそういった「アート」的な作品が売れなかったのなら、次は商業的な成功を目指すことも出来ました。

しかし、そうして完成した『狂気』は大ヒットしてしまい、史上最も売り上げたアルバムの一つになっちゃったんですね。

世の中の全てを包括するような内容のきわめて芸術性の高い素晴らしい出来のアルバム。

そんな傑作が、大ヒットしてしまったあと、次にいったいどんな作品を作れというのでしょうか。

どう、乗り越えたか、ボツになった実験的なプロジェクト

もともと彼らが『炎』の前に計画していたのは”Household Objects”というプロジェクトでした。

いわゆる家庭内にあるもの、ハンドミキサーやラバーバンド、ワイングラスなどを楽器として使用し、それでアルバムを作ろうという試みです。

もともと彼らは実験的要素の強いバンドで、こういったサウンド・エフェクトや効果音をうまくレコードに組み込んできたバンドでした。

彼らの原点に戻ろうとしたのです。

しかしその計画はすぐに頓挫してしまい、「通常の」曲作りに戻らざるを得ませんでした。

そこでどうしたか。

彼らは巨大な成功に戸惑っている自分たちの状況をそのまま歌うことでクリアしたのですね。

それが、「ようこそマシーンへ」(Welcome To The Machine)、「葉巻はいかが」(Have A Cigar)というミュージック・ビジネス、音楽業界について歌った二曲に結実しました。

それでは実際の収録曲を見ていきましょう。



曲紹介

  • 「クレイジーダイヤモンド」(Shine On You Crazy Diamond)

九つのパートに別れ、パート1から5までがアルバムの最初に収録され、残りの6から9までがアルバムの最後に収められています。

本作はこの曲に挟まれるようにしてなりたっています。

『ジョジョの奇妙な冒険』が好きならピンときかたもしれません。

そう、第四部に出てくるクレイジーダイアモンドという能力の名前の由来はこれが元ネタです。

実はピンク・フロイドは最初から前述の4人のメンバーだったわけではなく、最初はデヴィッド・ギルモアは加入しておらず、シド・バレットというメインのソングライター、ボーカルでギタリストだった人物がいたんですね。

しかし、シドはドラッグに溺れ、精神を病み、ピンク・フロイドとしての活動は困難になっていきました。

クレイジー・ダイヤモンドとはシドのことであり、この曲はシドにささげられました。

タイトルのShine On You Crazy Diamondの頭文字をとるとSYD(シド)になるようになっています。

本曲で有名なのは3分54秒ぐらいから始まるギターのイントロのフレーズです。

単純なフレーズですが音の響きが非常にここちよく、ついギターで弾いてみたくなります。
実際楽器の試奏でこのフレーズを弾いている人がいて、このフレーズを弾いて、「ドヤァ」ってこっちを見てきてうざおもしろかったですね。

このギターフレーズですが、大きなスタジオで反響を利用して録音されました。

いまならエフェクターやコンピューターの力で簡単に再現できる音かもしれません。

そう、ピンク・フロイドは音響や音像にとことんこだわったバンドでもあったんですね。

それが今日まで聴き続けられるひとつの要因だとおもいます。

曲としての仕上がり、質感を非常に重視した。

結果耐久性の高い作品を生み出すことができているのです。

  • 「ようこそマシーンへ」(Welcome To The Machine)

前述の通り、ミュージックビジネスについての歌。前半は自伝的な内容になってます。

生活に退屈して、学校に息苦しさを感じた少年がギターを手に取る。

ロックスターを夢見てミュージック・ビジネスへの第一歩を踏み出す。

Machineというのは音楽業界のシステムそのものでしょう。

しかし学校や家庭というシステムの退屈さから抜け出したのに、その受け入れ先はやはり別のシステムでしかないという皮肉です。

  • 「葉巻はいかが?」(Have a Cigar)

本作の個人的なベストトラックですね。

ボーカルはイギリスのフォークミュージシャン、ロイ・ハーパー。

レッド・ツェッペリンのファンならピンとくるかもしれません。

そう「ハッツ・オフ・トゥ・ロイ・ハーパー」のあのロイ・ハーパーです。

最初は作曲者のロジャー・ウォーターズが歌う予定だったのですが、どうもしっくりこず、デヴィッド・ギルモアに頼むも、彼が歌詞をあまり気に入らず、歌いたがらなかっため、同じくアビー・ロード・スタジオで収録していたロイ・ハーパーが歌うことになりました。

皮肉たっぷりのサーカスティックな歌い方がいいんですよね。

作曲者のロジャーはそれがあんまり今でも気に入っておらず後悔しているみたいですが。

内容は「ようこそマシーンへ」に引き続き、音楽産業の話。

レコード会社の重役が、話しかけてきているという面白い形式をとっています。

邦題は「葉巻はいかが?」とやや丁寧な口調だけど、まぁ内容を加味して訳すなら「まぁ君、葉巻でもやりたまへ」みたいな感じでしょうか。

散々バンドをほめ散らかしておいて

「ところでPinkっていうのはいったい、どいつなんだい?」(Oh, by the way, which one’s Pink?)

と聞いてきます。

つまり自分たち(ピンク・フロイド)のことなんてまったくわからずに金儲けの道具としてただおだててきているだけなんですね。

強烈な皮肉です。

これは実体験からきてるようで、実際にそんなようなことをいう連中によく遭遇していたみたいです。

エンディングのギターソロがとても格好いい。「クレイジーダイヤモンド」のギターリフ、この曲のギターソロ、「あなたがここにいてほしい」のアコースティック・ギターのイントロなど、ギターの聴き所が多いのも本作の特徴で、ギタリスト必聴ですね。

デヴィッド・ギルモアというギタリストは超人的で卓越したギターテクニックをもっているわけではないのですが、本当に音楽的で、いいギターフレーズを弾くので大好きなギタリストです。

  • 「あなたがここにいてほしい」(Wish You Were Here)

おそらくピンク・フロイドの曲の中でも一二を争う人気曲でしょう。

12弦ギターの有名なイントロで始まる美しいバラードです。

この曲、メインの作曲はデヴィッド・ギルモアで、作詞はロジャー・ウォーターズなんですが、双方の曲の捉え方が異なっていて興味深いです。

この曲もシド・バレットを思って書かれた曲という一般的な理解があって、ギルモアは歌うときは必ずシドのこと思い出さずにいられないと語っているんだけれど、対して作詞者のウォーターズは自分自身に向けている曲だと発言してるんです。

あとはギターソロにあわせてギルモアがスキャットで歌うのですが、これが結構音程高い。

それほど高音域の歌が多いわけでもないので、デヴィッド・ギルモアは実は結構高い声出るんだなとびっくりしました。



まとめ

いかがでしたでしょうか。

メンバーのデヴィッド・ギルモアとリチャード・ライトも本作を一番のお気に入りにあげています。

さらに深い内容を知りたい方にはThe Story of Wish You Were Hereというドキュメンタリーも出ていますので是非どうぞ。

正直僕は最初はこのアルバムをあんまり気に入っていなくて、地味な曲が多いなとおもっていたんですね。

しかし偶然、The Story of Wish You Were Hereを飛行機の中で見て、もういちど聴いてみたらはまってしまった次第です。

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