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Pink Floyd名盤『炎〜あなたがここにいてほしい』

曲をつくったり、文章を書いたり、何か表現活動をしている人なら一度は、「何も出てこない」「何も思い浮かばない」そんなスランプに陥って苦しんだことがあるきがします。

実はピンク・フロイド (Pink Floyd) も大ヒットした『狂気』(原題:The Dark Side of the Moon)の成功のあとでスランプに陥ってしまったんですね。

ということで「何も歌うべきことがない」「表現すべきことがない」「歌うべきことはやりつくしてしまった」そんな大きな壁を乗り越えて作られたアルバム、ピンク・フロイドの9枚目のアルバム『炎〜あなたがここにいてほしい』(原題:Wish you were hereを紹介したいと思います。

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『炎〜あなたがここにいてほしい』の概要

『炎〜あなたがここにいてほしい』(原題:Wish you were hereは前述した大ヒット作、『狂気』の後に発表されました。

収録曲はわずか5曲、全44分28秒。

トータルの売り上げ枚数は2004年時点で約1,300万枚。

前作もとんでもない売り上げを誇っていますが、続く今作もとんでもない売り上げです。

ジャケットのデザインは『狂気』に引き続き、イギリスのデザイングループ、ヒプノシスによるもの。

二人のビジネスマンが握手をしていますが、片方のビジネスマンが炎に包まれています。

これは“Getting burned”という表現が、印税支払いを拒否されたアーティストの間でよく使われていたことからきています。

邦題の「炎」はここからとられたのでしょう。

オリジナルのレコードでは、このジャケットは黒い収縮包装フィルムで覆われていました。

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前作の巨大な壁

結果的に前作に引き続き大成功した今作ですが、その道のりは平坦ではありませんでした。

それもそのはず、前作『狂気』は「人生」「時間」「お金」「戦争」などの大きなテーマを取り扱い、それをコンセプト・アルバムとして一枚にまとめ上げてしまったとてつもない傑作だったのです。

しかもそういった「アート」的な作品が売れなかったのなら、次は商業的な成功を目指すことも出来ました。

しかし、そうして完成した『狂気』は大ヒットしてしまい、史上最も売り上げたアルバムの一つになってしまったんですね。

世の中の全てを包括するような内容のきわめて芸術性の高い素晴らしい出来のアルバム。

そんな傑作が、大ヒットしてしまったあと、次にいったいどんな作品を作れというのでしょうか。考えただけでもおそろしいです。

なので一旦自分たちの活動をリセットしようとしたのか、実におかしなアルバムを作ろうとしたんです。

ボツになった実験的プロジェクト「Household Objects」

実は彼らが『狂気』のあとに計画していたのは”Household Objects”というプロジェクトでした。

いわゆる家庭内にあるもの、ハンドミキサーやラバーバンド、ワイングラスなどを楽器として使用し、それでアルバムを作ろうという試みです。

もともと彼らは実験的要素の強いバンドで、こういったサウンド・エフェクトや効果音をうまくレコードに組み込んできたバンドだったので、そこまで突拍子な話でもなかったんです。

しかしその計画はすぐに頓挫、「通常の」曲作りに戻らざるを得ませんでした。

そこでどうしたか。

彼らは巨大な成功に戸惑っている自分たちの状況をそのまま歌うことでクリアしたんですね

それが、「ようこそマシーンへ」(Welcome To The Machine)、「葉巻はいかが」(Have A Cigar)というミュージック・ビジネス、音楽業界について歌った二曲に結実。

残りはピンク・フロイドの元中心メンバーで音楽活動からドロップアウトしてしまったシド・バレットにささげられています。

それでは実際にアルバム収録曲を見ていきます。

1.クレイジーダイヤモンド “Shine On You Crazy Diamond Part 1-5”

九つのパートに別れ、パート1から5までがアルバムの最初に収録され、残りの6から9までがアルバムの最後に収められています。

本作はこの曲に挟まれるようにして成り立っています。

異常なぐらいのシンプルさと長い間の取り方で、スケールがデカそうに聴こえるという名曲。

シンプルだけどスカスカじゃなくて非常に音楽的な芳醇さがある一曲。

前述した通り、実はピンク・フロイドにはシド・バレットというメインのソングライター、ボーカルでギタリストだった人物がいたんです。

しかし、シドはドラッグに溺れ、精神を病み、ピンク・フロイドとしての活動は困難になり、そのあとソロ活動も行っていたのですが、音楽から離れざるを得ない状況になっていきました。

クレイジー・ダイヤモンドとはシドのことであり、この曲はシドにささげられました。

タイトルのShine On You Crazy Diamondの頭文字をとるとSYD(シド)になるようになっています。

本曲で有名なのは3分54秒ぐらいから始まるギターのイントロのフレーズです。

3音しか使っていない非常にシンプルなフレーズですが音の響きが非常にここちよいです。

このギターフレーズですが、大きなスタジオで反響を利用して録音されました。

いまならエフェクターやコンピューターの力で簡単に再現できる音かもしれません。

そう、ピンク・フロイドは音響や音像にとことんこだわったバンドでもあったんですね。

曲としての仕上がり、音の質感を非常に重視していました。

それが結果耐久性の高い作品に結実し、彼らの音楽が今日まで聴き続けられるひとつの要因だとおもいます。

2. ようこそマシーンへ “Welcome To The Machine”

アコースティックギターと様々なエフェクトを凝らした主張の激しいシンセを基調とし、 シンセベースと生ベースを重ねたパートがメインのリズムになってるやや変則的なナンバー。

デヴィッド・ギルモアのボーカルがかなりエモーショナルなミュージックビジネスについてのナンバー。

前半は自伝的な内容になってます。

生活に退屈して、学校に息苦しさを感じた少年がギターを手に取り、ロックスターを夢見てミュージック・ビジネスへの第一歩を踏み出す。

しかし学校や家庭というシステムの退屈さから抜け出したのに、その受け入れ先はやはり別のシステムでしかないという皮肉な結末になります。

こういう皮肉たっぷりなオチを用意する歌詞の構造というのはロジャー・ウォーターズの得意とするところで前作『狂気』にもちょくちょく出てきます。

この学校のシステムの息苦しさへの批判的な目線は、後程傑作『ザ・ウォール』に結実し、学校は結局国家の言いなりになる人物を生産している工場みたいなものという過激な表現になっていきます。

ここでのMachineというのは音楽業界のシステムそのものでしょう。

3. 葉巻はいかが? “Have a Cigar”

本作の個人的なベストトラックですね。

ボーカルはイギリスのフォークミュージシャン、ロイ・ハーパーのゆったり目ですがハードでエモーショナルなロックナンバー。

スロウでファンキーなリズムアレンジなどは前作収録の傑作「Money」に通じるところはありますね。

ロイ・ハーパーはレッド・ツェッペリンのファンならピンとくるかもしれません。

そう「ハッツ・オフ・トゥ・ロイ・ハーパー」のあのロイ・ハーパーです。

最初は作曲者のロジャー・ウォーターズが歌う予定だったのですが、どうもしっくりこず、デヴィッド・ギルモアに頼むも、彼が歌詞をあまり気に入らず、歌いたがらなかっため、同じくアビー・ロード・スタジオで収録していたロイ・ハーパーが歌うことになりました。

作曲者のロジャーはそれがあんまり今でも気に入っておらず後悔しているみたいですが、ロイの皮肉たっぷりのサーカスティックな歌い方がいいんですよね。

内容は「ようこそマシーンへ」に引き続き、音楽産業の話。

レコード会社の重役が、ピンク・フロイドのメンバーに話しかけてきているという面白い形式をとっています。

邦題は「葉巻はいかが?」とやや丁寧な口調だけど、まぁ内容を加味して訳すなら「まぁ君、葉巻でもやりたまへ」みたいな感じでしょうか。

散々バンドをほめ散らかしておいて

「ところでPinkっていうのはいったい、どいつなんだい?」(Oh, by the way, which one’s Pink?)

と聞いてきます。

つまり自分たち(ピンク・フロイド)のことなんてまったくわからずに金儲けの道具としてただおだててきているだけなんですね。

強烈な皮肉です。

これは実体験からきてるようで、実際にそんなようなことをいう連中によく遭遇していたみたいです。

成功した人間に集まってくる醜悪な人間模様を皮肉交じりに描いているんですけど、同じ経験をしている人が限られてるので、どれだけの人間が共感できるんだと思いますけど(笑)。

エンディングのギターソロがとても格好いいですね。

「クレイジーダイヤモンド」のギターリフ、この曲のギターソロ、「あなたがここにいてほしい」のアコースティック・ギターのイントロなど、ギターの聴き所が多いのも本作の特徴で、ギタリスト必聴ですね。

デヴィッド・ギルモアというギタリストは超人的で卓越したギターテクニックをもっているわけではないのですが、本当に音楽的で、いいギターフレーズを弾くので大好きなギタリストです。

4. あなたがここにいてほしい “Wish You Were Here”

おそらくピンク・フロイドの曲の中でも一二を争う人気曲で、12弦ギターの有名なイントロで始まる美しいバラード。

メインの作曲はデヴィッド・ギルモアで、作詞はロジャー・ウォーターズなんですが、双方の曲の捉え方が異なっていて興味深いです。

この曲もシド・バレットを思って書かれた曲という一般的な理解があって、ギルモアは歌うときは必ずシドのこと思い出さずにいられないと語っているんだけれど、対して作詞者のウォーターズは自分自身に向けている曲だと発言してるんです。

あとはギターソロにあわせてギルモアがスキャットで歌うのですが、これが結構音程高い。

それほど高音域の歌が多いわけでもないので、デヴィッド・ギルモアは実は結構高い声出るんだなとびっくりしましますね。

5. クレイジーダイヤモンド “Shine on you crazy diamond Part 6-9”

アルバムの最後をしめるくくる組曲。

シンセのソロパートから始まり、ギターソロパート。

ギターソロの後半ではスライドバーとエフェクトでワーミーみたいなサウンドでトム・モレロみたいなギターソロになってます。

一曲目のテーマ部分である歌パートに戻り、後は終わりに向かって緩やかなインストが展開されていきます。

というとこでタイトルは一曲目と同じで歌パートも一緒なんですけど、イントロから徐々に盛り上がってくる壮大さがあった一曲目と異なり、この終曲はやや冗長といえるでしょう。

まとめ

ということで、全曲見てきました。

正直前作『狂気』ほどの完成度の高さではなく、2曲目と終曲はやや弱い感じがしますが、他の楽曲はとにかくインパクト大の名曲で、前作にはやや劣るものの名盤であることには変わりはないかと思いますし、最高傑作とするファンもいても全然不思議ではない一作ですね。

メンバーのデヴィッド・ギルモアとリチャード・ライトも実は本作を一番のお気に入りにあげています。

ただ本作より後はロジャー・ウォーターズのソロプロジェクト的な要素が強くなってきてしまい、バンドとしての一体感があるのは個人的には本作までだと思っています。

さらに深い内容を知りたい方にはThe Story of Wish You Were Hereというドキュメンタリーも出ていますので是非どうぞ。

Pink Floyd ピンク・フロイド / The Story Of Wish You Were Here■北米版ブルーレイ■BD
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