前回からまたもや2ヶ月間間隔が空いてしまいましたが、7月、8月の備忘録をお送りしたいと思います。
東京オリンピックがコロナ禍で反対ムードもあるなか開催され、開会式に音楽演出で関わる予定だった小山田圭吾氏が過去の「いじめ問題」によりキャンセルされ、フジロックも開催に対する賛否両論ありながらも有観客で開催と、この2か月で大きなニュースがいくつかありました。
個人的には6月からスタートさせた80年代のランキングにまだ取り組んでまして、忙しくしてました。
アルバムの方は結果を発表、そして曲ランキングは未だ集計中ということで。
という事でそんな中、個人的に新しく出会い、入れ込んだアルバム、曲たちを紹介していきます。
Vince Staples「Are you with that?」
今年発売されたセルフタイトルアルバムから、ドリーミーな音色に包まれたポップなヒップホップチューン。
2分ちょっとしかない曲で、ものすごくキャッチーで、すぐ終わっちゃうんで、何度も何度も繰り返して聴いてしまいました。
と、この様に聴きやすくて中毒性のあるポップさをもつ曲なんですけど、サウンドのキャッチーさとは裏腹に彼が育ってきた、黒人コミュニティーがおかれている環境の過酷さが描かれてます。
Vince Staplesはドラッグはおろかアルコールすらやらないことで有名なんですけど、そういった彼の「クリーンさ」についてのインタビューで「生き残るために必死だったからドラッグやアルコールについて考える暇がなかった、とその育ってきた環境の過酷さを語っています※①。
Childish Gambino 「3005」
「This is America」が日本でもお茶の間レベルで話題になったドナルド・グローヴァーことチャイルディッシュ・ガンビーノの2013年作、『Because the Internet』からの一曲。
ここ1,2ヵ月で最もヘビーローテーションした曲ですね。
恋人との未来に対する不安な気持ち、自分の中にある孤独感や憂鬱を綴ったでラブソングで、まくしたてるラップ部分とポップで切ないフック(サビ)の部分の対比がたまらないですね。
ラップ部分ではサブベースを聴かせたヒップホップっぽい作りですが、サビの部分では分厚いシンセサウンドで作り上げた、ゴージャスで、壮大で、それでいてサイレンっぽい音をフィーチャーしたどこか不穏な雰囲気で、サウンド的な対比も素晴らしいです。
「僕たちの関係は3005年まで続いているだろうか」って曲で、3005年って全然現実的な年号じゃないけど、それにはからくりがあって、千の位の3と一の位の5を足すと8になり、それを横倒しすると∞になる、つまり永遠を示唆しているんじゃないかって言われています。
観覧車で撮影したプロモーションビデオも秀逸でして、ドナルド・グローヴァーはもともとコメディアン、俳優としてキャリアをスタートさせただけあって、その虚ろな表情がなんとも言えない憂いをたたえていてグッときちゃうんですよ。
不穏な雰囲気が増幅されていく構成も見事で、これは必見です。
Lil Uzi Vert 「XO Tour Llif3」
フィラデルフィア出身の人気ラッパー、リル・ウージー・ヴァートの2017年のヒット曲。
最初は商業ベースじゃなくて無料音源としてSoundCloudにUPされました。
ジャンル的にはエモラップに分類されていて、そのラベリング通り、非常にエモーショナルな仕上がりになってます。もともと彼はパラモアっていうエモバンドが好きだったりするので、このエモーショナルさは彼にとっては自然な表現かもしれないですね。
自分もそういうエモくて、ダークで、それでいてポップなところがこの曲の魅力だと思ってます。
XOはHugs & Kissesという意味で、昔は手紙とかでXXXと最後に書いて、Kissを送るみたいな文化があったんですけど、それのネットスラングバージョンのようなもの。親密な相手に送ります。で、この曲の背景にThe Weekndとのツアーがあったりしたんで、タイトルにTour Lifeってはいってるんですね。The Weekndは後述するプロモーションビデオにも出演してます。
この曲は、元恋人Brittany Byrdとの関係性について歌った曲なんですけれども、ここら辺の私生活の切り売りの仕方みたいなのも今っぽいって言うか、SNSなどでアーティストが発信する私生活の文脈がわかってないと、なかなか曲の意図まで読み取りにくいところとか、2010年代以降の、SNS時代のトレンドど真ん中って感じですね。
ラップはその形式上、どうしても私小説的な要素が入ってこざるを得ないところはあるんですけど、それがますます加速しているのかもしれません。
この曲はファッションブランド、Off Whiteと組んだプロモーションビデオもかなり面白いので是非チェックしてもらいたいです。とにかくいろんな要素がてんこ盛りになってるんですよ。
まずイントロからして昔の VHS テープ時代のような、画面が荒くなってるようなエフェクトがかかっていて、人がゾンビ化するというホラーテイストも入っていたり、雷のアニメ的に大げさなエフェクトが入っていたり、アラビア語の字幕が入っていたりと、かっこいいと思った要素を全部詰め込んできてるんだけど、ぐちゃっとせずに一つの作品としてちゃんと格好よく見せてるところとかもすごいなと思います。
ここら辺の全部のせ感みたいなのってやっぱりヒップホップにしかない強みだと思いますし、その強みは先鋭的なファッションブランドとの親和性が高い所ですので、ロックミュージシャンと違って企業のタイアップもつきやすいので、ラッパーの大きな収入源になっています。
3R2 『Tek.Experience』
台湾の電子音楽家による2018年リリースのバッキバキのハードテクノアルバム。
攻殻機動隊を想起させるような(まあもっと適切なたとえがあるのかもしれないですが…)近未来的なアニメジャケットでSF的な要素の強い一枚です。
同じくアニメ風イラストジャケットで有名なハードテクノの傑作ケン・イシイの『Jelly Tones』をアルバムコンセプト的にも思い起こしますね。
実際影響受けてるのかどうかはわからないですけど。
とにかく聴いてもらえばわかるんですけど、疾走感のあるトラックが多めで非常にカッコいいです。
6曲30分ぐらいの、殆どEPと言っていいぐらいの長さで、最初から最後までだれることなしに聴きとおせてしまう名盤だと思いますね。
ジャケット通り近未来感のあるトラックで占められていて、台湾的な要素はラスト曲ぐらいしかないですね。
またそういったアジア的なテイストとテクノって凄くあうんですよね。それは前述した『Jelly Tones 』にもみられる要素です。
ここら辺はアジアテイストxディストピア的近未来という潮流を生み出した『ブレードランナー』(映画)『ニューロマンサー』(小説)に寄るところも大きいのかもしれません。
Disclosure「Energy」
イギリス出身の兄弟ハウスユニット、 Disclosure(ディスクロージャー)の活動休止を経た、3枚目のアルバムのリードシングル曲。
Disclosureはヒットして、鮮烈なデビューを飾った1stはやっぱり好きで、Latchとか夢中になって聴いてたんですけど、2ndでちょっと醒めちゃって、この3枚目もちゃんと聴かないでさらって流してたんですけど、改めて聴いてみたら最高で。
Disclosure健在っていう充実作だと思います。
この曲は今までとはちょっと違ってパーカッションを前面に押し出した曲なんです。
彼らのシグネチャーとも言える男性のDJ的でチアフルなナレーションと、先ほど述べたパーカッションの組み合わせだけの前半部はいまいちで、印象的でゴージャスな彼ららしいシンセサウンドが途中から入ってくることで「あーこれこれ」って思わせるような快楽性たっぷりのDisclosureらしいハウストラックでドはまりしてました。
ウディ・アレンの「ミクロの精子圏(What Happens During Ejaculation?)」(まあ、これ自体が『ミクロの決死圏』のパロディなんですけど)のパロディみたいなPVも見ものです。
※①I was too busy trying to cope with the reality of people dying and people trying to kill me every day. [Creating While Clean] GQ