アイルランドのニューウェーブバンドから世界的なロックバンドへ…U2最高傑作『Joshua Tree』

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1987年に発表されて、全世界的なヒットを記録したU2の5枚目のアルバム『ヨシュア・トゥリー』(The Joshua Tree)

彼らのキャリアのなかでもっとも有名な一枚であり「最高傑作」「U2の代表作」と言われることの多い一枚です。

というわけで、U2といえば「本作みたいな音楽性」だと思ってる人も多いと思うんですけど、実は彼らのそれまでのキャリアからすると異色作で、大きな転換があった作品なんですよね。

何が違うかというと、本作で、

  • ①本格的にアメリカの音楽、ブルースやゴスペル、カントリーなどのルーツミュージックを取り入れ、
  • ②楽曲もメロディを重視した方向に寄せ、

結果、より伝統的で親しみやすい音楽性になったんです。

その結果アメリカ市場にもかなりアピールでき、爆発的ヒットにつながりました。

今までニューウェーブバンドとして、いろいろな実験的なことをやってきて獲得してきた80年代的な新しさ、ユニークさに上記の要素が加わった結果、

「伝統的なものや王道感を感じさせながら、新しいサウンドを提示した」

というのがこのアルバムの最大の特徴であり、ヒットして、今でも長く聴き続けられている所以だと思います。

だから80年代にロックバンドとして王道をいくあり方みたいなものの、その一番のお手本みたいな感じですよね。

意外と同じような大きなスケールでこういうことできてたバンドってあんまりいないと思うんでそこが面白いなと思います。

という事で本稿では『ヨシュア・トゥリー』の「伝統」と「革新」の融合具合を一曲一曲具体的に見ていきたいと思います。

それから本作のサウンドの立役者というのは間違いなくプロデューサーのブライアン・イーノダニエル・ラノワなので、その2人がどういう貢献を本作でしているのかみたいなところも同時に見ていきたいなと思います。

1.約束の地 “Where the Streets Have No Name”

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ロックの理想主義を体現したような歌詞と、疾走感と神々しさのあるサウンドでアルバムのオープニングを飾る一曲目。

まさに、80年代を代表するロックアンセムの一つです。

イントロでシンセの神々しいサウンドがずっと鳴り響いてますけど、これは本作のプロデューサーの1人、ブライアン・イーノの仕事だと思われます。

イーノはプロデューサーとして名高いんですけど、ミュージシャンとしても勿論有名で、様々な活動をして功績を残してきました。

特に彼はアンビエントミュージック、所謂、環境音楽といわれる、メロディやリズムもあまりはっきりとしないBGM的な、空間演出のためのような音楽を一種のアートフォームとして提示して、いくつかの優れた作品を発表してきた人でもあります。

そんな彼が80年代にアポロ計画のドキュメンタリーテレビシリーズのサウンドトラックを手掛けまして、それが『アポロ』(Apollo: Atmospheres and Soundtracks, 1983年発表)っていうアルバムとしてまとめられています。

このアルバム、アンビエントの名盤の一つとみなされてるんですけれども、このU2の「Where the Streets Have No Name」のイントロはその宇宙的なサウンドと非常に似ています。

この『アポロ』の広大な宇宙的スケール感がこの曲のイントロにまさに現れています。

その壮大さが、宇宙ではなく、宗教的な神々しさやロックに期待されてるスケールのデカさみたいなものに接続されているんですね。

ブライアン・イーノはこのようにアルバム全体の雰囲気作りにかなりの貢献をしてると思われます。

ちなみにその『アポロ』ですが、本作のもう一人のプロデューサーであるダニエル・ラノワも参加していて、ギターを弾いてます。

イントロ部分の話はこれぐらいにして、本編に入ります。

この曲、実は今までのU2っぽくないというか、U2の中では変わった構成の曲なんですよね。

サウンドと理想主義的な歌詞がU2のイメージのド真ん中なんでそういう印象はないと思うんですけど。

実はこの曲、今までのU2の曲からするとコードチェンジが多くてわりと複雑な曲なんです。

我々日本人はAメロBメロがあってサビがあって、という構造の曲が当たり前だったりします。

コードチェンジが結構あり、場合によっては転調も沢山ある、そういう曲が当たり前のものとして日本のチャートを賑わせていますけど、洋楽の構造はもっとシンプルなものが多いんですよ。

U2もそうで彼らは基本的にそれまでは本当に3コードとかで、コード進行もシンプルで展開も複雑じゃないけど、リズムの良さとサウンドの瑞々しさでずっと聞かせてしまう、そういうものを売りにしてきたわけですね。

実際に本作の3曲名の「With or Without You」 とか一つのコード進行のパターンをずっと繰り返してるだけの曲だったり、4曲めの「Bullet the Blue Sky」とかも同じコードでループさせるという曲ですし、当然、本作以前のアルバムの曲も基本的にすごいシンプルな建付けなんです。

ただこの曲はベースラインに注目して聴いてもらえば分かると思うんですけど、コードが結構動いてる曲なんです。

だから彼らにとっては割と挑戦的な曲だったんですよね。

そういう風に動きのある曲なんですけど、彼ららしい、普段の勢いが全く失われてないのがやはりすごいところだなと思います。

ベース、パーカッション、ディレイを伴ったギターは16分音符で刻んでいて非常に疾走感あるんですけど、バスドラムとボーカルのリズムはもっとゆったりしてて、疾走感がありつつも余裕や堂々としている感じが出ているところも巧みです。

この曲はプロモーションビデオも素晴らしいんですよね。

ロサンゼルスの街並みの中で、ビートルズのルーフトップコンサートみたいに普通のお店の屋上でコンサートしてるプロモーションビデオなんですけど、彼らの佇まいも実に堂々としていて曲の雰囲気にあってて、ものすごくかっこいいです。

一見の価値ありだと思います。

2. 終りなき旅 “I Still Haven’t Found What I’m Looking for” 

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ゴスペルミュージックに影響を受けたコーラスワーク、ボノのソウルフルな歌唱、広大な自然を想起させるゆったりとした大陸的なリズムが一体となった壮大な一曲。

これも一曲目とならんで本作からの変化を象徴する曲だと思います。

この曲はドラムのフレーズからどんどん発展して作られていった曲なんですけど、U2のドラマーであるラリー・マレン・ジュニアのドラミングって実は独特で面白いんです。

この曲のドラミングは初期作品よりはユニークではないんですけど、ファーストから4枚目ぐらいまでのアルバムは、ドラムパターンの面白さで聴かせていく曲が多かったりします。

タムタムやフロアタムを駆使したトライバルなんだけどどこかマシーナリーなドラミングが70年代末から80年代の前半のニューウェーブシーンで主流で、U2もその影響下にありました。

60年代のロックドラムの手数の多さはジャズ由来なんですけど、80年代はファンクとかアフリカンミュージックの影響で、従来のドラムよりも、よりパーカッション的なドラミングがニューウェーブバンドで多かったんですね。

とにかく本作以前のU2だったら、印象的なドラムフレーズにボノがスポークン・ワードに近いあまりメロディーのはっきりしない歌をつけてた可能性もあったと思います。

ところがこの曲の様に、本作ではそんなドラミングの上に割とはっきりとしたメロディーをボノはのせるパターンが多くなり、これ以降のアルバムでは逆にメロディーのはっきりしない曲はかなり減っていきます。

この曲はそれだけでなく、前述したようにゴスペルの影響も受けていてリッチなコーラスワークも入っています。

「僕はまた探しているものをみつけちゃいない」I Still Haven’t Found What I’m Looking for 

という求道的、理想主義的な歌詞も彼ららしいロマンチシズムにあふれていて魅力的です。

そしてこの曲のゆったりとした大陸的なグルーヴを支えているのはやはりアダム・クレイトンによるスタッカート気味のベースラインが作り出すノリだと思います。

どうしてもU2はきらびやかなジ・エッジのギターとボノの歌が目立ちがちですが、アダムとラリーのリズム隊もかなり重要な役割を担っています。

3. ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー “With or Without You”

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シンプルだけど印象的なベースラインのループで徐々に盛り上がりをみせるロックバラードでU2の代表曲。

U2名曲ランキングとかを見ていくと欧米ではU2の代表作といえばこれか、「ONE」なんじゃないでしょうか。

Spotify の再生回数とかを見てもそうです。

この曲は一つのコード進行をずっと繰り返すという、構造がめちゃくちゃ単純な曲なんです。

ただ、その分アレンジに工夫が必要な曲で、どうやって彼らが曲を飽きさせずに盛り上げて行くのか意識して聴いてみると面白いと思います。

当時のU2はアルバムジャケットやアーティスト写真のモノクロのイメージもあってアナログな音のイメージが強いんですけど、イントロとかもろに打ち込みのドラムとプログラミングされたようなシンセフレーズで始まるんですよね。

今回改めて聴き直すまで意識してなかったのでドラムマシンとかシンセのループフレーズを使ってる曲がこの頃のU2にあったのは(しかも超有名曲)驚きでした。

ところが途中からラリーの生ドラムが入ってきて、それが実にドラマチックに曲を盛り上げていきます。

80年代にリンドラムとかTR-808とか本格的に使えるドラムマシンが登場してきて、それとどう付き合うか、もしくは対抗していくかみたいな事がドラマーの課題の一つになったわけですけど、この曲のアレンジなんか、その回答の一つですよね。

リズムキープや淡々と曲を進めていくところはもう打ち込みドラムに任せる事で、生のドラムは曲を盛り上げたり、よりフレーズとして魅せるプレイが可能になったり、相乗効果が生み出せるわけです。

また、この曲のアレンジで面白いのはギターで、インフィニット・ギターという音が減衰せずにずっとのびてくれるギターが使用されて、前半部分では、非常に装飾的で、バイオリン的なギタープレイが展開されます。

4. ブレット・ザ・ブルー・スカイ “Bullet the Blue Sky”

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ほぼツーコードのみで展開されるゆったりしたテンポながらも激しいロックに仕上がっている一曲で、ボノのスポークン・ワードと激しいシャウト、フィードバックを織り交ぜた激しいギターサウンドが印象的な一曲。

聴きどころはなんといってもジ・エッジのギターです。

ピンク・フロイドのギタリスト、デヴィッド・ギルモアと一緒で、彼は無駄なフレーズは弾かず、引き算の美学でバシッと決めてくるというか、最小の動きで最大の効果を生むフレージングが得意なんですよね。

それが端的に表れているのが、前の「ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー」であり、効果的なフレージングがバシバシ飛び出てきてスリリングな本曲でもあります。

ジ・エッジは割とシンプルなフレージングが多く、裏方に徹したようなプレイも多いため、ギタリストとして軽視されがちでもありますが、ちゃんと聴くとそのフレーズの無駄のなさやアイデアの豊富さにびっくりさせられます。

さて、この曲はこの後のU2の音楽的な展開や本作の別の曲と比べると明らかに毛色の違う、はっきりとした歌メロがなく、曲の展開も直線的な一曲ですが、前述した様に今までのU2の音楽性からするとむしろ自然な流れの一曲なんです。

それらのこのアルバムより前の楽曲を知っていると、本作では浮いているこの曲も今までのU2の流れをくんだものをよりロック的にハードに展開したものととらえることが出来ます。

5. ランニング・トゥ・スタンド・スティル “Running to Stand Still”

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薬物中毒と戦う女性を主人公にしたフォークロック/ブルース的なテイストを入れたバラード曲。

イントロでブルージーなスライドプレイを入れたり、アウトロでブルースハープをいれているんですけど、あくまでも導入部と終わりだけなんですよね。

よくよく冷静に聴いてみると、ダニエル・ラノワによる装飾的なリズムギターのプレイと全体を包み込むようなピアノが全体の雰囲気を支配する、音響的にはアンビエント歌謡的な作りになっています。

そう考えると作りとしては、10曲目の「エグジット」や11曲目の「マザーズ・オブ・ザ・ディサピアード」にも通じる作風かと思いますね。

一見伝統に根ざした様な曲調、プロダクションにみえるけれど、頭と終わりがそういう印象を与えるだけで、実はそうでもないというのがなかなかトリッキーな作りになっている曲だと思います。

6. レッド・ヒル・マイニング・タウン “Red Hill Mining Town”

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1984年、イギリスでの炭鉱労働者のストライキをテーマにした曲で、本作で一番ボノの歌がエモーショナルに響く壮大なロックバラード。

頭の三曲がどうしても目立つアルバムなんですけど、この曲も遜色ない壮大さとエモさがあるとおもうのでもっと聴かれて欲しいですね。

実はこの曲のキモはベースで、スロウなファンクやソウル、R&B的なベースラインが実に心地よいリズムを作り出しているんですよね。

その上でボノが気持ちよくシャウトするという構造がなんとも爽快な一曲でもあります。

バックのゴスペル的なコーラス、シンセサイザーも壮大さに多いに貢献していて、後半のハイライト的な一曲になっています。

ミュージックビデオは『クライング・ゲーム』という映画で有名なニール・ジョーダンが監督。

7. 神の国 “In God’s Country”

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ジ・エッジのエフェクトを駆使したギタープレイが聴きどころで、キリスト教的モチーフを用いた3分弱の曲。

ニューウェーブバンドとして新しいギター表現を追求してきたジ・エッジのギターサウンドが全開の爽快な一曲で、ギター表現の疾走感で全く長さを感じさせない曲。

疾走感とギターサウンドの快楽性で体感としては1分半ぐらいに聴こえるので、今回改めて見てみると3分弱もあったんだと驚きました。

8. トリップ・スルー・ユア・ワイヤーズ “Trip Through Your Wires”

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6/8拍子でリズムがハネ(バウンスし)てて、カントリー/ブルーステイストを取り入れた楽曲。

これもハーモニカやカントリーっぽいシャウトが入っていたり、ブルースロックっぽい要素があるんですけど、サウンドの透明感がとにかく異常(特にジ・エッジのギター)なんで、5曲目同様、全くコテコテのブルース/カントリーになってなくて新しさがあるのがやはり面白いです。

カントリーとかブルースを取り入れると、本格的なものをまんま真似て形式的になってしまうバンド、まあまあ多いと思うんですけど、それだとつまんないんですよね。

結局雰囲気では本家には勝てないことが多いし。

その点この曲は、カントリー/ブルーステイストがありつつも、U2らしい個性をきちんと乗っけて、こういう曲に落とし込んでるのはやはり上手いと思いますよね。

ある意味サウンドとジャンルの組み合わせの新しさからに、このアルバムで一番革新的で重要な曲かもしれません。

そしてこの曲の透明感のあるサウンドメイクにかなり貢献してるのがプロデューサーのダニエル・ラノワが演奏するオムニコードという楽器です。

オムニコードというのは電子ハープみたいな楽器で、これのおかげでトロピカルな雰囲気もプラスされててなんとも言えない味わいになってるんですよ。

U2のサウンドって曲のテーマが政治的だったりメッセージ性の強いものが多いので、どうしてもその音像も合わせる様にシリアスになりがちなんですよね。

しかし、この曲はカントリーやブルース要素を取り入れた事で特有のある種の「ゆとり」「ゆるさ」みたいなものも獲得してて、レイドバックした雰囲気もあるので、アルバム冒頭の三曲と違って身構えずに長く楽しめたりします。

ちなみに、プロデューサーのダニエル・ラノワが本作より2年あとの1989年に発表した初のソロアルバム『アカディ』(Acadie)も伝統と新しさが融合したなかなか奇妙で味わい深いアルバムですので、興味ある人は是非聴いてみてください。

U2からもアダム・クレイトンとラリー・マレン・ジュニアも参加していますし、オムニコードも登場します。

9. ワン・トゥリー・ヒル “One Tree Hill”

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アフリカ音楽からの影響が垣間見れる一曲。

プロデューサーのブライアン・イーノは実はトーキング・ヘッズのフロントマンのデヴィッド・バーン『My Life In The Bush Of Ghosts』という、アフリカ音楽の影響を全面に取り入れたアルバムを作成してるんですね。

そのアルバムを受けてトーキングヘッズの最高傑作といわれている1980年のアルバム『リメイン・イン・ライト』が作られたんです※。

当然イーノもプロデューサーとしてそのアルバムに関わっています。

80年代っていうのはその『リメイン・イン・ライト』に限らずアフリカ音楽からの影響を受けた音楽がメインストリームに登場した時期でもありました。

例えばポール・サイモン『グレイスランド』であったり、ピーター・ガブリエルの一連のソロであったりが、実際にアフリカのミュージシャン達と組んだり、アフリカ音楽の影響を取り入れた曲をやっていたりするんですけど、この曲もその流れの一つとも言えるかもしれないですね。

実際にこの曲はブライアン・イーノとのセッションから生まれてきた曲なんです。

ただこの曲のモチーフは別のところから来ていて、One Tree Hill というのは実際にニュージーランドにある場所の名前。

この曲は亡くなってしまった、彼らのローディーをやっていた友人、Greg Carrollに捧げられています。

このアルバム自体、Greg Carrollにささげられているんですね。

そのGreg Carrolとはニュージーランドでのツアーで知り合い、彼がボノに案内した場所がOne Tree Hilなんです。

※『My Life In The Bush Of Ghosts』の発表(1981年2月)は『Remain In Light』(1980年10月)の発売より後だが、録音されたのは『My Life In The Bush Of Ghosts』の方が先)

10. エグジット “Exit”

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ジャムセッションから生まれたダークでシンプルな構成を持つ一曲。

このアルバムの中ではかなり異質な曲と言うかとっつきにくい曲ではあるんですけど、これまでのU2の歩みを振り返ってみると「Bullet the Blue Sky」同様、決して特異ではない曲、むしろ今までのU2のアルバムに入っていても全然違和感がない一曲ですね。

構造としては実は3曲目と一緒で、繰り返されるベースのフレーズを起点に楽曲が展開していきます。

3曲目が徐々に盛り上がっていく構造であるのに対して、こちらは緊張と緩和を繰り返しているのが大きな違いです。

歌詞のテーマも、曲の緊張感、ダークさにマッチした内容で連続殺人犯の心情を描写した内容になっています。

ボノが、ノーマン・メイラーのノンフィクション、『死刑執行人の歌―殺人者ゲイリー・ギルモアの物語』に触発されて書きました。

11. マザーズ・オブ・ザ・ディサピアード “Mothers of the Disappeared”

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アルバムの最後に相応しい壮大さとゆったりとした雰囲気をたたえた一曲。

ダイナミックでドラマチックなわかりやすくU2的な快楽性がない曲なので、昔聴いたときは地味な曲っていう扱いで殆どスルーしていたんですけど、今聴くとU2流アンビエントという趣で、面白いですね。

アンビエント的な手法が様々な音楽シーンに浸透している昨今の流れ、Chill WaveQuiet Waveとも呼応しているような音像で、2022の今聴くとなんか丁度いい曲かもしれません。

この曲もブライアン・イーノのアンビエントの素養が生きた一曲で、そこにアメリカのルーツミュージック的な伴奏を組み合わせて、アメリカの「大陸的」な広大なサウンドスケープを展開しています。

ミックスではわざとドラムなどのリズムの音を小さめにしていて、シンセのパターンでずっと引っ張っていく手法なんか、『Zoorope』収録の「The Wanderer」とかに通じています。

カントリーシンガーのジョニー・キャッシュのボーカルをフィーチャーしたアルバム最終曲。ジョニー・キャッシュ、U2、双方のキャリアの中でもかなり上位に位置する名曲。

まとめ

それでは本作で起こった変化をまとめてみたいとおもいます。

  1. 歌のメロディーを重視するようになった
  2. アメリカの伝統的な音楽のエッセンスを取り入れた

この2つの要素に、従来からあったニューウェーブ的な実験精神やプロデューサー陣による音響的な冒険が加わったことで、王道的な親しみやすさがありつつも80年代らしい新しさがあり、この路線で、U2はこの時代のロックの王道的なポジションを獲得できたんだと思います。

そして、どうしても冒頭の3曲のインパクトが強いアルバムですけど、いま2020年代の耳で聴きなおすとむしろ後半の曲の方が発見があって面白かったりしますね。

やはりイーノとラノワによるアンビエント的な音作りが、今聴いても同時代の他のバンドの音よりも古臭さを感じない理由なのかなと思います。

勿論それだけではなく、それぞれの楽器のアレンジも聴きこむごとに良くできているなと思いますし、やっぱり名盤と呼ばれ続けてるだけのことはあって、聴けば聴くほど良い点が沢山見つかる凄いアルバムで、なんだと再認識しました。

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