今回は、すでに廃刊になってしまった音楽雑誌、snoozerの2007年の邦楽名盤ランキングをとりあげたいと思います。
当サイトでは何度か他の音楽雑誌の邦楽名盤ランキングを取り上げたり、自分でマイベスト100を選んだり、Twitterで投票企画をやったりしてきました。
そういった邦楽名盤ランキングのなかで、僕が知ってるもので一番古いもの、が、このsnoozerのランキングなんですよね。
実はこのランクキング、リアルタイムで本屋でチラ見してて、買おうか迷ってるうちに店頭から消えちゃったんですけど、当時からかなりラディカルというか、まあ、ほかではちょっとお目にかかれないランキングになってます。
邦楽名盤ランキングにふれた最初の機会と書きましたけど、邦楽の名盤の本とか、ランキング形式にはなっていないものですけど、すでにアクセスしてたんて、一般的にどのアルバムが名盤認定されてて、大体そういうものに選ばれがちな面子についての知識はあったんです。
なので、このsnoozerの選出されたアルバムの特異さというものもわかってて、かなり驚きました。
ということで、その特殊性について今回は語っていきたいなと。
最初に断っておくと、今回ランキングの全貌をここに載せるなんてことはしないです。
というのも、廃刊した雑誌であるにもかかわらず、在庫がまだ残っているのか、今でもリトルモアのホームページ経由なら今でも全然買えちゃうんですよね。
なので、本稿を読んだ方で、気になった方は是非、メルカリなんかで高いお金出して買わずに正規ルートで手に入れてもらいたいなと思ってます。
そもそもsnoozerとは、どんな雑誌だったのか。
snoozerは同じく音楽雑誌のrockin’onでライターとして活躍していた田中宗一郎(以下愛称であるタナソー)氏がrockin’on社を離れたあとでフリーランスを経て編集長として隔月で刊行していた雑誌です。
当時の価格で税込み730円ですが、今見ると内容のわりに安いですよね。
この間Spotifyのポッドキャストでタナソーさん本人が今同じ雑誌作ろうとおもったら定価3,000円ぐらいになっちゃうみたいなことおっしゃってましたけど、それぐらいの豪華さはあります。
他の雑誌では見られない紙を圧縮した製法の紙を使っているらしく、質感に妙な高級感とずっしりとした重みがあるんですよね。
当時はまだ音楽ビジネス自体、今よりもお金があった時代だったから、豪華な仕様なんですよね。
このランキングの特徴。
さっきからsnoozerの邦楽名盤ランキングって言っちゃっているんですけど、正確には『ロック暗黒大陸ニッポン』というかなり不穏なタイトルの特集のうちの一企画でして「日本のロック/ポップ・アルバム究極の150枚 (150 GREATEST ALBUMS OF JAPANESE ROCK’N’ROLL)」という、日本のロックの名盤を150枚選んで順位をつけようという記事なんです。
タイトルにロックンロールって入っているんですけど、2007年当時はまだロックという言葉は今よりもジャンル包括的な言葉の意味あいを持っていて、先進的な優れたアートフォームはロックにくくれちゃうというような雰囲気もありました。
なので実際にはロックに限らず、テクノだったり、レゲエだったり、ヒップホップのアルバムもランクインしています。
むしろほかの邦楽名盤ランキングよりきちんとHip Hopも上位に入ってきてますし、テクノもあるし、レゲエやノイズもあるし、バランスは凄くいいんですよね。
その点でもよいランキングだと思います。
とはいえ、いわゆる「ロック的な」アルバムがかなり上位に来てますね。
例えばストーンズやT.Rexなどの要素をうまく取り入れて60年代的なロックを当時のテイストで展開してみせたローザ・ルクセンブルクのセカンドアルバムがかなり高い評価だったり、
日本のストーンズと呼ばれた村八分の唯一のオリジナルライブアルバムの『ライブ』が4位という高順位だったりします。
その村八分でギターを弾いていた山口富士夫の『ひまつぶし』も高順位です。
そして日本を代表するロックバンドだったRCサクセションが150枚のうちなんと5枚もランクインしているという贔屓っぷりも独特なんですよね。
独特の選盤
このランキングの当時一番衝撃的だったのは一位にこのアルバムが選出されたことでしたね。
このような邦楽名盤ベスト100とかにも出てきませんし、彼らのアルバムの中でも代表作として語られることもあんまりないアルバムなので、とても驚きました。
当時すぐ近くのレンタルCD屋に行ってCD借りて早速聴きました。
と、このように割と「これが選ばれるのか」っていう独特のチョイスがあるんですよね。
それを見ていきたいと思います。
『早熟』岡村靖幸
通常『家庭教師』が選ばれることがおおいですが初期の音源を集めたベスト盤がランクイン。
『太陽』中村一義
衝撃的だったデビュー作『金字塔』があげられることが多いがセカンドの本作が選出。
『JUMP UP』スーパーカー
日本のシューゲイズ名盤デビュー作『スリーアウトチェンジ』もしくはエレクトロニカを本格導入した『HIGHVISION』が最高傑作として挙げられることが多いですが、全編アナログレコード再生時に出るノイズに包まれたセカンドが選出。
『ワルツを踊れ Tanz Walzer』くるり
「ばらの花」などを含むサードアルバム『TEAM ROCK』が選ばれることが多いですが、それよりもオーケストラとの共演でクラシックの要素を取り入れた本作が上位に。
『東京ワッショイ』遠藤賢司
ジャパニーズフォークの大傑作アルバム『満足できるかな』が選出されることが多いが、パンクやテクノに触発されて音楽性を大胆にチェンジした本作のほうが上位に。
『オレンジ』電気グルーヴ
大ヒットし、お茶の間にテクノやハウスを届けるきっかけになった『A(エース)』が選ばれることが多いが、前作にあたる『ORANGE』のほうが上位に選出。
ele-kingランキングとの類似点
面白いのはele-kingの紙媒体をメインで手掛ける野田努と三田格の両氏が参加していることで、
ele-kingが同じく邦楽名盤ランキングを2019年にやった際、このsnoozerランキングの特徴を少なからず受け継いでいたという点ですね。
こちらは普通にAmazonとかで買えるんで、アクセスしやすいと思います。たまに大型書店でも見かけたりしますし。
興味ある人は是非合わせて読んでいただきたいです。
ele-kingとこのランキングで共通していて、ほかのランキングであまりランクインしてないアルバム
『Strictly Turntablized』DJクラッシュ
世界的DJによるインストヒップホップの金字塔的作品。
『Blind Moon』サカナ
ポコペン(冨田綾子)と西脇一弘が中心となって結成されたフォークバンドの代表作。歌とギターだけのシンプルな構成だが実に豊かで深遠な世界観に打ちのめされるフォークレコード。
『Garden On The Palm』ケン・イシイ
世界的なテクノ・アーティスト、ケン・イシイのデビュー作。
『天国と地獄』カーネーション
日本のXTC的なひねくれたポップを作り出すことでは右に出るもののないバンド、カーネーション。そんな彼らのキャリアの中でも様々な音楽性をないまぜにした異色さが際立つ一枚。
『水中JOE』想い出波止場
BOREDOMSのギターの山本精一が中心となって結成されたバンド。様々な音楽性を独特の距離感をもってユーモアを交えつつミックスしてみせた怪盤。
『 不失者 』不失者
灰野敬二率いるバンド不失者のライブレコーディングのファーストアルバム。灰野作品のイメージとしてあるノイズ的なものと言うよりはロックに近い演奏が堪能できる一枚。
他のランキングに入っていてsnoozerランキングでは順位が意外と低いもの。
さて、snoozerランキングの独創性を伝えるため、ほかの一般的なランキングで上位になりがちなんだけど、snoozerランキングでは低いアルバムを見ていきましょう。
『風街ろまん』はっぴいえんど 32位
様々な名盤ランキングで一位を取ることが多い、邦楽最高峰と歌われる名盤ですが32位。個人的には結構妥当な順位だと思っています。
『ジャックスの世界』ジャックス 61位
日本語ロック黎明期を代表する名盤。こちらも選ばれるなら少なくとも50位以内という印象ですが、61位。
今聴くとロックというより、ジャズやサイケデリックなテイストが強いですね。
『SONGS』シュガー・ベイブ 102位
大貫妙子、山下達郎が在籍していたバンドの唯一のアルバム。
ソウルミュージックをベースにしたバンドサウンドでシティ・ポップの源流の一つとして高い評価を受け、名盤ランキング一桁台常連ですが100位圏外。
『黒船』サディスティック・ミカ・バンド 104位
当時の凄腕のミュージシャンたちが集結したスーパーバンドの名盤セカンド。こちらも一桁台にランクインすることの多い名盤ですが100位圏外。
『ヘッド博士の世界塔』フリッパーズ・ギター 117位
サンプリング使用問題なのか現在では入手困難になっている90年代を代表する名盤。こちらもかなり上位にランクインすることが多いですね。
まとめ
ということで、いかにsnoozerの邦楽名盤ランクキングが興味深いものであるかを語っていきました。
所謂「邦楽をさかのぼって聴いてみたいけど、どういうの聴いたらよいかわからない」という初心者向け、というよりかは「大体有名どころはさらってみたけれど、ほかに凄いアルバムがないかもっと知りたい」というかたや「ありきたりな名盤ランキングはもう見たくない」という方におススメですかね。
バイアスについて隠してない、個人の思い入れ丸出しのレビューも共感が持てます。
前述した通りロック的なものの比重も重めですので、邦楽のアルバムで、ロックテイストが濃いものを開拓したいという方にも結構おススメです。
またすでにele-kingの邦楽アルバムランキングを持っているかたは、前述したように選者が一部かぶっているため、それとの比較、類似点でも楽しめるのでおススメです。
冒頭で述べた通り今ならリトル・モアのサイトで購入可能なので、興味ある人は是非手に取ってみてください。
送料込みでだいたい千円ちょっとで買えます。普通この手のムック本とか2000円近くしますし、雑誌の内容からするとかなり安いと思います。
おすすめです!