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ロックバンド、ストリングス安直に使いすぎ問題

どの曲が、どのバンドが、とは言わないですけれど、バンドによる安易なオーケストラ、ストリングスの起用ってありますよね…。

それが本当に効果的ならいいんですけど、ただ隙間を埋めるだけとか、豪華さを演出するだけのために予定調和的に使われているのを聴くとげんなりします…。

「じゃあどんなのが理想なんだよ!」っていう意見もありそうですし、ただ批判しているだけでは芸がない。

ということで今回はオーケストラやストリングスとバンドが理想的な共演を果たしている曲をご紹介したいと思います。

「Jean’s Not Happening」The Pale Fountains

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イギリス、リヴァプール出身のロックバンド、ペイル・ファウンテンズの1985年発表の曲。

荒々しさと、瑞々しさと、凛々しさみたいなものが、矛盾なく同居しているのが素晴らしいですよね。

ちょっとリズムの寄れたようなエレキギターのリードが荒々しさを演出していて、アコースティックギターの澄んだトーンと歌メロが瑞々しさを、そしてストリングセクションが凛々しさを楽曲に与えています。

肌寒くて薄暗い晩秋の早朝に外に飛び出しっていったような、そんなビビットな映像を想起させるようなサウンドです。

「Shout To The Top」The Style Council

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結構前に「とくダネ!」のテーマソングとしても使われてたので聞いたことあるという人は多いんじゃないでしょうか。

ポール・ウェラーがパンクバンド、The Jamを解散させ、ブラックミュージック的な要素を追求するために結成したバンドがザ・スタイル・カウンシル

そのスタイル・カウンシルの代表曲として知られているのがこの曲。

イントロからストリングセクションの激しいフレージングで幕を明けます。

ストリング・セクションの持つ華麗さと激しさを生かし切った見事な一曲だと思いますね。

それにバンド特有のグルーヴ感と疾走感が加わって素晴らしい楽曲になっています。

まさにバンドとストリングセクションの理想的な共演曲だと言っても過言ではないでしょう。

面白いのがこの曲のアレンジをほぼトレースするような 「Young Bloods」 という曲を佐野元春がやっていて、その曲では本作のストリングスにあたるポイントをホーンセクションでカバーしているんですね。

両者を比べてみるとストリングスの特性がよくわかります。

やはり原曲のストリングスを使ったアレンジの方がシャープで華麗な印象です。

対して「Young Bloods」の方はもうちょっとフレンドリーな温かさを感じるような印象を受けますね。

『Ocean Rain』Echo & The Bunnymen

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バンドとオーケストラの共演の理想形ということで、ほぼ正解が出てしまったようなアルバムがありまして、それがエコー&ザ・バニーメン(以下エコバニ)の『オーシャン・レイン』というアルバムです。

このアルバムではストリング・セクションが第五のメンバーといっても過言ではないぐらい活躍しています。

アルバムのインナースリーブにもメンバーの写真じゃなくてオケのメンバーの写真が使われているぐらいなんですよね。

オーケストラがもつ、幻惑的な雰囲気や、崇高さ、厳かさ、などなど複数の利点を生かして、とにかく効果的に随所にオケが入ってくるアルバムになっています。

そもそもエコバニは前作にあたる『ポーキュパイン』収録の「カッター」という曲で、既にオーケストラとの理想的な共演を果たしているんです。

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イントロからストリングセクションの印象的なフレーズで始まっていて、すでにこの曲で理想的な共演を果たしているんですね。

それを 『オーシャン・レイン』 から本格的に導入したという感じです。

「Burn the witch」Radiohead

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筆者がレディオヘッドで、もしかしたら最高傑作はこの曲なんじゃないか、と思っているぐらいの曲がこの「バーン・ザ・ウィッチ」です。

聴いていただければ一発で分かるかと思いますが、この曲は全面的にストリング・セクション(バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスによる合奏)をフィーチャーした曲になっています。

この曲のストリング・セクションはアタック音を強調するために、基本的に弓ではなく、ギターで使うようなピックで演奏されていて、緊張感と暴力性をはらんだ、非常にスリリングな最高の演奏になっています。

もともとレディオヘッドはたびたび、クラシックの要素を導入していた歴史があり、また、ギターのジョニー・グリーンウッドは映画のスコアなんかも書いていてすでに高い評価を受けているんですね。

そういったメンバーのこれまでの経歴を生かしつつもロックバンド的なダイナミズムをストリングセクションで表現した名アレンジですし、今まで聞いたことのないような曲に仕上がっていて、常に新しいスタイルを提示し続ける彼ららしさが最良の形になって現れているのがこの曲だと思います。

「Whatever」Oasis

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ひょっとすると、この曲も安易なストリングセクションの起用曲じゃないか?といわれるかもしれないですね。

ただオアシスの場合面白いのはその不良性とのアンバランスさというか食い合わせの妙ですよね。

1969年にローリング・ストーンズが発表した「無常の世界」という曲は、ロンドン・バッハ合唱団をコーラスとして起用している曲なんですけど、不良性の高いロックバンドが格式高い合唱団に「いつも自分が望んでいるものが手に張るとは限らない」とうたわせてる、という半ば冗談みたいなコラボレーションで面白いんです。

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本曲もそれを想起させるような組み合わせなんですよね。

ストリングセクションをバックに自由に動き回るメンバーが見れるプロモーションビデオも面白いです。

もう一つ、オーケストラとオアシスの共演で忘れてはならないのが、代表曲の「Wonderwall」です。

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彼らの曲の中で最も有名な曲の一つで、名実ともに代表曲なんですけれども、そのアレンジは割とオアシスのパブリックイメージっぽくないから面白いですよね。

そういう意味ではオアシスの核となるものって、ノエル・ギャラガーのソングライティングとリアムの伸びやかな歌唱に尽きるのかなということを思わせてくれる一曲でもあります。

「大迷惑」ユニコーン

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邦楽からも紹介しておきたいと思います。

ユニコーン一枚目のシングル「大迷惑」です。

この曲は先のローリング・ストーンズやオアシスの例と似ていて、組み合わせが面白い曲です。

基本的にパンクアレンジなんですけど、それにオーケストラの演奏が絡んでくるんですよね。

で、ギターソロはやけにメタルっぽかったり、歌詞は単身赴任を言い渡された男の苦悩だったりして、そのドタバタ加減が不思議とオーケストラのバックにマッチしています。

「Bitter Sweet Symphony」the Verve

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「ビター・スウィート・シンフォニー」はイギリスのロックバンド、ザ・ヴァーヴが1997年に発表したシングル曲で彼らのみならず90年代を代表する一曲といっても過言ではない名曲です。

さてこの曲もここで紹介するからには当然オーケストラをフィーチャーしているんですけど、実はこの曲のオーケストラ部分は実はサンプリングなんですよね。

このループされるオーケストラ部分が、この曲の荘厳さ、「人生のままならなさ」というこの曲のテーマに重みを与えてるんですよね。

で、このサンプリングは、もともとはAndrew Oldham Orchestraがローリング・ストーンズの「The Last Time」という曲をオーケストラアレンジでやった音源なんです。

しかし、これをサンプリングしたことで、この 「The Last Time」 の権利を持っているアラン・クラインの主張により、この曲はストーンズのふたり「Jagger/Richards」としてクレジットされて長らくロイヤリティがヴァ―ヴ側に入らなかったんですね。

しかしこの問題はすでに解決し、作曲者であるリチャード・アシュクロフトのもとにきちんと権利がわたっていることが2019年にリチャード自身から明かされました。

「Yesterday」 The Beatles

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最後は一番有名なバンドとストリングスの共演曲を紹介したいと思います。

1965年に発表されたザ・ビートルズ「イエスタデイ」です。

まあ、説明不要かもしれませんが、この曲はポール・マッカートニーのギターと歌に、弦楽四重奏という編成の曲です。

もともとポールの歌とギターの時点であまりにも完成されていたので、ほかのメンバーがこれ以上バンド演奏を付け足すのを断念したんですね。

そこでプロデューサーのジョージ・マーティン弦楽四重奏を追加することになりました。

勿論ポールのギターと歌だけでも十分な名曲だと思いますが、 弦楽四重奏の演奏は曲のもの悲しさを、大げさなものになりすぎない様な絶妙な塩梅で高めていて、とても効果的だと思います。

ビートルズのオーケストラとの共演はこれにとどまらず、さらに大胆な試みもなされていきます。

1966年に発表された「エレナ―・リグビー」という曲ではついにギターすら入らなくなり、弦楽八重奏とバンドメンバーの歌とコーラスだけという当時もかなり珍しかった組み合わせの曲になっています。

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そもそも今のバンドの在り方、自分たちで曲を作るだとか、ギターとドラムとベースという編成だとか、そういうものをその存在で定着させていったのがビートルズなんですけど、そのスタイルを壊したのもビートルズなんですよね。

そして1967年に発表された「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」という曲は前衛的な現代音楽からの影響がある曲で、オーケストラに即興演奏をさせて、それが曲の一番盛り上がる部分になっています。

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まとめ

ということで色々とみてきましたが、やはり、オーケストラやストリングセクションが雰囲気だけでなく、フレーズとして機能しているもの、確固たる必然性があるものが多かったですね。

なんとなく盛り上げたいからバックに起用したみたいなものはあんまり印象にも残りませんし、かえって曲を陳腐化させてしまっているなと改めておもいました。

前にミュージシャン、アレンジャーの方とバンドとオーケストラの共演のことについて話をしたときにおもしろい話を伺いました。

「確かに、オーケストラ安易に使いすぎという批判はわかるけどオケと一緒にやるとめちゃくちゃ気持ちがいいんだよね。だからオケと共演したい気持ちはめっちゃわかる」とおっしゃっていたんですね。

リスナーにどう聞こえるかは別として、オーケストラとの共演っていうのはミュージシャンにとってもやっぱり魅力的なものなんですね。

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