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【全曲解説】キング・クリムゾンの歴史的名盤『クリムゾン・キングの宮殿』

今回はキング・クリムゾン(King Crimson)のデビューアルバム、『クリムゾン・キングの宮殿』(In The Court Of The Crimson King, 1969年発表) というアルバムを取り上げたいと思います。

プログレッシブ・ロックの中でも、最も影響力のある1枚であり、60年代を代表する名盤とされているのがこのアルバムです。

本作はジャズクラシックオーケストラの要素をロックに持ち込み、今までにないロックミュージックを提示してみせました。

また数多くのキング・クリムゾンのアルバムのなかでも名盤、代表作として取り上げられる本作はクリムゾンの入門編としても最適な一枚だと思います。

では、どうして本作はそんなに評価が高いのでしょうか?

その内容についてじっくりと具体的に見ていきます。

『クリムゾン・キングの宮殿』とはどんなアルバムか

『クリムゾンキングの宮殿』は、1969年に発表された、イギリスのプログレッシブ・バンド、キング・クリムゾン (King Crimson) のデビューアルバムです。

収録時間43分45秒で5曲のみ収録。現在の感覚からすると1曲1曲がとても長いです。

60年代に発表されたロックのアルバムで、最も影響力があり、最も素晴らしいアルバムの一つと言われています。

また、プログレッシブロックの最高峰と言えばこのアルバムか、Pink Floydの『狂気』と言われています。

前述した通りジャズ、クラシック、オーケストラの要素をロックに持ち込んだ、そのスリリングで緊張感のあるサウンド、美しく叙情的な楽曲群が特徴的な名盤で、当時与えたインパクトの大きさと現在までの影響は計り知れません。

有名なアルバムジャケット

本作はバリー・ゴッドバーという作家によるインパクトのあるアルバムジャケットでも有名。

このアルバムを知らない人でも、もしかしたら見たことあるかもしれません。

様々な場面でパロディーとして用いられることも多いです。

一体この恐怖で驚いたような表情は何を表しているんでしょうか。

残念ながらバリー・ゴッドバーは本作の発表後すぐに亡くなってしまいます。

『クリムゾン・キングの宮殿』のどこがそんなに凄いのか

一般的には前述したように「後世の影響大、スリリングで緊張感があり、美しく叙情的な楽曲がつまっている」と言うのがこのアルバムが、歴史的名盤と呼ばれる所以なのですが、自分なりにこのアルバムの優れている点、聴き所についてなるべく具体的にまとめてみました。

1、音楽的表現力の高さ

まず第一に音楽的に表現力が高いということですね。

全員作曲能力を要した凄腕のミュージシャンが集まって演奏していることもあり、非常に音楽的に豊かです。

メンバーは、

・ロバート・フリップ(Robert Fripp) Guitar
・グレッグ・レイク (Greg Lake) Lead Vocal & Bass
・イアン・マクドナルド(Ian McDonald) Keyboard, Saxphone, Mellotron, Woodwind & Backing Vocals ,vibraphone
・マイケル・ジャイルズ (Michael Giles) Drums, percussion & Backing Vocal

の4人。

音楽的に豊かとはどういうことかと言うと、

例えば、一つ一つのフレージングが、曲の良いところを引き出そうという意思のもとに行われている感じですね。

単なる音の隙間を埋めるためではなく、それぞれ意味のある旋律を奏でているということです。

それぞれの演奏が音楽的に豊かだから、物量的に楽器が多かったり、音を重ねているわけでないんだけれども、実際の人数よりも、もっと多い人数で演奏してるように聴こえることがあったりします。

音楽的に一つ一つのパートが芳醇だからおこる現象です。

そして、強烈な個性がぶつかり合っているのにもかかわらず、それがバラバラにならず、同じベクトルを向いていて、楽曲を質を高めあっていると言う奇跡的な現象が起こっています。

また同時に引き算の美学とでもいいましょうか、過剰に音を埋めることではなく空間を生かしたアレンジを展開してることにも注目です。

2、リリカルで叙情的な歌詞

実は先ほどメンバーを4人と紹介しましたが、実はこの時期のクリムゾンにはピート・シンフィールド (Peter John “Pete” Sinfield) という作詞専門のメンバーがいて、彼がこのアルバムの作詞を全部担当しています。

ピート・シンフィールドの詩作は、どこか別の時間軸、別の世界、または中世ヨーロッパ的な世界観があり、現代の我々の暮らしている現代が舞台ではない様な感覚があります。

その詩作が作品全体を引っ張るかのように、アルバム自体が非日常的な雰囲気を放ち、非常に叙情的で味わい深い世界が広がっています。

3、歌ものとしても優れたアルバム

一般的にプログレッシブロックは、インスト部分が主要部分で、歌が少しが入っていないものが多いです。

そして、どちらかと言うと歌よりも楽器の演奏がメインみたいなところがあります。

しかし、この『クリムゾン・キングの宮殿』はプログレッシブ・ロックの代表的な作品であるにもかかわらず、「歌もの」としても優れたアルバムになっているんです。

一曲目を除き、歌部分のメロディーが優れていて、ギターの弾き語りだけでも充分楽しめてしまうぐらいいい歌ばかりです。

そもそも専門の作詞家をつけるぐらいですから歌の部分にも力を入れないわけがないんですよね。

また、リードボーカルのグレッグ・レイクの、優しい歌声もいいです。

他のメンバーもコーラスで参加し、ハーモニーもとてもきれいなアルバムになってます。

以上3点が本作の優れた特徴です。

それでは実際に曲を一つ一つ紹介していきましょう。

1.「 21世紀のスキッツォイドマン」(21st Century Schizoid Man including Mirrors)

メタル、ジャズ、ロックの攻撃的な要素を内包した、プログレッシブ・ロックの究極の一曲にして、全ての音楽ジャンルで、緊張感のあるダークな音楽の最高峰の1つ。

当然本作で最も有名な曲であり、1960年代を代表する1曲。

どうしてこの曲はそんなに重要な曲なんでしょうか。

それはこの曲が内包する音が、ヘビーメタルやジャズ・ロック、プログレッシブロックのそれぞれのジャンルのプロトタイプとなった曲だからです。

つまり、

それぞれの複数のジャンルに対してとても大きな影響与えたから

それらのジャンルの最初期の基礎となるような物を提示してみせたから

というのがこの曲の重要性になっています。

影響はロックのジャンルに限らず、例えばラッパーのカニエ・ウエスト(Kanye West)が、2010年代を象徴するような名盤『マイ・ビューティフル・ダーク・ツイステッド・ファンタジー』(My beautiful dirk twisted fantasy)というアルバムに収められている、「パワー」(Power) と言う曲で「 21世紀のスキッツォイドマン」をサンプリングしています。

そういった歴史的事実や小難しい話を抜きにしても、聴いていただければこの曲の凄さが一発で理解していただけると思います。

最初は有名なギターリフで幕を開け、歪みまくったボーカルが入ります。

歌の部分が終わるとミラーズと呼ばれる怒涛のインスト分に突入します。

それぞれのメンバーの楽器奏者としての力量を十分に発揮した緊張感触れるすばらしい演奏です。

もちろん多重録音をされてるんですけど、ギターとサクソフォン、ベースとドラム、それだけのシンプルな編成とはとても思えないような濃厚な演奏が繰り広げられます。

それぞれの楽器が無駄な音を発することなく、緊張感のあるプレイを展開し、それがこの濃密な楽曲を構成しているんですね。

フリージャズなどの影響が伺い知れる部分でもあります。

よくも悪くもこのアルバムを代表する曲になっていて、このアルバムと言えばこの曲を連想する方も多いのではないでしょうか。

ただこの曲以外は意外と落ち着いた演奏の曲、それほど激しめではない曲が多く、この曲にとらわれすぎていたらアルバムの全体像というのが見えにくくなってしまいます。

またこの曲だけ歌詞が歌詞に現代的な要素が入っています。

タイトルに21世紀と入ってるのもそうですし、ナパーム弾俺や神経外科医といった現代的な用語が入ってきています。

そういう意味でも他の収録曲とは毛色の異なった曲です。

2.「風に語りて 」(I Talk To The Wind)

激しい「21世紀のスキッツォイドマン」とは対照的にアルバム中最も静謐で美しい曲

あれだけ激しい演奏の後でいきなりフルートによる音色が鳴り響いて、初めてこの並びで聴いた人はちょっと意表をつかれるかもしれません。

メンバーの中で木管楽器、キーボード、コーラスを担当する、イアン・マクドナルドが作曲し、彼が主体になって作成されたナンバーです。

この曲ではメインボーカルのグレッグ・レイクと一緒にボーカルも担当しています。

コーラスワークが実に美しい曲でもあります。

キング・クリムゾンと言えばリーダーでギタリストのロバート・フィリップの存在が何かと取り沙汰されることが多いですが、むしろこのアルバムでは彼の演奏は抑え目で、他のメンバーの方が目立っていたりします。

木管楽器とドラムのコンビネーションがとても音楽的で聞いていて心地いいですね。

その合間を縫うようにロバート・フリップのギターが上手くサポートしてるような感じです。

こういう空間を生かした引き算的な楽曲を作ると言う事は、結構難しいことだと思うんですが、それを難なくやってしまうところがこのバンドのとんでもない所ですね。

禅問答を思い起こさせるようなピート・シンフィールドによる歌詞も非常に味があって良いです。

ぜひ歌詞にも注目して聞いてみてください。

3.「エピタフ」 (Epitaph including March For No Reason and Tomorrow And Tomorrow)

日本では西城秀樹のカバーでも有名。

楽器演奏担当の4人が共作して作曲した曲です。

この曲はプログレッシブ・ロックを代表する、メロトロンと言う楽器の使用でも非常に有名です。

メロトロンと言う楽器は鍵盤一つ一つにに対応した音源があって、そのテープを再生することで音がでる不思議な楽器です。

他にもイエスやジェネシスといった、プログレッシブ・ロックの代表的なグループが多用したこともあり、プログレと言えばメロトロンという印象を持ってる方も多いかと思います。

ロバート・フィリップの叙情的なギターと、グレッグ・レイクの歌唱が聴きもののナンバー。

4.「ムーン・チャイルド」(Moonchild including The Dream and The Illusion)

この曲もまたメンバー全員の共作曲になります。

『バッファロー66』という映画がありまして、女優のクリスティーナ・リッチが、ボーリング場でタップダンスを踊ると言う印象的なシーンでこの曲が使われています。

この映画でキング・クリムゾンを知ったという方も実はいらっしゃるのではないでしょうか。

この曲は2部構成に分かれていまして、Aパートはザ・ドリーム、と言うタイトルで2分ぐらいの歌の部分になります。

この曲でもイアン・マクドナルドによるメロトロンが聴けますね。

歌そのものの魅力はもちろん素晴らしく、グレッグレイクの箇所も最高なんですが、注目して聴いてもらいたいのはドラムです。

シンバルとバスドラム、タムタムの組み合わせで、音楽的な展開を見せています。

ドラムを歌わせる、音楽的に響かせる、と言うのはこういうことなのかと言う、非常に良いサンプルだと思いますので、ドラマーの方は是非とも聴いていただきたいと思います。

後半のBパートは、ザ・イリュージョンと言うタイトルで前半部分より長く、9分も続きます。

これは即興の静かなインスト曲でかなり音量を絞って皆プレイしています。

今聞くと結構アンビエント、環境音楽的な感じで楽しめて、ファンの人に怒られてしまうかもしれませんが、作業中のBGMに最適で、一度ハマるとずっと聞き次続けられます。

5.「クリムゾン・キングの宮殿」 (The Court of the Crimson King including The Return Of The Fire Witch and The Dance Of The Puppets)

「クリムゾン・キングの宮殿」 (The Court of the Crimson King including The Return Of The Fire Witch and The Dance Of The Puppets)

印象的なドラムのフィルインから始まるタイトルトラック。

この曲も映画「トゥモロー・ワールド」(原題:Children of the Men) でとても印象的に使用されていますね。

余談ですがとても素晴らしい映画だと思うので、まだ見たことのない方は「バッファロー’66」と一緒に見ていただけると良いかと思います。お勧めです。

この最後の曲も、イアン・マクドナルドが作曲しました。

この曲も最初の「 21世紀のスキッツォイドマン」のように4人がそれぞれ均等に目立っている曲ですね。

それぞれの楽器が楽曲のそれぞれの部分でどのように曲を盛り上げているかに注目すると、とても楽しめるかと思います。

また分厚いコーラスパートが荘厳なイメージをかきたててくれます。

ピート・シンフィールドによる歌詞も中世ヨーロッパ的な雰囲気で、曲の非日常感をもり上げます。

途中にフルートのソロ的な美しいパートがあって、その隙間をフルート以外の楽器が静かに埋めていく様も見事です。

それにしてイアン・マクドナルド大活躍ですねこのアルバムは。

まとめ

今回聴きなおしてみてやはり隙の無い完璧に近いアルバムだと思いましたね。

まあ無理やり欠点を挙げるとしたら、一曲目がかなりハードなんで、そのハードさをそれ以降の曲に期待すると肩透かしを食らうことぐらいですかね。

自分もそのパターンで後半良くないなってずっと思ってましたら。まあそんなのは聴き慣れたら気にしなくなるんですけど。

冒頭でキング・クリムゾン入門と言いつつも、実はこれ以降クリムゾンにこれと全く同じ作風の作品はないし、完成度に置いてこれに匹敵する一枚は出て来ませんでした。

残念ながらこのバンドは奇跡的なバランスでなりたっていたこともあり、これと同じメンバーでアルバムを作る事は2度となかったんですけどね。

本作がそれほどの完成度を誇っているのは、勿論リーダーのロバート・フィリップのチカラもあるし、後にELPでも活躍するグレック・レイクの美しくボーカルもだし、この後2人で組んで『マクドナルド&ジャイルズ』と言う素晴らしいアルバムを残すイアン・マクドナルドとドラムのマイケル・ジャイルズの功績もかなり大きかったと思います。

それだけに、今作と同じメンバーでパーマネントに活動を続けていたら、すごかったのではないかという創造は膨らみます。

まあ、この後メンバーチェンジを繰り返すキング・クリムゾンは、それはそれで名作を発表し続けるんですけど。

さてこの後のメンバーの歩みですが、前述したようにイアン・マクドナルドとマイケル・ジャイルズはコンビでアルバムを発表。

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グレッグ・レイクはキング・クリムゾンを脱退した後、キース・エマーソンとカール・パーマーの3人でEmerson Lake and Palmerと言うプログレッシブ・ロックの代表的バンドを結成し、数多くの名作を発表します。

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やはり解散した後にもそれぞれ名を残すような素晴らしいメンツが集まって、それがそれぞれの楽曲を完成度を高めようと1つのベクトルへ向かっていた、という奇跡的な偶然によって生み出された結果が、この『クリムゾン・キングの宮殿』という世紀の名作なのだと思います。

肝心のその後のキングクリムゾンの軌跡ですが、しばらくはメンバーチェンジを繰り返しつつもロバート・フィリップを中心にピート・シンフィールド作詞でやってきたのですが、70年代の後半に『レッド』(Red) という傑作を最後に一旦解散。

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80年代に『ディシプリン』(Discipline) と言うアルバムで、ギターにアメリカ人のエイドリアン・ブリューを迎え、再始動するのですが、ほぼ別のバンドといってよいぐらいの、異なる音楽性を見せてくれます。

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そして現在でもメンバーを変えてロバート・フィリップが中心になり活動を続けています。

キング・クリムゾンはメンバーの入れ替わりが激しく、同じメンツで2枚以上のアルバムを作る事はほぼないと言う、なかなか珍しいバンドです。

それぞれのアルバムごとに強烈な個性があるので、気になった方はこれを機にその後のキング・クリムゾンの活動を追いかけてみると面白いかと思います。

特に有名でオススメの作品は『太陽と戦慄』、『レッド』、『ディシプリン』の3枚です。

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気になった方はぜひ。

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