80’sポップの名曲がつまったデビュー作、シンディ・ローパー『シーズ・ソー・アンユージュアル』

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今回はシンディ・ローパーCyndi Lauper)の1983年発表の大ヒットソロ・デビューアルバム『シーズ・ソー・アンユージュアル』(原題:She’s So Unusual 旧邦題:N.Yダンステリア)を紹介します。

いまは80年代っぽい音がまた流行っていますが、80年代ポップスの名盤としてもう名高い作品ですね。

「タイム・アフター・タイム」”Time After Time”「ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン」”Girls Just Want to Have Fun” など、「聴いたことある!」という方は多いのではないでしょうか。

セールスは全米だけで累計600万枚、全世界では1,400万枚ものセールス、全米トップ5に入るシングルヒット曲をなんと4曲も収録しています。

セールス面の成功はさて置き、もう30年以上も前のアルバムにもかかわらず、今でも聴き続けられ、愛され続けられているアルバムなんです。

どうしてこれだけ売れたのか、今なお愛され続けられているのか、アルバム製作の背景に何があったのか、結構面白いエピソードもあるので紐解きながら一曲一曲紹介していきたいとおもいます。

1. マネー・チェンジズ・エヴリシング “Money Changes Everything”

The Brains の1978の曲のカバー。

今聴くと原曲よりの凡庸なアレンジがどうかなと思ったりするんですけど、シンディの歌唱の熱っぽさがそれを打ち消してます。

「これをカバーしてちゃんと歌ったら普通にいい曲なんじゃない?」って言う発掘のセンスが流石だと思います。

原曲はいかにもポストパンク/ニューウェーブっぽい大袈裟で奇妙な歌い方なんですよ。

歌詞の意味合いも「お金がすべてを変えちまう、クソだぜ」みたいなニュアンスに聞こえます。

しかし、シンディの歌唱だと切実さみたいなものが伝わってきて「お金がすべてを変えてしまう」ことを本当に嘆いているというようなニュアンスになるんですよね。

「こういう歌いかたをすれば、この歌はもっと違ったニュアンスに聞こえるんじゃないか」というものを見つけてくるのがうまいんですよね。

この手法は本作の違う曲にも表れています。

お金といえばシンディは結構苦労人なんですよ。

この1983年のデビュー作を発表したときにすでにシンディは30歳で、当時のポップシンガーにしては遅いデビューなんですよね。

実は彼女は1978年に自らのバンドBlue Angelでデビュー、アルバムをリリースしたんですけど、評価はされたものの売れ行きは芳しくなくて、さらには解雇したマネージャーに訴えられ、自己破産に追い込まれてしまうんです。

結局それが原因となり、バンドは解散してしまいます。

しかしシンディはそれでもあきらめずに下積みをつんで、後に恋人兼マネージャーになったデビッド・ウルフに見出されて再びソロとしてデビューするんですよね。

実際にお金で苦労したからこそのリアリティみたいなものもこの曲にはあるのかもしれません。

2. ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン “Girls Just Want to Have Fun”

シンディの代表曲、もとい80’sを代表するヒット曲。

実はこの曲もカバー曲なんですよね。

あまりにもシンディのカバーが板についていて、完全に自分の曲としてものにしてしまっているから、もともとこの曲を知っている人でも半数以上の人は知らなかった事実ではないでしょうか。

ロバート・ハザードによって書かれ、1979年にデモとして録音されたままお蔵入りになっていたこの曲は、なんと、もともと男性側の目線でかかれたものでした。

シンディはロバートに許可をとってこれを女性目線に一部歌詞を書き直します。

もともとの曲の歌詞としては「女の子たちって楽しいことが大好きで、まあそういうものだよね…」的なニュアンスでした。

それをシンディは、「女の子たちだって楽しみたいんだ、好きに楽しもう!過度な干渉や束縛はやめて」という「主張」であり、ポジティブなメッセージに見事に転換、ガールズアンセムにしてしまったんですね。

このアルバム、知っている人はあまりそういうイメージはないでしょうが、実は全10曲中半数以上の6曲がカバーソングなんですね。

  • 「マネー・チェンジズ・エヴリシング」 “Money Changes Everything” 原曲:ザ・ブレインズ
  • 「ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン」”Girls Just Want to Have Fun” 原曲:ロバート・ハザード
  • 「ホエン・ユー・ワー・マイン」”When You Were Mine” 原曲:プリンス
  • 「オール・スルー・ザ・ナイト」”All Through the Night” 原曲:ジュールズ・シアー
  • 「ヒーズ・ソー・アンユージュアル」”He’s So Unusual” 原曲:1920年代の古いポップス
  • 「イェー、イェー」”Yeah Yeah”原曲:ミカエル・リックフォース

このアルバムが優れたポップアルバムたりえている一つの要因として、「実はこうすればもっと良くなるんじゃないか」という曲を沢山集めてきて、シンディの歌唱力を活かして名曲に仕立てているところなんですよね。

いい曲を集めても表現力が乏しければもちろんいいものは出来ないし、シンディと彼女のチームの場合は、アレンジ力はもとより、曲を解釈して再プロデュースし、自分たちのものにしていく能力に長けていたのでこのような素晴らしいアルバムになったんですね。

あんまり有名過ぎない曲をカバーしているのもポイントだと思います。

3. ホエン・ユー・ワー・マイン “When You Were Mine”

プリンスのカバー。

プリンスのオリジナルバージョンではシンディのに比べると結構淡々とうたっていて、結構アレンジもきらびやかなんです。

が、シンディバージョンはバックのアレンジを落ち着かせて、ボーカルはよりエモーショナルにして、切なくて苦しい感じがよりダイレクトに伝わるようになっています。

4. タイム・アフター・タイム “Time After Time”

80年代を代表するポップソングで、もはやスタンダード的な扱いもされる名曲。

本作には全米Top5ヒット曲が4曲収録されていますが、そのうちの2曲、「シー・バップ」”She Bop”「タイム・アフター・タイム」”Time After Time”は、共作ではありますがシンディ自身によって書かれた曲です。

なかでも「タイム・アフター・タイム」は1番チャートアクションがよかった曲であり(全米1位)、ジャズの大御所、マイルス・デイビスがカバーしたことでもしられています。

このことを持っても本人の実力があるということはよく分かったとおもいます。

でも大ヒット大ブレイクの原因はそれだけではもちろんありません。

それだけでは80年代を代表するポップアイコンの1人とはなりえませんでした。

それは彼女のキャラクター、パーソナリティーが魅力的、個性的だったからに他ありません

80年代を代表する女性アーティスト、ポップアイコンといえばマドンナですが、デビュー時期が近かったこともあり、当時シンディはそのマドンナと並び称されていました。

マドンナが与えたインパクトは大きく、その影響は多岐にわたります。

音楽だけでなく、ファッションやポップカルチャー、フェミニズムまで影響を与えました。

いうまでもなく巨大な存在なのですが、シンディもまたマドンナとはまた違った方向性で影響を与えてきたのです。

マドンナがこのようになりたいとか、女性にとって目指すべきあり方であるのに対してシンディの方は、個性的でいい、ありままの自分でいいと思わせてくれる存在です。

アルバムジャケットを見ればそれは一目瞭然です。

オレンジに染め上げられた奇抜なヘアスタイル。ドレスは彼女か以前働いていた古着屋でかったパーティドレス。ごちゃごちゃとアクセサリーを沢山つけています。

この写真のデザインは格好良く見えますが、ファッションとしてはスタイリッシュとはいいがたく、とても個性的で奇抜で、それでいて堂々としています。

彼女がどういう人間なのかがよく表しているのが、それこそ「タイム・アフター・タイム」のプロモーションビデオ。もちろんお話の中の演技ではあるんですが。

1分30秒くらいのところですかね。彼氏のところにやってきて新しい髪型を披露するシンディ。回想部分で前は普通のブロンドヘアだったのが真っ赤に染めて、サイドは刈り上げになっている。それを見て彼氏はドン引きして怒り出してしまう…。

それでもその格好をやめるわけではないんですね。

それでも彼氏とは仲直りしたのかな。プロモの中ではそれでも一緒にトレーラーハウスで慎ましく暮らしていたのですが、彼女は街を旅立つ決心をします。

恋人も途中までついていきそうになるのですが、愛し合っていながらも別れることになるんですね。

辛い別れですがそれでも彼女は自分らしくあるために旅立つんです。

現実のシンディは、自分のしている格好が他人にとっては奇抜で、やっぱりちょっと引かれてしまうということはちゃんと分かっているとおもいます。

それでも自分らしくあることを大事にしているということがここから伝わってきます。

しかも自分さえよければそれでいい人間ではないこともこのビデオから伝わってきます。

人を思いやる心が映像の端々に登場しますし、何より曲のメッセージがそうなのです。

If you’re lost you can look–and you will find me
Time after time
If you fall I will catch you–I’ll be waiting
Time after time

このアルバムではありませんが次のアルバム『トゥルー・カラーズ』の表題曲もそんなメッセージであふれています。

YouTubeのコメント欄をみてください。いかに多くの人がこの歌で励まされてきたか、それがわかります。

シンディはそういうアーティストなんです。

5. シー・バップ “She Bop”

ロック調のリフをシンセメインで奏でたニューウェーブ的な作りで、シンディのロックっぽい歌い方が堪能できる一曲。全米3位。

ゲイマガジンからインスピレーションを得て、女性の異性への性的関心をテーマに作られた曲で、過激な歌詞から、Parental Advisoryステッカーの一因になった曲でもあります。

今でこそ、カーディBからアリアナ・グランデまで女性の性欲について女性があけすけに歌う曲は結構ありますけど、当時はまだまだ一般的ではなかったので、この曲はかなり衝撃的だったんだと思いますね。

マドンナには当時からそういうことを先駆者的にやっていたというイメージがあるかと思いますが、実はシンディもそういう曲をやっていたというのはあまり日本では認識されていないような気もします。

6. オール・スルー・ザ・ナイト “All Through the Night”

きらびやかなシンセアレンジが印象的なスローな名バラード。

これもカバーなんですよね…。

ジュールズ・シアーの原曲ではなんと、明るい曲調なんですが、シンディ版ではテンポも落とし、スローバラードとして見事に仕上げています。

このようにシンディは解釈を加えたり、アレンジや歌の表現を変えることで、原曲が持つ意味や感情を増幅したり、別のニュアンスを付け加えたりします。

そうすることでオリジナルであるかのように、彼女のパーソナリティに曲を引き寄せたり、曲自体の強度を上げたりしているんですね。

アレンジに関しては実は強力なチームメイトがいて、本作発表後にブレイクするザ・フーターズ(The Hooters)の中心メンバー、ロブ・ハイマン(本作ではギター、ベース、サックス、コーラス)、エリック・バジリアン(キーボード、コーラス)、彼らと親交のあった本作のプロデューサーのリック・チャートフと共同でアレンジをおこなっています。

もともといい曲をさらに解釈力とアレンジ力によってさらに強力な曲として再プロデュースしている、そんな曲が沢山はいっているからこんなにもすばらしい完成度のアルバムであり、ヒットもしたんです。

7. ウィットネス “Witness”

シンディがソロ以前にやってたBlue AngelJohn Turiとの共作曲でスカっぽいアレンジ。

シンディの歌唱力に頼り切ったところがあって、ちょっと他の曲に比べると弱い感じがしますね。

8. アイル・キス・ユー “I’ll Kiss You”

シンセをフィーチャーしたパンキッシュなパワーポップナンバー。

曲としてはこれも可もなく不可もない曲なんだけど、シンディの演劇的な歌唱でパワフルに聞こえる。

9. ヒーズ・ソー・アンユージュアル “He’s So Unusual”

1920年代の古いポップスが原曲で、音質もわざと悪くして雰囲気を近づけています。

本作収録のカバーがいかに原曲を解釈して彼女のものにするか、という命題の元、アレンジされているのに対して、この遊びのような商品は原曲にいかに近づけるか、を狙ってやってます。

実際原曲聴いてみると、シンディのちょっとファニーな歌声に似てるんですよね。

まあ、作り手側もこれがお遊びであることをちゃんと意識していて、原曲の尺では聴かせずに、短く小品としてインタールード的にまとめています。

10. イェー、イェー “Yeah Yeah”

この曲に関しては他のカバーと違って大きな飛躍は見られなかったですね。

Mikael Rickfors の原曲のサビ部分のテンション低めなところをいい感じに盛り上がるアレンジにしたいという狙いだっとおもいますし、そこは成功しているんです。

しかし、アレンジが単調なのと、もっと動きのあるメロディの方がシンディの歌唱が活かされる気がします。

このアルバム、前半は最高なんだけど後半すこし失速するのが残念ですね…。

まとめ

どうだったでしょうか。

『シーズ・ソー・アンユージュアル』がいかに素晴らしいか、そしてどうして素晴らしいのか、わかっていただけたと思います。

簡単にいってしまうと、「いい曲」が「いいアレンジ」で演奏されている、そんな曲がたっぷり詰まっている、っていうこと。それにつきるんですね。

POPな曲が沢山つまっているから聴いていて心地よかったり楽しくなるのはもちろんなんですが、とにかく感情が揺さぶられるアルバムなんです。

だからこそ聴き手にとって心に残るアルバムだし、僕にとってもそうなんですが、大事なアルバムって思えてしまうんです。

色色と語っていきましたけれども、御託を並べなければ楽しめないアルバムではなく、単純にポップとして聴いて楽しい一枚ですので、是非聴いていただきたいですね。

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