今回は1989年発表のユニコーン三枚目のアルバム『服部』を解説します。
ヒットしたシングル「大迷惑」他、多数の代表曲収録で、ユニコーン最高傑作とも言われたりします。
前作の『Panic Attack!』ではサポート扱いだった阿部義晴(Key)の正式加入で、ユニコーンといえばこの5人という面子がようやく揃った一枚でもあるんですね。
3曲目までメンバーの演奏が一秒たりとも入っていないところも破天荒なんですけど、一番どうかしてるのはこのアルバムジャケット。売る気は無いのかと小一時間問い詰めたいです。しかもこのおじいちゃんの名前は服部さんではありません笑。中村さんです。
音楽的にもハードロック、レゲエ、フォーク、オケとの共演など内容もバラエティー豊か。前作ではまだまだ控えめだったユーモアも今作から全開になり、5人らしさが開花した名盤です。
それでは早速曲紹介行きます。
1. ハッタリ
アルバム一曲目からオーケストラに丸投げでメドレーを展開。メドレーの内容は
- おかしな2人~ツイストで目を覚ませ〜抱けないあの娘〜Maybe Blue〜Fallin’ Night〜ペーター〜I’M A LOSER〜パパは金持ち〜君達は天使
しかしこういう出落ち的な曲って飛ばされる宿命にあるんだけど、アレンジとメロディがコミカルで本人演奏じゃ無いのにユニコーンらしさがあって結構聴いてしまうのは流石。
というかギャグとして成立しているから面白くて聴いちゃうってのもありますね。歌詞の内容もわざわざオーケストラにやってもらう様な壮大なものでもないし笑。
2. ジゴロ
バイオリンとボーイソプラノだけの曲。まだまだメンバーの演奏は出てきません。
今なら子供にこれを歌わせるとはけしからんとか言って炎上しそうですね…。その名の通りジゴロの心情を歌った曲ですから。
3. 服部
頭打ちのドラムのリズムから激しく歪んだエレキギターによるカッコいいリフ、派手なキーボードソロから始まるロックナンバー。最後にベース音だけボーンと鳴るのもカッコいい。歌詞がおバカなんであんまり真面目に議論されないですけどハードロックとしてよくできてます。
リアルタイムではないんだけど、最初にこれ聴いた時、中学生か高校ぐらいで、30歳なんておっさんで年寄りだなと思ってたけど、今考えると全然若いすね。そういう意味で今さら内容に納得いくというか。
でも今の三十代は一部を除いてもうこの歌の中のような余裕は無いし、恋愛にも消極的で家庭的だとざっくりと思ってしまいますね。変な所で時代を感じました。
4. おかしな二人
プログレ的な複雑で大仰なイントロが、面白いっすね。他のバンドなら真面目にやってんだなと思うけどユニコーンだからギャグですね笑。サビが最後に一回しか出てこない構成もユニーク。
これもまたハードロックアプローチが気持ちいいギターと爽やかなメロディの食い合わせが癖になる名曲。ギターの手島さん(テッシー)がメタルやハードロック好きなのでこういうフレーズが出てくるのも面白いです。Aメロとサビはロック調で語気が強めな歌唱ですが、Bメロは優しく、切なさを感じさせる歌い方でいいです。
どうしようもない同性の恋人に向けたラブソング。前作で「SUGAR BOY」という曲もありましたが、この曲もゲイをテーマにした一曲。「SUGAR BOY」よりはちょっとわかりにくい内容になっていて異性愛についての歌とも解釈できます。
タイトルはニール・サイモンの戯曲『おかしな二人』(原題: The Odd Couple 1965年)からでしょうか? この戯曲は、性格が正反対の中年男性2人が共同生活を始めるコメディなんですけど、実は主人公達は潜在的にはゲイだったのでは? という考察があったりするんですね。そこまで考えられていたとすれば結構深いタイトルですね…。
5. ペーター
ベースの堀内一史(EBI)作詞作曲の三拍子の曲。
EBIさんはロックっぽくない、柔らかくてハイトーンで中性的な歌声の持ち主なんですけど、ユニコーンでは要所要所でその特徴的な歌声が活かされてます。
この曲もそんな一曲で、演劇やサーカスなどのBGMっぽい異国情緒あふれる曲調にEBIさんのボーカルが映える一曲です。オープニングとエンディングはジャズっぽかったりします。
6. パパは金持ち
奥田民生作詞作曲の親が金持ちの男が主人公のコミカルなポップソング。主人公が親がお金持ちという境遇に感謝しつつ、そのメリットを享受しつつも、いまいち自分に自信が持てない所が時々透けて見えてくる歌詞になっています。
この曲でもEBIさんの特徴的な声がコーラスで活かされてて、「お金持ち」感がよく出ています(笑)。前作収録の「ペケペケ」もAメロはEBIさん、サビは民生さんというメリハリが気持ちいい名曲でした。その流れを組む一曲かと。
曲の後半でラテン調のノリになって、メンバーそれぞれのソロが入るのも聴きものです。
7. 君達は天使
前の曲とつながっていて、ラテン調の曲ですが、後半パンクになるという面白い構成になってます。作詞作曲はEBIさんでボーカルは民生さんと半分ずつやってます。その曲の部分に対し一番効果的なボーカリストを配置するという、ボーカリストが複数いるユニコーンならではの強みが発揮されています。
プリンセス・プリンセスの奥居香、PSY・SのCHAKAのお二人がコーラスで参加してるのですが、阿部ちゃんがそこに加わって「おそってトリオ」としてクレジットされてるのが面白いです。
8. 逆光
阿部ちゃんのペンによるシリアスで「普通にいい」曲。歌は民生さん。隠れた名曲。
シンセや打ち込みを基調とした大澤誉志幸サウンドに通ずる様な80’sっぽいつくり。
9. 珍しく寝覚めの良い木曜日
ギターの手島いさむ作のレゲエソング。前作でもレゲエ調の曲はあったんですけどこっちの方がより本格的。エコーやリバーブを過剰にかけてダブっぽい演出も。
本作色んなジャンルに手を出してやりたい放題なんですけどとっ散らかってる印象があまり無いのは全体的を「ユーモア」や「遊び心」が貫いているからだと思いますね。
10. デーゲーム
全曲に続いてギターの手島いさむ(テッシー)作詞作曲。ボーカルは奥田民生。ボーカルもそうですけど、作家陣が厚いのもユニコーンの最大の強みであり利点。
その後の活躍から奥田民生のバンドだったんでしょ的な誤解があるかも知れないがとんでもないです。ユニコーンは全員凄いんです。
特に作曲数は他のメンバーに比べて少ないですけど、名曲を生み出す打率だけでいったらテッシーが1位だと個人的に思います。
タイトル通り野球に関する歌で、デーゲームののんびりした感じと野球への愛着をストレートに表現した名曲。
サウンドはシタールやタブラなどをフィーチャーしたインドっぽい要素がありつつも後半のコード感はポリスなどのニューウェーブ風で、フォークソング調でもあり、という一見シンプルな様に見えて結構色んな要素が違和感なく融合している何気にすごいアレンジ。
こういうバランス感覚はサラッとやってる様で凄いと思います。そういう意味では次作『ケダモノの嵐』に繋がるキャリア的にも重要な一曲かと。
この曲はシングル盤も出ていて、それは坂上二郎さんが歌ってて、更にのんびりした感じに。というかまた異なる味わいがあって更にジャンル分け不可能な曲に仕上がってます。実は結構凄いことになっている曲だと思いますね。
ですが、曲や企画としては面白いですけどセールスが見込める様なポップな組み合わせでは無いので売る気なかったんですかね…。こういう無茶苦茶なことが出来たのもなんかバブリーですよね。音楽産業自体に余裕があったというか。
11. 人生は上々だ
メンバー3人の共作曲でメインボーカルは阿部ちゃん。幼なじみの2人の人生をゆりかごから墓場までうたった曲。
後半どんどんキーが上がっていく演者からすると鬼みたいな曲笑。阿部ちゃんと民生さんが交互に歌ってるんですけど、段々キーが高すぎて歌がやけくそになってくのが面白いです。
実はこの曲もゲイの歌でして、ところどころにキーワードが出てきています。
イェイ イェイ バラとひな菊
ドュワ ドュワ ドュワ 耳打ち
イェイ イェイ イェイ どこが いけないの
12. 抱けるあの娘
読み方は「いだけるあのむすめ」。ビックバンドをバックに従えたゴージャスな演奏。
アメリカに対するステレオタイプを肥大化させた様なふざけまくった一曲。
最初はよくあるブルージーなフレージングのアコースティックギターでホーンセクションやリズム隊、エレキギターが絡んでどんどん大袈裟になっていきます。
13. 大迷惑
パンクバンドがオーケストラと共演した様なやけくそな曲。で、ギターだけはメタルという笑。デーゲームに比べるとそれぞれの要素が喧嘩していてチグハグな感じもしますがそれはそれで味、ユーモアの一要素になっていてずるいですね笑。
実はこの3枚目のアルバムまでシングルを発表なかったんですね。よって実はこれがデビューシングルになります。
歌詞も面白くて、マイホームを買ったものの単身赴任を言い渡され妻と離れ離れにならざるを得ないサラリーマンの悲哀について歌っています。ロミオとジュリエットや『金色夜叉』の貫一とお宮などの結ばれることのない悲劇のカップルを引き合いに出してるのも面白いです。
考えてみたらかなり多数の人がサラリーマンやOLとして働いてるわけで、彼らや彼女らを主人公にした歌がもっといいはずですよね。ユニコーンはそういう労働や会社勤めの悲哀について歌った曲(「働く男」「ヒゲとボイン」など)が割とあります。
14. ミルク
おふざけやユーモアが光る曲が多い中、最後にシリアスに落とす民生さんの弾き語りナンバー。赤ん坊に対する優しい眼差しを向けるラブソングです。
まとめ
というわけで全曲見てきましたが、改めてバラエティの豊かさにびっくりしますね。
音楽ジャンルだけでも、ハードロック、パンク、レゲエ、ダブ、フォーク、インド音楽、ラテン、シンセポップ、クラシック、メタル….きりがないですね…。また全員が作詞作曲に絡んでいますのでそれぞれの曲の個性もあります。
歌詞のテーマも多様です。例えば恋愛という切り口で見ても、恋愛というゲームの強者の視点から歌った「ペーター」「服部」「君達は天使」、対して思いどおりにモテない、パートナーと上手くいかない「珍しく寝覚めの良い木曜日」「おかしな二人」。
歌詞のシチュエーションや主人公の境遇も様々で、沢山の登場人物の「人生」が刻まれたアルバムと言っても過言ではありません。「人生」といっても重苦しいトーンではなく、彼らなりのユーモアでさらっと聴かせてしまうのが恐ろしいところですね。
次作の『ケダモノの嵐』では、バラエティの豊かさはそのままに、さらに個々の楽曲の完成度を高め、ユーモアとシリアスさのバランスが絶妙な、とんでもない傑作アルバムになっています。本作『服部』と並んで必聴です。
ということでユニコーンらしさが開花した名盤『服部』でした。
ちなみに『服部』関連の書籍も出ていますので気になった方は是非。