今回は車のことを歌った車ソングの特集です。
実は以前車ソング洋楽編をお送りしました。
今回は邦楽編です。
どんな曲がエントリーしているのでしょうか。
ドライブソング特集は数あれど、車自体を歌った曲となるとどのような曲があるのでしょう。
またその共通点や特徴とは?
そんな事に注目しつつ、紹介していきたいと思います。
①2組の大御所バンドの車曲
- スピッツ「青い車」1994年発表
まず最初はスピッツの1994年発表9枚目のシングル「青い車」。
アルバム『空の飛び方』収録。
車の歌と聞いて真っ先にこの曲を思い浮かべた方も多いのでは。
さて、ネットでは「輪廻の果てに飛び降りよう」という一節から自殺の歌ではないだろうか、という解釈がちらほらあるみたいですね。
しかし「輪廻」から外れるとしたら、「解脱」する必要かありますので自殺しても無理です。
ぐるぐると続いていくループのようなもの(例えば退屈な日常、など)から抜け出して、海に行こうぜというようなストレートな意味でいいとおもいます。
そういう意味ではテーマ的には以前取り上げた「死神の岬へ」にも似てますね。
「死神の岬へ」も車が一つのキーワードになっており、カーソングのひとつといえそうです。
いずれの曲にせよ車はここでは「自由」「解放」へ向かう(または逃げ出す)ためのアイテムとして重要な役割を担っています。
- Mr. Children「車のなかでかくれてキスをしよう」1992年発表
アコースティックギターとピアノがメインで雰囲気を演出する名バラード。
「青い車」がスピッツの代表曲であるのに対し、この「車のなかでかくれてキスをしよう」はベストにも入っていませんし、ミスチルが大ブレイクする以前のアルバム(2枚目『KIND OF LOVE』)に収録されている一曲ですのでご存知の方は少ないかも。
若い男女の初々しい恋愛模様が描かれていますが、全体になんとなく物悲しい雰囲気をたたえていますがどうしてでしょうか。
二人の恋愛の繊細さ、壊れやすさのようなものをあらわしているように思えます。
最後だけ明るいコード感になって終わるのが印象的です。
ところで意外とミスチルは車の歌詞への登場回数が多いバンドです。『BOLERO』に入っている「ALIVE」や『Discovery』の「光の指す方へ」は車のなかでの主人公の思索から歌が始まっています。
この感情は何だろう
無性に腹立つんだよ
自分を押し殺したはずなのに
馬鹿げた仕事を終え
環状線で家路を辿る車の中で「ALIVE」
蜘蛛の巣の様な高速の上
目的地へ5km 渋滞は続いてる
最近エアコンがいかれてきてる
ポンコツに座って 心拍数が増えた「光の指す方へ」
また初期のアルバムの中では今回紹介した「車のなかで~」のように、デートに行くときのアイテムとしての車が頻繁に出てきます。
ミスチルは車バンドだったんですね。メンバーは全員東京出身なのに意外ですけど。
②愛車、カーライフを歌う
このセクションでは愛車についての想いを歌った曲を紹介していこうと思います。
- 小沢健二「カローラIIに乗って」
トヨタのカローラIIのためにオザケンが書き下ろした小品。
オザケンが実際にカローラにのっていたかはさておき、カローラIIのある暮らしがゆったりと描かれた見事なCMソングになっています。
カローラはいわずと知れた大衆車で、日本だけでなく世界の大衆車といっても過言ではないポピュラーさを誇っています。
そんなカローラについて歌った曲をもう一品。
ブルーハーツ、ハイロウズ、クロマニヨンズでギタリストとして活躍する、マーシーこと真島昌利の初ソロ作、『夏のぬけがら』より「カローラに乗って」。
夏のぬけがら [ 真島昌利 ]
オザケンのカローラソングが、車を中心としたちょっとおしゃれな、ある意味生活感の薄い日常を軽やかに描いたのに対し、マーシーのカローラソングのほうはかなり我々の日常によりそったような、軽やかさをまとっています。
大衆車として我々の日常になじんで溶け込んでしまったカローラを中心にして、人生のなんでもない、ちょっとした一部分を鮮やかに切り取ったからでしょう。
とてもおちついて、すっと胸にしみこんでくるようなオススメの車ソングですね。
- TOKONA-X「H2」
愛知県常滑市出身のTOKONA-Xの、デビューにしてラストとなってしまったアルバム『トウカイXテイオー』からの一曲。
名古屋弁で繰り出されるラップが格好いいんです。
H2とはハマー2のことです。ハマー2はとても大きい車で、そんな車をブンブン乗り回すやんちゃなカーライフがラップされています。
しかしなんとも映像的なラップで、勝手に脳内でハマー2を転がしながら名古屋の町をブイブイいわせているTOKONA-X のPVが再生されちゃいますね。
残念ながらTOKONA-X は初ソロアルバムをリリースしたのと同じ年の2004年に26歳の若さで亡くなっています。
③男女の性愛の婉曲表現としての車ソング
車を性的なメタファーとして歌いこむのは、これは車曲特集の洋楽編でも触れたとおり、結構ロックには頻出の表現の一つですね。
邦楽にもそのようなロックソングはありますので、このセクションで紹介したいと思います。
- RCサクセション「雨あがりの夜空に」
まずはRCサクセションの代表曲「雨あがりの夜空に」。
ギターの仲井戸麗市とボーカルの忌野清志郎の共作曲。
キヨシローの愛車だった日産・サニーを題材に書いた曲。
この曲は単純に愛車をうたった歌ではなく、セクシャルな意味を同時に匂わせていますね。
こんな夜におまえに乗れないなんて
こんな夜に発車できないなんて
- ゆらゆら帝国「ミーのカー」
RCの「雨あがりの夜空に」が直接的でわかりやすいのに対して、ゆらゆら帝国の「ミーのカー」はもっと暗示的で抽象的でなぞの多い歌詞です。
焼けて潰れたミーのカー はめてもう一度ユーのキー
その歌詞にはロックの伝統よろしくセクシャルなイメージもただよっていますが、それだけではなく、不思議で不穏な雰囲気が漂っています。
そしてなんといっても特筆すべきなのはその曲の長さでしょう。
アルバムバージョンはなんと20以上の長さです。
しかしながらまったく退屈させることなく、むしろその魅力にはまり込んだらずっと聴き続けられるような名曲です。
④ブルース・スプリングスティーンに影響を受けた2アーティスト
車曲特集洋楽編で取り上げたブルース・スプリングスティーン。
いわずと知れたアメリカを代表するロックシンガーの一人で、日本のミュージシャン達にも絶大な影響を与えてきました。
数多くの印象的な車曲を歌ってきたブルースですが、そんな彼に影響を受けた日本のミュージシャン達もまた彼同様に車の歌をつむいで来たのでしょうか。
このセクションではブルース・スプリングスティーンに影響を受けたアーティストの車ソングを取り扱います。
- 佐野元春「アンジェリーナ」
佐野元春はその初期の作風でブルース・スプリングスティーンの影響をかなり受けています。
「Night Life」「Someday」などはモロですね。
ピアノやサックスをフィーチャーした疾走感のあるロックンロールがその特徴です。
「アンジェリーナ」は矢張りブルース・スプリングスティーンの影響が色濃い、1980年に発表された彼のデビュー曲で、車ソングでもあります。
サーキットシティ駆けぬけて
星のささやきランデブー
車の窓から身をのりだし
街角の天使にグッドナイト・キス
行き場のない若者たちが、自由や娯楽、行き場所を求めて街にでていく。
今晩 誰かの車が来るまで
闇に くるまっているだけ
車はそのための道具であり、そして時には落ち着く場所そのものだったりします。
車のエンジンを止めて
シートに深く身をうずめ
曇ったガラスを 指でぬぐい
お前の夜に話しかければ
そしてブルース・スプリングスティーンのみならず、佐野元春からも少なからず影響を受けていた、尾崎豊。
やはりピアノやサックスをフィーチャーした疾走感のあるロックンロールを得意としていました。
今回紹介するのは1985年に発表された尾崎豊の3枚目のアルバム『壊れた扉から』に収録の「Driving All Night」。
やはり行き場のなく、フラストレーションを抱えた若者がどこかに行こうとするけれど、向かう場所もわからずに街を走るという構図が見て取れます。
街までのハーフ・マイル
アクセル踏み込む
スピードに目をやられ
退屈が見えなくなるまで
Wow wow 行くあてのない Driving All Night
Wow wow 慰めのない Driving All Night
しかし佐野元春がどこか退屈をしのぎのための逃走、ナイトライフを楽しむ若者達の描写、という意味合いが強かったのに対し、尾崎豊のほうからはもっと切迫したものを感じます。
見あきた街を通りぬけて
寂しい川の上を走った
追い抜いたトラックの向こうに
闇に埋もれた日常が見える
あの頃 わけもなく笑えた
俺の友達は
みんなこの橋を
死物狂いで走った
しかし実は今回改めて尾崎豊の車ソングを発掘してやろうといろいろ音源をあさってみましたが、意外と車の曲は少なかったです。
彼の代表曲の「15の夜」では「盗んだバイク」が出てきます。
⑤その他、車をとりあつかった名曲
ということでいままでカテゴリー別に車を取り扱った邦楽を扱ってきましたけど、それには当てはまらないカーソングをここで紹介していきたいと思います。
- GRAPEVINE「吹曝しのシェヴィ」
GRAPEVINEって実は車を取り扱った曲が多いバンドなんですよね。例えば「ランチェロ’58」「ミチバシリ」という曲にそれぞれ車の名前が出てきます。そんな彼らのカーソングのなかで一番僕が好きなのはこの「吹曝しのシェヴィ」です。街の風景描写を背景に主人公が自分の人生について振り返るという曲なのですが、とにかく歌いこまれている街の雰囲気が素晴らしく、まるで映画の中のワンシーンみたいな曲になっています。そしてその風景描写に深みを与えるのが、この歌のタイトルにもなっているシェヴィとチャレンジャーというアメ車の描写ですね。正直この2台の車が同時に見れる景色なんて日本にあるのかなと思ったりするんですけど、それぞれの車が今まで自分の人生を通り過ぎて行った人たちや置き去りにされた何かを表しているような気がします。シングルのカップリングでアルバム未収録の曲なのですが、そんなポジションのまま置いておくにはもったいない大名曲だと思いますね。
- クレイジーケンバンド「GT」
東洋一のサウンドマシーンことクレイジーケンバンド(CKB)の4枚目のシングル曲。GTというのグランツーリスモの略で、長距離ドライブに適した動力性能と操縦性を兼ね備えた車、という意味らしいです。この曲は愛車でナンパに繰り出すという陽気なサマーソングなんですけど、「GT!」とひたすらサビで連呼するという直球のカーソングです。
まとめ
いかがだったでしょうか。
「車」という共通のテーマながら様々な切り口がそれぞれの曲にあり、興味深かったと思います。
車を歌った歌が必ずしもドライブソングとして適しているわけではないというのも面白いですね。
今回車曲特集の邦楽編が面白いと感じていただいたかたは、是非、洋楽編もお楽しみください。