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Mr.Childrenの最高傑作は『Q』ではないだろうか?【徹底解説】

2019/05/29
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Mr. Children。国民的なバンドです。四半世紀以上も活動を続けてきていまだに第一線で活動しています。

そんな彼らの最高傑作アルバムを一枚選ぶとしたら何がいいでしょうか。

コアなファンに人気でコンセプトアルバムとして評価の高い『深海』でしょうか。

あらたなファン層を獲得した『HOME』でしょうか。

まるでベストアルバムの様に大ヒットシングルを多数収録した『BOLERO』でしょうか。

筆者は本作、『Q』を強く推します。

その理由と素晴らしい内容について、今回は存分に語っていきたいとおもっています。



『Q』は「失敗作」?どんなアルバムなのか


Q

『Q』は9枚目のアルバムだから『Q』となずけられた様で、深い意味はないそうです。

約一年の活動休止後から2枚目のアルバムです。

シングル曲は「NOT FOUND」と「口笛」の2曲のみ。

前作『DISCOVERY』がシングル3枚 (注①)。

アルバムバージョンをテンポアップした「I’ll be」を含めると4枚。

次作の『IT’S A WONDERFUL WORLD』がシングル3枚であることを考慮すると少ないですね。

それも影響しているのかオリコンのチャートでは浜崎あゆみの『Duty』に阻まれて最高位2位で終わり、セールスも89万枚どまりでした。

CDの全体的なセールスが落ちてしまったいまでは89万枚でも凄いことですが、当時はセールス的には「失敗作」としてとらわれてしまっても無理はありません。

前作『DISCOVERY』の累計売上は180万枚ですから大きくダウンです。

では前作の約半分のセールスになってしまうほど「ひどい」アルバムなのでしょうか。

そんなことはありません。

それどころが最高傑作だと筆者は確信しています。

では具体的に一曲一曲みていきましょう。

*注①:本当は正式なディスコグラフィ上では前作はライブアルバム『1/42』にあたりますし、それを含めないと『Q』は9作目になりませんが、新曲がないことと、ライブアルバムであることを加味してここでは抜かして考えています。

曲紹介

【1曲目】「CENTER OF UNIVERSE」


一曲目は前奏的な小品で始まることの多いミスチルのアルバムのオープニングですが、今作では普通に長い曲から始まります。

「ああ世界はすばらしい」

これはアルバムの中に何度か登場するテーマです。

もちろんそれぞれの歌の主人公は「世界がきれいなものばかり」であるとは思ってはいません。

むしろ混沌としていて醜悪なものも沢山あるとわかっています。

しかしながらそれでも「世界は素晴らしい」と肯定的な態度をとっています。

【2曲目】「その向こうへ行こう」


珍しくメンバー全員の作曲クレジットになっている曲。

ベースがすばらしい動きをしています。

この曲と前の「CENTER OF UNIVERSE」の2曲のオープニング曲は非常に似たテイストをもっています。

シンセサイザーや打ち込みを使ったサウンドとバンド、そしてオーケストラの使いかたが今までにないバランスで展開されていて「新機軸のミスチル」という感があり、とても新鮮でした。

『Q』というアルバムの雰囲気を決定付けている2曲だと思います。

この2曲が好きになれる人は『Q』を好きになるでしょうし、この2曲が苦手な人は『Q』が嫌いだろうなという感じがします。

【3曲目】「NOT FOUND」


ドラマ『バス・ストップ』の主題歌にもなった6/8拍子の19枚目シングル曲。

当然の様にオリコンヒットチャートで1位をとりました。

この時期にしては比較的ストレートなラブソングです。

絞り出すような歌が感動を呼ぶ名バラード。

ブリッジの部分の高音が気持ちいいですね。

ヒットソングメーカーとしての実力を指し示すような一曲。

JPOPのヒット曲としては申し分ない内容です。

しかしアルバムの雰囲気と違うところがあるのでアルバムの流れからは若干浮いてしまっている気がします。



【4曲目】「スロースターター」


ギターのイントロで始まるいかにもロック調な一曲。

Aメロとサビの交互で成り立っていて、ミスチルにしてはシンプルな曲構成。

本作の中では1番暗い雰囲気の曲。

主人公は上京してみたものの、なかなか思うようにいっていないようです。

ここを逃げ出して 田舎に帰れば
これ以上嫌な事 知らずに済みそう

妄想もあるかも知れませんが、周囲からもネガティブな目を向けられて足掻いているようです。

耳を澄ましたら 微かに聞こえるよ
ここまでおいでと 意地悪な声がする

しかし自分はスロースターターであり、まだまだやれる、機会をうかがってるんだ、というようなことを歌っています。

みじめそうに見えても 同情なんていらない
尻尾を振り振りして 隙を観て奪い取る

 

出発の鐘はなった
スロースターター 今 発車

ミスチルなりのひねった応援歌でもあります。

最近のミスチルなら、同じテーマでももっとストレートで説明口調の応援歌になっていたと思います。

主人公の設定もこの曲では狡猾さ(尻尾を振り振りして 隙を観て奪い取る)と、

他人を寄せ付けないような卑屈さがありますが、

最近の曲ではもっとストレートでわかりやすい人物像を持った主人公になる傾向が強いですね。

【5曲目】「Surrender」


別れを切り出された男の歌。

なんとかよりを戻すこともできないことはないけれど、もう「降参だ(I surrender)」と別れが不可避であるような「あきらめ」が感じられます。

もう 土壇場
されど もうひと押し
けれど I Surrender

「スロースターター」で「あきらめねぇぞ」と歌った次のうたが「降参」というのもなんだか面白いです。

この曲で一つ引っかかったというか、面白いなとおもったのは次のフレーズでした。

大キライなフュージョンで 泣けそうな自分が嫌 イヤ

フュージョンはジャズを土台としてサンバやロック、電子音楽などと融合させた、ややポピュラーよりの音楽ジャンルの一つ。

確かに硬派なジャズファンからは嫌われそうなジャンルです。

歌の主人公=桜井和寿ではありませんが、ひょっとしたら嫌いなのかな、と思わせるようなワンフレーズでした。

ミスチルは良くも悪くも製作者側の音楽的な嗜好が見えてこないグループだと思っているので、こういう情報につい飛びつきたくなりますね。

【6曲目】「つよがり」


こういう曲をさらりと書いてしまうところがソングライターとして桜井和寿の恐ろしいところですね。

Aメロの展開がとても美しいです。

ボーカルも調子がよく、曲と声がマッチしています。

なんらかの心理的なトラウマを負い、心をとざしてしまう、つい「つよがって」しまう相手に対するラブソング。

それを「つよがり」としてしまうところはやや乱暴な気がしますが…。

【7曲目】「12月のセントラルパークブルース」


バンドらしいダイナミックさが感じられる一曲。

セントラルパーク、ダコタハウスなどのキーワードから舞台がニューヨークであることは一目瞭然です。

アルバムのクレジットを見るとニューヨークでもレコーディングしているようなので、その時の体験が基になっているのでは。

歌の中で寒さについて延々と愚痴を言っていますがそれもそのはず、ニューヨークは秋田、岩手と同じぐらいの緯度で寒波もきつく雪も沢山降ります。

1月2月には普通に氷点下まで気温がさがりますので、東京育ちのメンバーには相当こたえたはず。

しかしただ「寒い」と言っているだけではあまり共感も得られないのでちょっと味付けしてラブソングにしている印象です。

海外での文化的違いから日本への郷愁を抱いている様子も歌詞からにじんでいます。

6番街のベトナム料理店 ウェイトレスの娘が君に似てた

ニューヨークで日本料理を食べようと思えばそれほど苦労はないかと思いますが、現地用にカスタムされていたり、毎日そればかりだと飽きてしまいますので、ベトナム料理屋に駆け込みたくなるのもなんとなく理解できます。

ベトナム料理は米の料理もありますし、海外で日本食に近いものを食べたくなったら、中華料理とならんで逃げ込めるようなレストランでもありますので。

宗教かぶれが僕にこう問う 「Hey あなたは幸せですか?」
「幸せですとも」と嘘ぶきながら 十二月のセントラルパークブルース

どういう人物に遭遇したのかはなぞですが、「宗教かぶれ」と一蹴してしまうあたり、キリスト教に対する距離感、冷めた眼差しを感じます。

キリスト教に関する言及は本作収録の「友とコーヒーと嘘と胃袋」にも出てきますね。

ところで「12月」、「ダコタ・ハウス」といえばジョン・レノンです。

1980年12月8日、 ダコタハウス前にてジョンレノンはマーク・チャップマンに銃撃され、暗殺されました。

もしかしたらミスチルのメンバー達も命日にダコタハウスに訪れてみたのかもしれません。



【8曲目】「友とコーヒーと嘘と胃袋」


本作のハイライトの一つ。

今までミスチルになかったパターンの冒険的な曲。

複雑で格好いいドラムパターンにベースとギターが絡み、リズムだけでも十分美味しい楽曲になっています。

そこに言葉を限界までぎちぎち詰め込んだような歌が入る非常に中毒性の高い曲。

この曲は吉田拓郎の曲を参考にして作られたとのこと。

たしかに吉田拓郎のフォークソングによくあるような言葉を沢山詰め込むボーカルスタイルが酷似していますね。

構造的にもフォークソング的なスタイルをとっています。

フォークソングはAメロ、Bメロ、サビというまとまりを繰り返す普通の歌謡曲的な構造ではなく、そういう構造をもっと凝縮して一つにまとめたような大きな塊をなんども繰り返すような楽曲が多いのです。

例としてボブ・ディラン の「風に吹かれて」を聴いていただきましょう。

一つの起承転結ようなまとまりのある塊が何度も繰り返されているのがわかるかと思います。

たまにこういう実験的でもの凄くカッコいい曲を放り込んでくるのでミスチルは侮れません。

こういうボーカル以外のメンバーにきちんと見せ場がありバンド感がある曲、バンドのメンバーの顔が見えるような曲がもっと増えて欲しいなと思います。

この8曲目から12曲までは名曲の連続といった感じで本作を名盤たらしめている流れですね。

【9曲目】「ロードムービー」


名曲。

シングル曲が少ない、セールスがいまいちだった。

こんな理由で『Q』を聴かないのは本当にもったいないことです。

こういう良曲を聴き逃すことになるのですから。

ラブソングですが人生の最良の部分とでも言えるような一場面を切り取った描写が素晴らしく、単なる「愛してる」ソングから抜け出しています。

泣きながら君が見てた夢は 何を暗示してるの?
カラスが飛び交う空に モノクロの輝く虹
誰も笑っていやしない動物園

ここの部分はイメージは素晴らしいがメロディへの当てはめ方が1番より雑というか多少の無理やり感があります。

音楽的な気持ちよさよりも意味をとったということでしょう。

どうしても入れたかった詩なのでしょうね。

このメロディへの親和性よりも歌詞を重視する傾向は『I ♥ U』以降に顕著で、歌詞が詩的で音楽的なものから、より説明的、直接的、散文的になっていきます。

この傾向についてはいずれ詳しく語りたいですね。

街灯が2秒後の未来を照らし オートバイが走る
等間隔で置かれた 闇を越える快楽に
また少しスピードを上げて
もう1つ次の未来へ

最後は主人公が闇の国道を走る様子をまるで人生の比喩であるかの様に捕らえている素晴らしい描写で幕を閉じます。

街灯が等間隔で配置されているので、バイクで走っていると暗闇と街灯の明かりが交互にやってくることになります。

ここで「闇」といっているのは「苦難」や「不安」ともとれます。

それをこえると「街灯」の光がやってくる 街灯が希望の光に、未来を照らす 闇を超える快楽は 希望の光を信じて苦難を乗り越えるということです。

こういう人生のメタファーを夜の国道を走りながら感じたという事ですね。

そして背中には君の温もりを感じながら。

この曲に登場する乗り物が車で無くてバイクではならないは必然性はそこにあります。

バイクの方が「君」との一体感、人生を共にしていく感じが出ます。

実は曲のテーマは「hallelujah」や「安らげる場所」と殆ど一緒なんですよね。

見せ方や切り口が違うだけで。その多様な切り口が桜井和寿の腕であり、ソングライターとしての器なのでしょう。

【10曲目】「Everything’s made from a dream」

間違いなく本作のハイライトの一つ。この曲に関しては別の機会に別の記事で詳しく解説したいと思います。

【11曲目】「口笛」


個人的にはソングライターとしての桜井和寿の最高傑作はこの曲なのでは、

と思ってしまうほどの名曲。

基本的には「君」に対する主人公のラブソングなのですが、テーマは「今」の大切さ。

普段は意識していないけど、「世界ってこんなに美しいんだ」「かけがえのないものに囲まれてすごしているんだ」ということを発見して感動している、そんな喜びを表した歌だと思っています。

筆者は最初はあまりこの曲に注目していなかったんですね。

まあいい曲だなとおもって何回か聴くぐらいでした。

しかしある日のことでした。

散歩しながらこの曲のこの部分にさしかかったときです。

いつもは素通りしてたベンチに座り
見渡せば
よどんだ街の景色さえ
ごらん 愛しさに満ちてる
この部分がふっと「わかった」ような感覚になって、急に泣けてきてしまいました。
それからこの曲は自分にとっては特別な曲になってしまいました。
いまでもこの部分を聴くと涙腺にきてしまいます。

【12曲目】「Hallelujah」


壮大なラブソング。

本人もこの曲を気に入っているらしく、メロディとコード進行を再利用して、「and I love you」という曲を作っています。

なんとなく作り直した理由はわかる気がします。

「Hallelujah」は確かにスゴイ曲だとは思いますがAメロが完璧であるのに比べるとちょっとサビの部分が荒削りというか、Aメロ部分の凄さと釣り合いがとれていないなと思うところがあります。

「Hallelujah」サビの「勢い」がある感じも捨てがたいんですけど、完成度を語るなら「and I love you」に軍配が上がる気がします。

【13曲目】「安らげる場所」


アルバム最後をしめる、ピアノと歌、オーケストラのみによるシンプルな楽曲。

8曲目から12曲目までの怒涛の流れをクールダウンさせて現実に引き戻すかのようなアウトロ的な曲です。

「いろいろとあったけれども君と一緒にすごすという『安らげる場所』を見つけられてよかった」というラブソング。

単体で聴いてどうこうというよりはアルバムの流れで聴きたい曲ですね。



まとめ

いかがだったでしょうか。

『Q』の魅力が伝わっていただけたら幸いです。

この様なサウンドを好みそうなロックリスナーには届かず、ライトなリスナーからは「地味」「難解」という風にそっぽを向かれてしまっている不幸なアルバムだと思います。

ミスチルファンだけどまだ聴いたことない、あんまりちゃんと聴き込んでいない、というかたはもちろん、ミスチルは大嫌いという方にも一度は聴いてもらいたい名作です。

ミスチルが最も「偉大」だった時期の一枚だと思います。

もう一度こういう「凄い」アルバムを作ってほしいな、というのが一ファンとしての願いです。

この『Q』と前作の『DISCOVERY』で新たに発見されたミスチルの新機軸や美点の影響力は残念ながら『I ♥ U』あたりで無くなってしまいます。

(文中敬称略)

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