失敗作として紹介されることもあるザ・ストーン・ローゼズ(The Stone Roses)のセカンドアルバム『セカンド・カミング』(Second Coming 1994年発表)。
骨太のギターロックが展開される充実の内容なんですけど、当時も現在も評価はいまいちで、名盤認定されることは稀です。内容はそこそこ悪くないのにどうして評価が低かったのでしょうか。
今回は5年間のブランクの後に発表されたザ・ストーン・ローゼズの『セカンド・カミング』を、低評価だった理由、それでも魅力的なポイントに触れながらレビューしていきたいと思います。
- どうして評価が低かったのか?
- 1. ブレイキング・イントゥ・ヘヴン – Breaking Into Heaven
- 2. ドライヴィング・サウス – Driving South
- 3. テン・ストーリー・ラヴ・ソング – Ten Storey Love Song
- 4. デイブレイク – Daybreak
- 5. ユア・スター・ウィル・シャイン – You Star Will Shine
- 6. ストレート・トゥ・ザ・マン – Straight to the Man
- 7. ベギング・ユー – Begging You
- 8. タイトロープ – Tightrope
- 9. グッド・タイムス – Good Times
- 10. ティアーズ – Tears
- 11. ハウ・ドゥ・ユー・スリープ – How Do You Sleep
- 12. ラヴ・スプレッズ – Love Spreads
- まとめ
どうして評価が低かったのか?
評価がいまいちな大きな理由は、このアルバムをリリースしたのが、ほかでもない、ストーン・ローゼズだったからです。
全員が全員ふてぶてしいロックスター然とした佇まいの悪ガキ集団で結束が強く、それでいて踊れてポップな「完璧な」デビュー作を発表し、マッドチェスタームーブメントの中心におり、その後のイギリスのバンドの快進撃の狼煙を挙げたともいえる彼らがついにだしたセカンドアルバムだったから、としか言えません。
もし、このアルバムがまるっきりの新人バンドがファーストとして発表したものだったら、ひょっとしたら90年代の名盤の中に少しでも入れてもらえる余地はあったかもしれない、それぐらいの完成度はあると思います。
また、1stがジャングリーでキラキラしたギターロックだったのに対し、あとで詳しく見ていきますが、レッド・ツェッペリンを彷彿とさせるゴリゴリのハードロック路線という方向転換も、長年ファースト・アルバムの夢の続きを待ち続けたファンに戸惑いをもたらしたと思います。
前作から5年という潜伏期間も間が悪かったですね。クラブミュージックとロックの融合を更にダンスミュージックに接近したスタイルで成し遂げたプライマル・スクリームが『Screamadelica』を、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインがシューゲイズの金字塔でギターミュージック最後の革命的アルバム『Loveless』を発表し、ニルヴァーナが『Nevermind』を大ヒットさせグランジブームを巻き起こし、メタリカがどっしりとした重厚な90年代のメタルを鳴り響かせたセルフタイトルアルバムをリリースと、このような重要作が立て続けに出そろい、ロックミュージックが息を吹き返したのが、ストーン・ローゼズが表舞台から姿を消した1991年でした。
そして本作が発表された1994年というのは、ヒップホップの黄金時代の真っ最中で、リズムに対する地殻変動も起きていたのは間違いありません。
そんな激動のミュージックシーンの中で70年代的なロックを参照した回帰的なサウンドはやや時代遅れと言わざるを得なかったと思います。彼らなりの現代的なエッセンスは勿論あったんですけどね。
では具体的な内容を見ていきたいと思います。
1. ブレイキング・イントゥ・ヘヴン – Breaking Into Heaven
パーカッションとギターのコラージュで、まるでジャングルの奥地のような4分半のSE部分を潜り抜けるとハードでグルーヴィ―なロックチューンが展開されるオープニングトラック。
長い導入部分から演奏部分に入っていくこのイントロはいつ聴いてもカッコいいです。ファーストではポップでダンサブルなギターミュージックを披露していた彼らですが、この様に今回はハードロックテイストがかなり濃い作風になってます。特に今作の殆どの曲を1人で書いたジョン・スクワイアのギタープレイが圧倒的な一曲。
この方向転換が全く予告されていなかったかというとそうでもなく、活動休止前の1990年に既にギター弾きまくりのロックテイストと彼ららしいポップセンスが融合した「One Love」という曲がリリースされています。
1stと本作を聴き比べると急に音楽性を変えてきた様にもみえますが「One Love」を聴くと本作への作風の変化が決して突然変異的にもたらされた物ではないということがわかります。
2. ドライヴィング・サウス – Driving South
激しいギターリフで前曲から間髪入れず畳みかけるハードなロックナンバー。引き続きハードなギタープレイが圧巻の一曲なんですけど、ややギターが目立ちすぎている印象も否めない。
四人が均等に力を発揮してバンドとしての結束力がそのままサウンドの力強さになっていた1stの楽曲群に比べるとやや見劣りするというのが正直な所。
特にドラムのレニのドラミングは1stの様なポップでキラキラとしたサウンドにはマッチした軽やかなグルーヴ感がうりですけど、本作の様なヘヴィーで泥臭いサウンドにはやや持ち味が削られた様な感じがします。
1stの一曲目で、伝説のブルースシンガーロバート・ジョンソンが十字路で悪魔に魂を売って恐るべきギタースキルを身に着けた逸話にかぶせるように「俺は(悪魔に)魂を売る必要はない。彼は既に俺のなかにいるから」と歌ってのけたイアンですが、この曲でもその逸話をモチーフに使っています。
3. テン・ストーリー・ラヴ・ソング – Ten Storey Love Song
ローゼズお得意のうっとりする様なメロディーが披露されるラブソング。ファーストのメロディアスな楽曲群が、ダンスミュージックを起点としていたのに対し、本作のメロディが綺麗な曲からはダンサブルな要素はやや後退して、フォークロック的なものに接近しています。
曲に似合わないシュールなビデオも見もの。レニが撮影にこなかったので、彼のお面を被った人物が映っているんですけど、それが何とも不気味ですね……。
4. デイブレイク – Daybreak
本作で唯一4人の共作でクレジットされており、ジャムセッション的に作られたと思われるファンキーな楽曲。一聴したところでは前三曲ほどのインパクトはないんですけど、バンドとしての持ち味が上手くいかされた一曲で、何度も聴いてくうちに良さがわかってくるようなするめ曲。
とくにやっぱりマニのベースとレニのドラミングは素晴らしいと思います。こういうジャムセッション的な曲が集まった作品でいいから3作目を間髪入れず出してほしかったですね。4人がジャムセッションで作った曲、もっと聴きたかったです。
5. ユア・スター・ウィル・シャイン – You Star Will Shine
一作目でも多用していた逆回転サウンドをとりいれ、ドリーミーに仕上げたフォークナンバー。
メロディも悪くないし、いい曲なんですけど、もうちょっとダンスミュージックよりの1stに近いアレンジだったら、もっと受け入れられていたかもしれないですね。
あとはギターアレンジも下手にフォークっぽいアレンジにせずに、一作目のきらびやかなギターサウンドを復活させてもよかったのではと思います。
と思うと矢張り1stのクラブカルチャーからの影響を存分に取り入れ、きらびやかなギターサウンドが鳴り響いていたスタイルがいかに無敵感があったかという、ないものねだりにもどってしまうんですけど。
6. ストレート・トゥ・ザ・マン – Straight to the Man
本作で唯一のイアン・ブラウン単独作曲のナンバー。
イアンのテンション低めな歌い方やジャジーなコード感もあって、ファンキーではあるけれども、クールな印象のある仕上がり。メロディよりも言葉のリズム感を重視したようなのちのイアンのソロにもつながるような作風。
ただ、他のメンバーの存在感が薄く、折角凄い演奏家が集ったバンドなのにその持ち味があまり活かされていないので残念といえば残念。そういう意味でもソロ的な意味合いが濃い一曲。
7. ベギング・ユー – Begging You
ビートルズの「Tomorrow never knows」などのサイケデリックロックやドラムンベースの影響が強い打ち込みのダンスチューン。評論家の評価も高めだった一曲で、ベストなどにも入っており、重要視されている。本作唯一のイアンとジョンの共作曲。
なんですけど、個人的にはあんまり響いてこないんですよね。正直この作風ならボーカルイアンじゃなくていいし、なおかつレニがドラムじゃないなら、もうローゼズがやる必然性はあまりないと思います。メンバー二人の個性が生きてないわけだから。同じリズムパターンでも、やはり一曲目、二曲目のレニが直接たたき出したグルーヴの方が強力だと思いますし。
本作の他のいまいちなナンバーにも共通する点なんですけど、ローゼズは四人の一体感が醸し出す無敵感が心地よかったバンドなので、そこを欠いてるだけでファンには不十分に感じられます。
とはいえローゼズとして聴かなければそこそこダンスロックとして楽しめる一曲なのかもしれないですし、前述した通り本作の中ではむしろかなり評価の高い曲ではあります。
8. タイトロープ – Tightrope
イアン、ジョンとレニのボーカルによる多重ボーカルのフォークソング。
インド音楽的な要素もあるのでラーガロックとも言えます。
フレーズの繰り返しによるヒプノティックな雰囲気は最終曲の「Love Spreads」にも通じる所。
9. グッド・タイムス – Good Times
ローゼズ流のブルースロックナンバー。曲のタイトルやギターのフレージングなどにレッド・ツェッペリンの影響を色濃く感じる一曲。
十分格好良くていい曲なんですけど、バックが激しい分イアンのジェントルなボーカルスタイルでは若干物足りなさがある。
10. ティアーズ – Tears
トラッド的な雰囲気を取り入れた一曲で、アコースティックな雰囲気で始まって後半が盛り上がる構成など、7分近い長尺さなど、やはりツェッペリンの「天国の階段」を想起させる一曲。
「天国の階段」と比べてしまうとアレンジのきめ細やかさやダイナミックさで負けてはしまいますけど、後半の展開は感動的で、イアンのふり絞るような切ない歌唱が思いのほか良くて、1stでは披露されてなかった側面が引き出されていると思います。
レニのドラミングも本作のほかの曲よりも躍動感があっていいですね。
見過ごされがちですが名曲、名演だと思います。
11. ハウ・ドゥ・ユー・スリープ – How Do You Sleep
イアンのソフトなトーンのボーカルが実にマッチしたドリーミーな一曲で、個人的には本作のベストトラックの一つ。ベストなどには収録されていないが、隠れた名曲。
1stの時の甘いメロディーをダンスミュージックではなくフォークロック的に調理した曲で、ジョンのギターソロもいいし、間奏部分のマニのベースフレーズもメロディアスでカッコいいものになっていて、楽器の聴きどころもきちんと確保されています。
イアンは歌へたくそとか、色々といわれてて、実際ライブとかだと音外しまくっているんですけど、かといって魅力がないボーカリストかというと全然そんなことはなく、ソフトな歌声はこのようなメロディの美しいバラ―ドになると実に甘く響くんですよね。
なんども聴いてはうっとりしてしまいます。
12. ラヴ・スプレッズ – Love Spreads
ダンスミュージック的な発想で展開されるロックチューン。「One Love」の意匠を引き継いだ一曲であり、1曲目、2曲目にも近しい作風。同じフレーズが繰り返されるサビ部分の呪術的なボーカルスタイルはイアンにあっていると思います。各人のスキルや特性が活かされた一曲と言っていいかと。
ただ、彼らの代表曲とするにはダンスミュージックとしての快楽性においてもハードロックとしての迫力においても、満足できる地点までは到達しておらず、ちょっとパワー不足かなとは思います。
ダンスミュージックとハードロックの融合という試みについては、後発のザ・ミュージックの方が巧みかと思います。
ただバンドの演奏力としてはローゼズの方が全然上なんですけれども……。
まとめ
今回聴きなおしてみましたが、改めて悪くないアルバムだと思いました。ただ、ローゼズの作品として聴くと色々と難点や、「彼らはこんなものじゃない」という想いがこみ上げてきて評価が低くなってしまうと思います。なんの先入観もなかったら割といいアルバムなんですけどね。
また、前作がイアンとジョンの共作がメインだったのに対して、クラブカルチャーに造詣の深いイアンが曲作りに殆ど関わってなかった今作は、独特のダンスミュージック的なグルーヴ感を出すことが得意なリズム隊の特性が活かしきれてない曲が多かったのは事実だとおもいました。言い換えるならば1stの4人ががっちり組み合った感は減少して、ジョンのギターが前面に出てきすぎてる曲が多かったということですね。
ロックに接近せずに当時全盛期だったヒップホップや、プライマル・スクリームや80年代末期のニュー・オーダーの様にハウスを取り入れたサウンドをやっていたらレニのプレイももっと輝いていたし、ローゼズ流の新しいサウンドを生み出して、これほと回帰主義的なアルバムにならなかったのではと思うと残念ではあります。
正直再評価は難しいとは思います。またロックがぶり返してきているみたいな話もありますが、ストロークス以降のロックが参照点なので、古典的なロックを踏襲した本作はその文脈にも乗らなさそうですし。
ただ、何度も繰り返すようですが、酷評に値するとは思えないし、時代に寄り添った一枚ではなかったと思うけれども、内容は十分に良質なものだったと思います。
それとこの後活動を続けられなかったのも大きいですよね。活動が続いていれば、キャリアも振り返りやすいし作品が少ないと雑誌も特集が組みにくいですしね。もしコンスタントに活動を続けていたら、もうちょっと彼らの影響力もピンポイントなものではなく、幅広いものだったでしょうし、つくづく残念です。