今日はカナダのバンド、デストロイヤー(Destroyer)の「カプート」”Kaputt”と言う曲を紹介します。
この曲はアメリカの著名なWebマガジン、Pitchforkの2011年の年間ベストソングで、第6位に選ばれた曲です。
この曲が収められたアルバムは、同誌の2011年ベストアルバムのなんと2位に選出されました。
それでは実際にどんな曲なのか、みていきましょう。
メタルじゃない
デストロイヤー。ヘビメタバンドみたいなバンド名ですけど、全然メタルバンドではないです。
Dan Bejarという髪の毛もじゃもじゃのおっさんのバンド(笑)。
で、曲を聴いてみる、シンセサウンドを基調としてサックスとか、女性コーラスとか入っているAOR的な仕上の1曲。
前述したようにカナダのバンドなんですけど、この曲の中にはイギリスの有名なロックマガジンの名前だったり、最後にはアメリカの話が出てきたりします。
なんでそういう内容になってるのかということをこれから見ていきましょう。
プロモーションビデオ
この曲にはプロモーションビデオが作られていて大変面白い仕上がりとなっていて、歌詞とも当然リンクするので、ちょっと見てもらいましょう。
なかなか長いビデオですので最初は途中まででいいです。
いかがでしたでしょうか。
最初の方はコミカルで面白いですよね。途中からちょっとわけがわからなくなってくる(あとで解説します)。
心地よい浮遊感のある曲なので、ずっと聴けちゃう中毒性がありますね。
一時期この曲ばかり聴いていました。
ロキシー・ミュージックの「アヴァロン」を引き合いに出している人がネット上でちらほらいますけど、その感覚すごくわかります。あの曲も中毒性高いですね。
というわけで聴く分には問題ないんですけど、映像としてみるには正直ちょっと長いなというのが正直なところです。
PVの内容
最初に水着の女性がいっぱい出てきて、ちょっとしたイメージビデオみたいな感じなってる。
普通のPVならいかついラッパーとか、ちゃらちゃらしたバンドマンが、女の子とイチャイチャしながら出てくるんだろうけど、その女性の軍団を掻き分けるように登場するのが、母親が買ってきた服をそのまま着てるようなさえないメガネの少年。
格好つけて歌ってるんだけど、鼻水が出ててきてティッシュ渡されたりしてる。
中学生のときの僕かと思いました笑。
ところが場面はどんどん霧がかかってきて、少年はその女性に触れようとするんだけど、なかなか捕まらない。
そのうち実は、美女軍団は少年があのパソコンで見ていた動画かなにかの存在ってことが明らかになる。
それで通信障害か何かで続きが見れない。悪態ついてるところで、母親らしき人がやってきて、水をもってきて、
「あんた暗がりでパソコンばっかり見てると目悪くなるよ」的な小言を始める。
という、非常に情けない日常が描かれております。
砂漠の風景
で、その母親がブラインドを開けると外は砂漠が広がっていて、また違う場面が展開されるんですね。
そこでは砂漠で遭難した年老いた旅人が、倒れこんでほとんど動けない状態で水を求めている。
そうすると場面は夜になって、なんとなく中近東っぽい風情のエキゾチックな女性たちが現れる。
で、そのうちの1人がワイングラスいっぱいの水を渡してくれる。
男は当然その水を飲み干すんですけど気づいたら日中に戻っていて、男が飲んでいるのは水ではなく砂になっている。
最終的には骨だけが映され、哀れその男は死んでしまったとという状況が描かれています。
空、そして、水中
そこから場面は、急に空になります。
ここら辺で結構お腹いっぱいになってくる(笑)。
「長げぇよ。あの面白い少年を出せ」的な。
我慢して見続けると、そこでは鯨が風船で飛んでいるというファンタジックな世界に。
その風船が割れると当然鯨は下に落ちていくわけなんですけど、同じ過程でさっき出てきた少年と、水を求めて砂漠で行き倒れていた老人が同時に落ちてくんですね。
2人とも水の中に落ちるわけなんですけど。老人は水の中にいるのに、持ってるワイングラスで水を飲もうとしてそのまま溺れていくんです。
全く状況が見えていないんです。
ところがあの少年は頭上に水面があるのを一暼すると、懐から鯨が飛んでいた風船を取り出してそれに空気を吹き込みます。そして水面へと浮かび上がっていく。その背景で他に何人かが沈んで行くのが見えます。
で、結局この長いプロモーションビデオで何が言いたいのか。と言うとそれは歌詞の方を見ていけばわかるんですね。
ということで、次は歌詞の方見ていきましょう。
歌詞を読む
先ほど聴いていただいたように歌い方はとてもソフトで優しい感じなんですけど、歌っている内容はよく見てみると結構辛辣な内容なんですね。
Wasting your days
Chasing some girls, alright
Chasing cocaine
Through the backrooms of the world
All night
歌い出しの部分では女遊びや薬を追い求める、古いロックスターのような生活イメージについてうたっています。
それを形容する表現としてwasting your days、つまり無為に日々を送っているとやや批判めいた表現が使われています。
それからサビに入るんですがここが変わってるんですね。
Sounds
Smash Hits
Melody Maker
NME
All sound like a dream to me.
All sound like a dream to me.
Sounds、Smash Hits、Melody Maker、NMEと、イギリスの音楽雑誌の名前が羅列されています。
アメリカのローリングストーンとかが入ってこないのが、ちょっと不思議なんですけど、イギリスのそういった雑誌の方がちょっとタブロイド誌的な要素がつよいので、そのせいもあるのかな。
そういったロックのゴシップ記事を扱う雑誌、さっき歌詞の冒頭で見たようなロックスターの生活などをネタとしている雑誌について、Dreamとやわらかく表現していますが、全部絵空事のように見えるといってるんですね。
次のセクションをみてみましょう。
Step out of your toga and into the fog,
You are a prince on the ocean…
(In a pinch, in the sky, in your eye)
Step out of your toga and into the ocean,
Look they got your prints on the fog…
(In a pinch, in the sky, in your eye)
Toga(トガ)というのはローマ人が羽織っている大きな布の着物です。わからない人は『アニマルハウス』という映画を見ればよくわかります(笑)。
ローマ人の貴族的な生活、つまり守られた立場から、何が起こるかわからない社会(霧の中へ、または大海原)に出て行く、ということについて歌っています。
prince on the oceanとはギリシア神話の英雄、オデュッセウスが冒険の旅に出るというようなイメージからきているのでしょうか。
次はいよいよ最後のセクションです。
I wrote a song for America
Who knew?
「僕はアメリカのための歌を書いたんだけど、そんなこと誰がしっていたっていうんだ?」という、大体そんな訳になるかとおもいますが、これは何をいっているんでしょう。
最初のセクションではロックスター的な享楽的生活を送ることについて、2番目のセクションではロック系のゴシップ雑誌に対するやんわりとした批判、または距離感の表明について、そして3番目のセクションでは現実に立ち向かっていくということについて歌っています。
ちょっとデストロイヤーの過去作にアメリカについて言及しているものがあるかはわからなかったので、実際にここでいわれているような曲があったかどうかの真偽はおいておきます。あるいは実はこの曲そのもののことをいっているのかもしれません。
アメリカはいうまでもなく、アメリカンドリームというように、成功して豪華な生活を送るということが推奨されている国です。そのためにガンガン消費が促されているわけです。
使えば使うほどお金が儲かるものだ、という信仰すらあります。
ただその一方で夢を見ることで現実が見えずに搾取され続けて、騙されたり、失敗したりする人が後をたたないのも事実です。
アメリカの行政は圧倒的に金持ちに有利になるように出来ているのですが、その不公平について一般のひとにどう思うか聞いてみたところ、なんとも思わないらしいんですよね。
むしろ自分が将来金持ちになったときに不利になるようなことがあったら困ると考えるらしいのです。
そういったアメリカの状況について揶揄するような歌を過去に書いたんだけど、誰にも伝わらなかった。というようなことをこの最後の部分では言いたいのではないでしょうか。
アメリカに対するある種冷静な冷ややかな視点は実にカナダ人らしいとおもいます。
話は変わりますが、やっぱりカナダ人はアメリカ人よりもガツガツしていないですね。カナダ人の人がそういってましたし、僕も実際にカナダの人はアメリカのビジネスマンに比べてのんびりしているなとおもいました。
さて、ここまで解釈してきたところでもう一度プロモーションビデオに戻りたいと思います。
再びPV解説
まず少年のくだりはわかりやすいですね、享楽的な生活を夢見ていると、母親がやってきてブラインドを開けると暗い部屋に明かりがさします。
ここは3番目のセクションと重なります。ただ憧れるだけじゃなくて現実を見据えて行動をしろと。
さもないと「あんたこうなるよと」いうわけで砂漠の旅人のシーンに移るわけです。
彼は危機的な状況にあるにもかかわらず、夢を見ることでその渇きを癒している。
でも実際には飲んでいるのは砂なわけで、現実に対処しなかったから白骨化してしまうんです。
最後の部分で少年と対比して描かれることでこのことはよりはっきりしてきます。老人は水の中で溺れているのに水をさらに飲もうとしています。
今すべきことは水面に出て行くことなのに。
夢をみるのはよくないぜっていうメッセージではないんですね、享楽的な生活に目がくらんだり、PVのなかの老人のように、現状が見えていないのはまずいんじゃないの、っていうことです。
事実少年が水中から浮かび上がれたのは、鯨を空に飛ばしていた風船なんです。想像力を正しく使って、危機的状況から脱しているわけです。
3番目のセクションにあるように夢想するだけでなくてまず現実に立ち向かって行くことが必要だといっているんですね。
まとめ
なんかこうして解釈してみるといやに説教くさいいやな歌だなぁとおもってしまうかもしれませんが、こうやってだらだらいわなきゃいけないことを、歌詞と曲で直感的に届けるところがスマートなわけで。
そういった内容が夢みたいな、浮遊感のあるサウンドに乗せられているっていうのもまた面白いですよね。
歌詞に一度も出てきませんでしたが、kaputtというのはドイツ語由来の形容詞で、俗語でだめになって、とかぶっ壊れてとかそういう意味。
以上解釈を展開してみましたが、いかがでしたでしょうか。
ネットを見てみるとまったく逆の解釈をしている人がいたりして面白いですね、曰く、Bejarの少年時代を回想し、ロックの伝説への憧れを表した曲と。気になる方はいろいろと見てみると面白いとおもいます。
前述のとおり、この曲の名前がそのままタイトルになっている『Kaputt』というアルバムは、ピッチフォークという音楽系のウェブマガジンで2011年の年間2位になった名作ですので、今回興味ができた方は是非聴いてみてください。