今回はブラー(blur)の全オリジナルアルバムレビューをお届けします。ブラーと言えばオアシスと共に90年代のイギリスを代表するロックバンドです。今年(2023年)はサマーソニックで来日してトリを務めることでも話題になっています。
ブリットポップを代表する名盤として名高いサードアルバム『パークライフ』やアメリカのオルタナティブロックを取り入れた転換期の作品でセルフタイトルの『blur』などが、語られることが多いですが、他のアルバムはどのような作風なのでしょうか。
今回は時系列順に彼らの全てのアルバムをレビューしていきたいと思います。個人的にも大好きなバンドですので評価は甘くなってしまうかもしれませんが、10点満点で点数もつけています。
『Leisure』 1991年
記念すべきデビュー作。シューゲイズとマッドチェスターとギターポップに時折シンセをまぶしたような音楽性。ただ統一感は良くも悪くも結構ある。悪くもというのは似たような雰囲気や同じアイデアの使い回しみたいなものが多かったりするから。
当初から曲のクレジットは全員名義で作詞だけボーカル、キーボードのデーモン・アルバーンが全て担当。基本この体制に中期はごくたまにギターのグレアム・コクソンが作詞のクレジットにも入ってくる。全員が曲を作るプロセスにちゃんと関わっていることで、ブラーの曲はメンバーそれぞれの個性がちゃんと見えるアレンジになっていて、それも彼らの魅力だと思う。
とくにグレアム・コクソンのギターは当時から場違いにノイジーで面白い。単純に下手くそなシューゲイズみたいな空間を埋めればなんでも良いノイジーさじゃなくてもっと捻くれていて、セルフタイトルアルバムや『13』の頃のギターが前面に出てくる予兆はこの頃からあったんだなと分かる。
「She’s so high」とか「Bang」や「There’s no other way」など、この後のブラーっぽくないけど突き抜けてる名曲もある。ただ、前半までは良いけど後半はパターンが見えて来てちょっときついのでアルバムとしては10点中6点。
『Modern Life Is Rubbish』1993年
「現代生活はゴミ」、という挑発的なタイトルの2枚目。勢いで誤魔化してるようなアレンジが少なくなって、曲やアレンジの方向性が定まってアルバムとしてまとまりのある一枚。評論家の評価も高い。イギリスっぽさを前面に出してきたのもここから。歌詞面では、具体的なキャラクターを作り上げるなどして、それらの人物を通して、タイトルのコンセプト通り現代のイギリスの生活を描き出している。
インターミッション的な小曲が挿入されてもろにコンセプトアルバムっぽい作りになっているのもここからで、このテーマ、手法は次の『Parklife』『The Great Escape』まで少しずつ形を変えて引き継がれる。
ファーストアルバムよりもアルバムとしてのまとまりや出来は良い。ただ、佳曲が集まっており、これより後の作品と比べると大名曲と言えるものが足りないともいえるので10点中7点。
『Parklife』1994年
オアシスのセカンドやファーストと並んでブリットポップ、90年代を代表する名盤として名高い3rdアルバム。前作のテーマである現代都市生活を描くというコンセプトは受け継ぎつつ、ロンドンに焦点を絞った具体性とでブリットポップやイギリスを代表するアルバムとしての認知を得た。逆にその事でイギリスになんの憧れも抱いてなさそうな(クールブリタニアというムーブメントはあったものの)アメリカ市場にはウケなかったのもあるかもしれない。キャラクターを作って歌にするというレイ・ディヴィス的手法もこなれてきている。
とにかくソングライティングがノリに乗ってる一枚で、「Girls And Boys」「End of Century」「Parklife」「To The End」等、名曲のオンパレードにクラクラする。
個人的には正味最終曲の「This is a Low」が一番好き。当然ベスト盤に最も多くの曲が収録されていて、アレンジの幅も前作よりかなり広がっている。
コンセプトアルバム的な小品が邪魔といえば邪魔な気がして、もう少し曲数を絞ったら完璧なアルバムと言えたかもしれないのが惜しい。ということで10点中9点。とはいえ、時代とシンクロすることでしか成立しえない大名盤。
『The Great Escape』1995年
セカンドからの現代都市生活を描くコンセプトはそのままで基本的に前作の延長線上の作風な四枚目。オアシスの全盛期が丁度この辺りで両バンドの比較や対立をメディアが煽っていた。オアシスの「Roll with it」と本作収録の「Country House」の同時発売シングル対決みたいなものもあった(結果はセールス的にはブラーの勝利)。
「Country House」は芸術家のダミアン・ハーストが撮ったり、『時計仕掛けのオレンジ』を模した「The Universal」(監督はジョナサン・グレイザー)等プロモーションビデオも相変わらず面白く、話題性や盛り上がりが一番あった時期かもしれない。ただ、だからといってアルバムそのものも充実していたかというと個人的にはそうでもないという印象。取り立てて新しい作風の変化もなく、割と手癖で作っている様な曲も多く、グレアムのギターも他のアルバムよりは冴えてない。唯一、アレックスのベースのフレーズは相変わらず面白く、特に「Entertain Me」や「Country House」などでのプレイは秀逸。もっと評価されてもいいベーシストだと思う。
というわけでアルバムとしては長すぎるのもあって10点中6点。
『Blur』1997年
ペイブメントに代表されるアメリカのインディーロックの影響が色濃く、ブリットポップムーブメントに引導をわたしたといわれている転換期的な5枚目。アイルランドのレイキャビク録音。サブスクではわからないけどアイルランドの自然をバックにしたエコバニみたいなアートワークが美しい。
セカンドから三作続いた、コンセプトアルバム的なつくりやキャラクターソングライティングはなりをひそめ、歌詞はよりパーソナルでサウンドはよりラウドで実験的な内容になった。「Popscene」や「Bank Holiday」みたいなブラー特異のポップパンク路線をグランジ風にアレンジした「Song 2」が一番の有名曲だが、派手なシングル曲じゃなくて、Lofiな「Country Sad Ballad Man」やグレアム単独曲の「You’re So Great」などのアルバム曲がいい。
いい曲とそうでもない曲の差が激しくないので、2ndのようにアルバムとしてのバランスはいままでで一番いい。個人的に、かなり長い間ブラーの最高傑作は本作だったけど 同じ路線で大名曲三曲収録の次作と比べると正直若干物足りないので10点中8点。佳曲が詰まっているという点ではセカンドに似ているかもしれない。
『13』1999年
長年一緒にやってきたプロデューサー、スティーヴン・ストリートではなく、前年にマドンナの『Ray of Light』(名盤!)をプロデュースしたウィリアム・オービットを招いて作成された六枚目。前作の延長線上の作風だが、グレアム・コクソンが前作以上に大活躍し、かなりギタードリヴンになっている。
「Tender」などのキャッチーな名曲も入っているが、よくこれを国民的大人気バンドがリリースしたなというかなり実験的な内容。『Parklife』あたりのファンがいきなり聴いたら????ってなると思う。
というわけでかなり攻めた内容で聴きごたえもあり、前述した「Tender」やグレアムボーカルの「Coffee and TV」、めっちゃ暗いラブソング「No Distance Left To Run」必殺の名曲も入ってるが、若干長いのと(66分)グレアム色が強すぎてブラーの持ち味が全開というわけでもないので個人的には10点中8点。
でも本作が最高傑作という人は結構多いと思う。このままグレアムが脱退しなかったらデーモンのボーカルが半々ぐらいになる路線もあったかもしれない。
『Think Tank』2003年
制作途中にグレアムが脱退したため、殆ど3人で製作された7枚目。ジャケットは世界的に有名な匿名アーティストのあのバンクシーが担当。今まで間が空いたとしてもほぼ2年以内のスパンでアルバムを出してきたがブラーだったが、メンバー脱退のごたごただったり、ベストアルバムの発表があったり、デーモンはゴリラズを始動させたりとで、色々あったので4年ぶりとなった。
前作でグレアムが好き勝手やっていたから不満はなさそうだったのにこのタイミングで脱退したのがかなり意外。ベン・ヒリアーが基本的なプロデュースを行い、引き続きウィリアム・オービットも参加、ファットボーイ・スリムとして知られるノーマン・クックもプロデューサーとして参加した。
とまあ、色々と環境の変化や新しい要素があるアルバムなんだけども全体的に不思議とダークな統一感がある。グレアムを失った喪失感が反映されているのかもしれない。
モロッコでも録音をおこない、現地のミュージシャンを起用したりしている。
この手の試みは結構失敗しがちなんだけどブラーの場合は大成功していて、モロッコ音楽しすぎてない丁度良い塩梅の取り込み方が良い。
グレアムがいなくなったことでぐちゃぐちゃになりそうだと思ってたけど、前述の通り統一感はあるし、皮肉な事にギターがないことで今までよりも自由な表現になっている。
グレアムが好きなので複雑だけど、個人的にはブラーの最高傑作は本作だと思うし今聴いて一番面白いのも本作。特に「Out of Time」と「Good Song」はブラーを代表する名曲だと思う。
当時はコピーコントロールCDの形式で発表され、それもあまりまともな評価が得られてない気がする。
正直名盤としてのオーラでは『Parklife』に負けてるけど、再評価の期待も込めて10点中9点。
『The Magic Whip』2015年
前作より10年以上のスパンを空けて発表された8枚目、12年ぶりのアルバム。グレアムは脱退してたし、デーモンはゴリラズでアメリカで大成功してるし、何度か再結成っぽいことはしてるけど、ブラーの新作は絶対でないだろうと思っていただけに嬉しかった一枚。
ブラーであることを意識して作られた気はする。特に一曲目はみんながイメージするブラーっぽい曲になっている。かと言って一般的に全盛期と思われてそうな3rdとかの音楽性につまんない原点回帰とかはせず、『Blur』や『13』のみならず『Think Tank』の流れもちゃんと汲んでいるのが凄い。
香港でも録音されて、それがミュージックビデオやアルバムジャケットに反映されているが、モロッコ録音がモロに影響した前作と違って中国っぽさはサウンドには出ていない。でも相変わらず実験的な要素が平気で入ってくる。
「Go Out」とか突出した曲はあるけど3rdやセルフタイトルには見劣りするし『Think Tank』ほど野心的でもないので、良いアルバムではあるけれど10点中7点。
『The Ballad of Darren』 2023年
現時点での最新作。ブラーらしさを意識しつつ、バンドっぽさをキッチリと全面に出している。相変わらずここら辺のバランス感覚はいい。また、全体のトーンも年齢相応の落ち着きがあって、全体的にメロウで抑制された曲が多い(それが物足りない、往年のはっちゃけたブラーが聴きたいという思いもなくはないが……)。そんな中にもバンドしてのダイナミズムはちゃんと確保されているのは流石。特に先行シングルとして発表された「The Narcissist」は今のブラーにしか出来ない味わいが前面にでた名曲で、新たな代表作といって差し支えないと思う。
普通にいいアルバムではあるけれども、欲を言えば「The Narcissist」クラスの曲がもう二、三曲欲しかったので10点中7点。
まとめ
ブラーは好きなバンドなので結構評価が甘々になるかと思ってたけれども割と厳しめだったかもしれません。今回改めてアルバム単位で聴きなおしてみて、個人的にはアルバムをじっくり聴くよりも、どちらかというと以前やったニュー・オーダーみたいに曲単位で聴きたいアーティストだなと思いました。セカンドから三作は明確にコンセプトを打ち出した作りで、アルバムとしての流れや完成度に対しては勿論意識的だったとは思いますが今日的な視点からするとやや冗長に感じてしまうというのが本音です。
また、イギリスでは国民的なバンドにもかかわらず、音楽面でかなり攻めたサウンドも展開しているのも改めて面白いと思いました。特に『blur』や『13』など、日本の売れてるバンドならレコード会社から止められちゃうんじゃないかなっていう実験的な内容ですからね。
あとはアイドル顔負けのビジュアルをもったバンドなので、華があるPVがとにかく楽しく、何度も見てしまいます。ブラー入門としてPVで代表曲を順にみていくというのもありかと。今までの人生でアイドルとか特に好きになったことないんですけど、そういう意味ではブラーが僕の一番のアイドルかもしれません。
もう手放してしまったが、ブラーのオフィシャル伝記本。いまとんでもない値段になっている……。図書館で借りてね。