イギリス、マンチェスター出身のバンド、ニュー・オーダーの全アルバムレビューをお送りしたいと思います。
シングル盤やベスト盤を中心に聴いていたこともあって、順を追ってアルバムを丁寧に聴く事もしてなかったこともあり、やってみたいと思います。
ニュー・オーダーはとにかく大好きなバンドなので若干点数は甘めかもしれません。
『Movement』1981年
イアン・カーティスの死を受けて解散せざるを得なかったジョイ・ディヴィジョンの残りのメンバーが、ジリアン・ギルバートをキーボードに迎えて作成された記念すべきファースト。今聴くとパーカッシブでダークな音像やイアンに似せたボーカルスタイルなどジョイ・ディヴィジョンと地続きなところもあり、ニュー・オーダーは好きだけど、ジョイ・ディヴィジョンはピンとこない人(まあ自分の事なんだけど)にいいかもしれない。逆の人にもおすすめ。プロデュースもジョイ・ディヴィジョン時代に一緒にやってきたマーティン・ハネット。オープニングトラックの「Dreams Never End」はジョイ・ディヴィジョンとニュー・オーダーのいい所がかけ合わさった名曲。打ち込みのドラムとシンセサイザーを手に入れてはしゃいでる様な所もあってダークだけどほほえましい一作。割と統一感もあるのでもっと聴かれてもよいアルバム。10点中8点。
『Power, Corruption & Lies』1983年
最高傑作にあげる人も多い名盤セカンド。ジョイ・ディヴィジョンのダークさを活かしつつも、ニュー・オーダーのオリジナルサウンドを構築したといえる一枚。ジョイ・ディヴィジョンのセカンドで出てきた荘厳さをシンセの扱いをマスターしたことでさらに強化し、崇高でありつつもポップでパンクな強力なナンバーが点在する、名盤にふさわしい「何かがある」一枚に仕上がっている。同時期に出た代表曲「Blue Monday」は収録されず、別バージョンといえる「5 8 6」を代わりに収録。「Age of Consent」「Your Silent Face」など、百点満点の名曲は勿論、「The Village」などの佳曲が入ってることもポイントが高い、10点中9点。
『Low-Life』1985年
前作よりも打ち込み的な要素やシンセの割合を若干減らして生のバンドっぽさ、ロックっぽさを打ち出した3rd。ジョイ・ディヴィジョン時代に養ってきたポストパンクバンド的な感性をニューオーダーの持ち味を殺さずに出す余裕が出てきたのかもしれない。批評的評価も高い一枚。自分はあんまり歌が上手でないバンドでも問題なく聴ける方だが「Sub-Culture」のボーカルは下手すぎて最初聴いたとき腰が抜けた。「Love Vigilantes」や「Perfect Kiss」という名曲を含み、ベルリン期のボウイみたいなインスト「Elegia」、ひたすらアッパーな「Face Up」など聴きどころも多いが、前作の完成度には及ばずなので、10点中8点。
『Brotherhood』1986年
「Bizarre Love Triangle」という大大大名曲を収録しているが、他のアルバムに比べて取り上げられる機会が少なめな一枚。前作の延長線上的で疾走感あるパンクエレポップ? なA面とディスコ/エレポップなB面とはっきり分かれているのが特徴。A面はニュー・オーダーの他の名曲群を聴いた後だと惜しいところまで言ってるけど今一つという「いい曲」風、ちょっと手癖で作ってない? 的な曲が多く、100点満点だと全部75点ぐらいの曲が集ってる感じがする。一方前作よりも前前作の『Power, Corruption & Lies』に近い打ち込みメインのダンスミュージックなB面は前述した「Bizarre Love Triangle」も入っており、ほかの曲も80点越えでこちらの方が出来はいいと思う。ニュー・オーダーの凄さを理解するには不十分だが、無難に聴きやすい一枚で10点中7点。
『Substance』1987年
これまで発表したシングルA面B面をまとめたコンピレーションアルバム。本来ならオリジナルアルバムのみを取り上げれるべきなのかもしれないが、ニュー・オーダーは「Blue Monday」を筆頭に初期はシングル曲をアルバムには収録しておらず、またシングル曲に当然名曲も多く、シングル抜きで語ることが出来ないバンドなので紹介したい。実際、名盤ランキングなどで、アルバムがまだシングルより重要視されてなかった50年代に活躍したアーティスト同様、例外として本作もコンピレーションアルバムにも関わらずランクインしていたりする。
前置きが長くなったが、ニュー・オーダーが如何に素晴らしいバンドなのかがわかる必殺の名曲のオンパレードで、バンドサウンドのラフさと打ち込みの強力なビートとサウンドテクスチャーの快楽性をうまい具合にミックスしたのが彼ら本質というのがよくわかる傑作コンピレーション。
B面曲を集めた二枚目も「1963」という超名曲が入っていたり、A面曲の変名別バージョンやインストトラックも元々必殺のダンスナンバーな事もあって単なるカラオケにとどまらない聴き応えがあり、所謂捨て曲がない。2枚組ということでボリュームは少々重たいが、入門としてもかなりおすすめ。
やはり彼ら自身がクラブカルチャーにどっぷりとつかっていたこともあり、12インチでいいシングルが切れたらアルバムは二の次みたいな発想もあり、シングル曲に並々ならぬ熱量が篭っている事が窺い知れる。
文句なしの10点満点。
『Technique』1989年
イビサ島で収録された五枚目。彼ら自身が種を撒いてきたマッドチェスタームーブメントの高まりの時期でシングルもアシッドハウス的な曲ばかりなのでゴリゴリのハウスアルバムを期待してしまうが、蓋を開けてみるといつもの様にダンスロック的な曲と打ち込み曲が半々のアルバムで、正直最初に聴いた時はガッカリした。どちらかと言うとイビサのクラブ文化の影響よりは気候的な影響、夏っぽい爽やかなサウンド、が見られるアルバムと捉えた方がいいかもしれない(とはいえイビサから連想するバレアリックなムードは少なめ)。それもあってジョイ・ディビジョン的な要素が本当に無くなってしまった感がある一枚でセカンドあたりの音楽性が好きな人はこれ以降のニューオーダーは好きではないのかも。とはいえアシッド・ハウスのキラーチューン「Fine Time」、突き抜けるような爽やかさのあるギターロックの「Run」など、シングル曲は文句なしの名曲で全体的なムードに統一感もあるのでアルバムとしての評価は10点中9点。
『Republic』1993年
それぞれのサイドプロジェクトなどを挟んで前作から四年のインターバルを経て発表された六枚目。という事で当時は復帰作的な扱われ方をしていた。だが今の感覚からするとこれぐらい間隔があくのは普通だし、作風も前作の延長線上といえ、打ち込みとバンドサウンド半々ぐらいでムードも引き続き爽やかである。オープニングの「Regret」からのシングル曲の名曲四曲連発で、これはひょっとして名盤ではと期待させるが案の定、後半の曲が弱い。曲順を変えればアルバムとしての評価はもっと上がるかも知れない。とはいえ前半は本当に素晴らしいので10点中8点。
『(The Best of )New Order』1995年
『Substance』に続く2枚目のベストアルバム。『Substance』とは違って初期2枚のアルバムの時期からは選曲されておらず、ジョイ・ディヴィジョンっぽさのある曲を排除した、文字通りのニュー・オーダーのベスト盤となっている。代表曲の「Blue Monday」は88年に新しいミックスの「Blue Monday’88」として収録されている。ただ、ベストといってもアルバム曲は収録されておらず、シングル曲を選りすぐったものになっている。
さて、なぜベスト盤のこれをオリジナルアルバムを基本的に紹介する企画で紹介するのかというと、ニュー・オーダーの入門としてこれより適したアルバムは他にないからである。もし、これを読んでて全くニュー・オーダーを聴いたことがないのなら、たのむからこれから聴いていただきたい。さっき書いた通り、ジョイ・ディヴィジョンっぽい曲は排除されているし、ニュー・オーダーらしさが全開の名曲シングル群がほぼほぼ全部詰まっているからニュー・オーダーがどんな連中なのか理解するのに最適。また、「Blue Monday’88」、「Touched by the Hand of God」、「World In Motion」 といった『Substance』には入ってないシングルの名曲が聴けることもポイントが高い。筆者もニュー・オーダーとの出会いはこのアルバムを地元の図書館で借りてドはまりしたのが実は最初だったりするし、人生で一番聴いたアルバムの一つ。ニュー・オーダーの神髄がコンパクトに楽しめる10点中100億点の一枚。
『Get Ready』2001年
ただでさえ仲良くないのに前作の制作中に更にメンバーの仲がぐちゃぐちゃになり、結果、八年ぶりのアルバムとなった七枚目。流石に音楽性は結構変化していて、打ち込み要素がグッと減りバンドサウンドが前面に押し出され、ロックバンド的なダイナミズムが感じられる一枚。裏を返せばクラブミュージック的な側面を期待していたファンには物足りないかも。2001年といえば丁度ロックンロールリヴァイバルの機運が高まっていた時期なので昔のように彼らなりに時代に呼応していたのかもしれない。
ひょっとしたら完成度や統一感という意味ではセカンドに並ぶかもしれないが、ニューオーダーらしい突き抜ける瞬間やジョイ・ディビジョンみたいな荘厳さやダークさが発揮されてるわけではなくやはり若干物足りないので10点中7点。
『Waiting for the Sirens’ Call』2005年
前作よりも比較的短い間隔で出た八枚目。ジリアン・ギルバートが子育ての為に離脱し、ギタリストのフィル・カニンガムが加入している。前作よりもバンドっぽい曲が減って、打ち込みとバンドのいいとこを両方取り入れた彼らの最も得意とするスタイルに戻っている。プロデューサーも、レディオヘッド『ベンズ』、ストーン・ローゼズ1stを担当したジョン・レッキー、スミスやブラーで有名なスティーブン・ストリート、最近だとデュア・リパやリナ・サワヤマとも仕事しているスチュワート・プライスが参加していて豪華。シングル曲も多く、良曲が多い。中でも「Krafty」と表題曲は名曲。もっと評価されても良い一枚、とはおもうけど8点までは行かないかな…。ミックスもアルバムミックスよりシングルミックスの方がいいんだよな…ということで10点中7点。
『Lost Sirens』2013年
アルバムタイトルからすでにほのめかされているとおり、前作の未発表音源中心に組み立てたアルバムで正直正式アルバムとしてカウントしていいものかという九枚目。ピーター・フックが既に脱退していることもあり、彼の特徴的なベースラインはループされてたり素材的に扱われている。バーナード・サムナーのソロアルバム的に聴こえる一枚で他のメンバーの顔が見えてこないのも残念。まあまあ美味しいガムの味が殆どなくなったやつをずっと噛み続けてるようなアルバム。もう少し繰り返して聴けば評価も変わるかもしれないが…5点。
『Music Complete』2015
前作とは違って完全新作の一枚で現時点(2023)での最新作。本作よりキーボードのジリアン・ギルバートが復帰。1時間越えのプレイタイムは彼らのディスコグラフィーの中では2枚組を除いて最長。ジョイ・ディビジョン的なイントロがある曲(「Singularity」)だったり、ピーター・フック的なベースラインがでてきたり、「Fine Time」を想起させる曲(「Stray Dog」)があったり、前作の反省を生かしてか、ピーターが抜けた穴を埋めるためか、ニュー・オーダーっぽさを出すことを意識して作ったような印象がある。相変わらずシングル曲には力を入れていて「Tutti Frutti」は普通に良い曲だし、さわやかな後味を残すラストの「Superhearted」もよい。往年のパワーや突き抜けた名曲はないけれどそれなりに聴きごたえもあり、10点中7点。
まとめ
今回聴きなおすことで、「ニュー・オーダーはオリジナルアルバムよりもシングル中心のベストの方がよい」という持論がひっくり返ればよいと思ってやってみましたが、結局変わらずでした。
各アルバムもこうしたらもっとアルバムとしてよくなるのに~という不満があるんですよね。例えばファーストの『Movement』は「Ceremony」「Procession」「Everything’s Gone Green」といった前後の名曲を収録すればセカンド同等の名盤に仕上がったと思うし、そのセカンドも前年に出たシングルの「Temptation」や大名曲の「Blue Monday」をそのまま収録していたらかなりの名盤になったいたと思うんですよね。というわけで、『Get Ready』以前の殆どのアルバムが収録曲を工夫したらもっといいアルバムになったんじゃないかという思いが先行して、あまり楽しめなかったかもしれません。
そもそもシングル曲に匹敵するような強力なアルバム曲がなかなかなくて、それこそファーストの「Dreams Never End」やセカンドの「Age of Consent」「Your Silent Face」、サードの「Love Vigilantes」ぐらいで、あとはせいぜい佳曲どまりなのかなと思います。
また、シングル曲もアルバムミックスよりもシングルバージョンやその後ベストに収録された違うミックスの方がよかったりするんですよね。例えばサード収録の「Sub-Culture」なんかはアルバムバージョンはバーニーの下手くそな歌が目立つだけの曲なんですけど、シングルバージョンは分厚い女性コーラスが追加された合唱曲アレンジになっていて、これがかなりいい仕上がりで「もともとはこんなにいい曲だったんだ!」って思ってしまいます。
まあアルバムの出来がいまいちなのは、仲がとにかくよくないから根気のいるアルバム収録作業に力を入れるのも困難だったというのもあるのかもしれないですね。とはいえ、アルバムを作るのがそれほど巧みではなくてもシングル曲は本当に強力で、ポピュラーミュージック史に残るべきバンドだと思っていますので、聴いてない人は是非この機会にオリジナルアルバムを皆さんにも聴いてみてもらいたいと思いますし、その足掛かりに本稿がなればいいと思っています。