26年7月8月 旧譜・新譜 おすすめ紹介

 最近はひたすらNetflixでドキュメンタリーを見ている。作り物のドラマに感動できなくなっており、現実や偶然がもたらすドラマに現実世界の人々が喜びや悲しみや怒り、時には恐怖の感情を爆発させるのを見て、共感している。その流れでNetflixのヒップホップのドキュメンタリー『ヒップホップ・エボリューション』を見て、ヒップホップブームも同時に到来しており、今回紹介する曲もヒップホップが多くなっている。

「Golden」Jil Scott

 強力なリズムに親しみやすいメロディー、そして歌のうまさと声の良さが前提としてあるR&B。このような強力な楽曲を聴いていると、R&Bこそポップミュージックおける最強のジャンルであると思えてきてならない。
「Golden」はそんなR&Bの強みが十二分に発揮された上に、「I’m living life golden」という力強いフレーズが繰り返される非常にチアフルなナンバー。
 そしてそのようなフレーズはJil Scottのような力強い歌唱ができる人物から発せられないと説得力を持たない。
 前回の記事でも触れたGrand Theft Auto IVのゲーム中のカーステレオからこの曲が流れてきて、無理矢理奪った高級車でNYの街並みをクルージングするシチュエーションとあまりにもマッチしていてぐっと来てしまった。
 この楽曲のような自己肯定感の強さは、本質的に控えめであることを良しとする日本ではちょっと出てこない質感で、その確かさを味わうために何度も聴いてしまっている。
 聴いているだけで生活に力強さがみなぎってくるカンフル剤みたいなナンバー。

「Mind Playing Tricks on Me」Geto Boys

 今更取り上げるのも気が引けるぐらい、ヒップホップ史の中で重要な位置を占める名曲。ホラーコアやギャングスタラップの礎にもなった曲。
 勿論初めて聴いたわけではなく、何度もその名声を確かめるように聴いてはいたけど、今まで全くピンと来ていなかった。それが不思議なぐらい今繰り返し聴いている。
 サウス(といってもサウスといって皆が連想するアトランタではなく、彼らはヒューストンのグループ)からの、当時のNYやロスのヒップホップへの一つの大きな回答としても重要な楽曲なのだが、そのような歴史的事実を抜きとして普遍的に楽しめる楽曲。
 ラップの歴史上での最高峰のリリシストである、スカーフェイスの極上のフロウが二度楽しめるのもこの曲の素晴らしい点の一つ。

『Headlights』Alex G

 リリースされた一年前によく聴いていたアルバムで、当時取り上げそびれたので、今回取り上げてみた。今回取り上げる『新譜』はこれということで勘弁してほしい。
 アメリカーナ(便利な言葉だ。ただ、ストレートにアメリカーナをやっているわけでもなく、彼なりのひねりが効いており、それがジャケットにも反映されていて、中身に反し、あえて西洋的なイメージをもってきている。メタルバンドのジャケットみたい。ラウドネスとか)の再評価等もあり、出るべくして出てきたアルバム。
 ガツンと衝撃を与え、聴いた人の人生をその日から変えてしまうようなアルバムじゃないけれど、長く折に触れて思い返し、聴いてしまう、人生に寄り添ってくれるグッドアルバム。そしてそのようなアルバムはポップミュージックの聖典のなかでは弾かれやすいので、発見し次第コツコツと集め、人に薦めていくことが重要。

『EVE』NINEOKMAI

 タイのインディーポップバンドのシングル曲。バンド名はワンオクを意識しているらしく、真ん中にOKと入っている。タイ語で「大丈夫」という言葉からつけられたらしく、日本のポップカルチャーからの影響を隠さない。この曲のPVも日本の昔のゲームのドット絵で全編が表現されている。
 しかしサウンド的にはワンオク風味は全くなく、今のJ-POPが前面に出ているよりかは、THE 1975の音楽性を昔のJ-POP風に味付けしてちょっといなたくしたように聞こえた。最後の錆で転調して1音挙げて盛り上げるところなど実にJ-POP的。湿っぽく、感情的に歌い上げれらるAメロ部分なんかはアジアっぽさがあってそこもまたいい。
 まだ数曲しかリリースがないのでどうなるかわからないが、これからの活動が楽しみ。はやくアルバムがリリースされて欲しい。

「遅咲きGAL」田島ハルコ

 ギャルのマインド、そのポジティブシンキングや、コミュニケーション能力が再評価されて久しいが、そんなギャル的な思考を手に入れたウチは最強というナンバー。
 我々を励ましてくれるという意味では前述の「Golden」に近いものがあるが、「Golden」が楽曲の圧倒的な力強さでリスナーに活力を与えるのに対し、こちらはユーモアと視点の変化による啓蒙で、前向きにさせてくれる。
 聴いていると、気が大きくなるというか、謎の自己肯定感が出てくるのはラップの一つと特徴だと思うが、我々はラップのスキルもないし、成功したラッパーのように金持ちでもないし、大胆にふるまえるわけでもない。だから同一化したとしてもそれは基本的にファンタジーの主人公に感情移入するような類の、距離のあるものになる(先にとりあげた、「Mind Playing Tricks on Me」Geto Boys はその最たるものだと思う)。
 ところが田島ハルコは、一般的なギャルのような砕けていて華やかなイメージというよりかは、お経のような抑揚で繰り出されるラップは、むしろ真面目な人間のそれで、まずそんな人がギャルを自称しているのがまず面白く、リスナーとの距離を縮めてくれている。
 好きを貫く、ポジティブにトライする。もともとギャル的な人物が言ってもその人がもともとそういう性格だからでしょという感じで説得力がないが、真面目な人が無理やり自分を鼓舞しているかと思うとこちらにも勇気が湧いてくる。中年の危機を迎えたおじさん、おばさんにこそ届いてほしいチューン。彼女の言うように「人生は割と長い」から。

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