リバーポートソング 第二部 第四話 3月。

【第二部 第三話はここから】

【あらすじと今までのお話一覧】

夜間のバイトを続け、バンド活動もやらず、CDも買っていなかったので、その時までには結構な貯金ができており、僕はギターを新調する事にした。その時家にあった機材はフェンダージャパンのテレキャスターとYAMAHAの安いアコースティックギター、そしてハードオフで10000円ぐらいで買った安物のベースだけだったから、※①レスポールもしくはストラトタイプのギターで、それなりにいい値段がしてメイン機材たり得る物が欲しかった。何度か御茶ノ水や池袋の楽器屋に足を運んで大体の目安はついていたから、あとは買う勇気を出すだけだった。

ところが買いに行くと決めた日がたまたま大寒波が関東近郊を襲った日で、電車は一部止まるし、楽器屋はやってないしで空振りに終わって、とぼとぼとマーヴィン・ゲイを聴きながら帰ってきたのである。その道すがら、同じく誰も参加しなかったバンド練習に1人参加してスタジオで四時間ドラムだけ叩いて、帰りにメールでバンドを脱退を伝えた柳に偶然出会ったのだった。

柳とはそれから週に一回ぐらい目的も無しに会っていたと思う。特に何をするでもなく柳のうちでダラダラとCDを聴いたり、音楽の事を話しながら一緒に飯を食いに行ったり割と目的も無く不毛に過ごしていた。柳と僕とは同じ大学だったが彼は夜間部であまり大学で会うことはなかった。昼間彼は色々なバイトを転々としていたと思う。そのため、この頃は昼に柳と顔を合わせる事もあまりなかった。そして柳と会う度に数ヶ月前までは高岸とこんな風にして音楽について語り合っていたなと思い返す事が多かった。柳とバンドを組みたかったけれど、この関係性がまた高岸の時と同じように壊れてしまうのではと思い中々話を切り出せないでいた。何より自分に対して自信がなかったのもある。理想的な誰かとバンドをやるには自分の実力がまだ不足していると思っていた。まず、満足に作詞作曲ができる必要があると思っていた。柳と特に目的もなく過ごす時間がなによりも楽しかったからそれで満足してしまっていたのかもしれない。

それに柳がバンドをやりたがっているのかもよくわからなかった。彼は先輩と組んだよくわからない※②メロコアバンドを辞めたばかりだったし柳が音楽について詳しいだけでなく、自分でも曲を作っているとはこの時はまだわかっていなかった。ただ彼が音楽について詳しいのは最初しゃべった時点でわかったし、耳コピを始めたばかりだったこのころは聞き取れない曲があるとよく柳にわからない箇所のコードを教えてもらっていたりした。

3月。

久々に高良くんから連絡が来た。高良くんとは僕が映画ばかり観て引きこもっていた時期にも実は何度か遊んだのだが、彼も最近は忙しかったのか、新年になってからは一度も連絡がなかったしこちらも何も連絡していなかった。彼の大学のサークルの有志で平日渋谷の小さなクラブを貸し切ってイベントをやるらしい。そこで高良くんがラップを披露するから是非見に来て欲しいというのだ。チケットはタダにするから誰か連れて来れるなら連れてきてと言われたが、僕が「すとれいしーぷす」としてライブハウスに出演したときに彼はお金を払って見に来てくれたので僕もお金を払うといって、ただでお呼ばれするのは断った。

「ヒップホップだけじゃなくてさ、テクノとかロックとかもDJタイムで流したりするから、バンドメンバーで興味ある人いたら是非連れてきてよ」

その時は咄嗟に相槌を打ってしまったが、実はバンドを辞めたことを高良くんにいえてなかったし、特に気軽に誘えるような人もいなかった。が、高良くんにはお世話になっていたし、なるべく集客の力になりたかったから、石崎さんと錦を誘った。石崎さんと久しぶりに話したかったし、錦ともあの練習以来会ってなくて、彼女の音楽活動がどうなっているのか気になっていたのもある。本当は成戸を誘いたかったが、バンドを辞めてほぼ引きこもりみたいになってから、ずっと成戸に合わない様にしてきたから、今更どんな顔して会ったらよいのかわからず誘えなかった。向こうも僕のことはもう友達とも思っていないだろうなとおもっていた。柳も誘おうかと思ったがなんとなく興味なさそうな感じがしたからやめておいた。

その頃、何ヶ月もCDを買っていないという、僕にしては異常な状況が続いていた。柳との交流で彼の家で聴いた事の無いCDを聴く事である程度新しいものを開拓するという欲が抑え込まれていたこともあっただろうが、そろそろ柳の家で開拓したものを自分も所有したいという欲も出てきて、折角渋谷まで行くのだから道中CD屋巡りをしてみようと思い立った。予算は二万ぐらいに奮発する事にした。

僕の住んでいた街から吉祥寺まではバスが出ていたから、まずバスで吉祥寺まででてディスクユニオンとブックオフを物色し、油そばを食べて、買ったCDを聴きながら京王井の頭線で下北沢まで移動、ディスクユニオンに行ってまたCDを買い、そのあと渋谷に到着。タワレコ、HMV、ブックオフ、レコファンを巡って、買ったCDを眺めつつ、6時の開場まで待つ、というプランを立てた。

当日、吉祥寺のユニオンでライドの初期のEP2、3枚とプライマル・スクリームの※③『スクリーマデリカ』のUS盤を買ったと思う。吉祥寺のブックオフでは大した収穫が無かった。予定通り油そばを食べてから京王線にのって、CDプレイヤーで早速買ったものを聴いた。

いつの間にか電車の中で寝てしまっていたらしく、もう少しで寝過ごす所だったが、すんでの所で何とか起きて下北で降りた。

下北沢に来るのは、それこそ「すとれいしーぷす」でバンドとして出演して以来で、当たり前かもしれないが何にも変わっていなかった。この街は季節にかかわらずいつもおんなじ顔をしている気がした。

続く。

※①かなり特色の違う2本だが、要はなにか目的があったわけではなくとりあえず代表的なものを持っておきたいぐらいの安易な気持ちだった。

※②この後柳の趣味嗜好を深く知る度に、かれがメロコアバンドに参加していたというのが本当に謎で仕方がない。

※③「Come Together」がインストではなく、歌アリになっていて僕はこっちのほうが好きである。

タイトルとURLをコピーしました