音楽連載小説 第十四話

【第十三話はこちら】

都会のファミレスで衝撃を受けるのは、実に様々な人がそこには集まってくるということだ。そして皆実に堂々と話をする。時には詐欺グループの連中すらいて、堂々と法に触れる話をする。まるで聞かれても計画にまったく影響はないとでも言うかのように、君たちの正義なんて無力ですよと言い放っているかのように。誰かが問い詰めようものなら涼しい顔で「劇の練習ですけど何か」とでもいいそうだ。そしてほかのテーブルでは誰かが人生を破滅しかねない契約を結ぼうとしている、そしてほかのテーブルでは人生を保護しようとする契約が結ばれつつある。そして多くのテーブルではただ時間が浪費されていく。そんな中に僕たち「すとれいしぃぷす」もいた。迷える仔羊の一員として。大胆にも彼等の代表であるかのような屋号を掲げて。

都心では何もかもがディズニー・ランド方式だ。本当に欲しいものは並ばなければ手に入らない。僕たちは30分待ってようやく席に着いた。

注文を取り終わって水を少し飲んで話し合いがはじまる。

僕たちはKatie’sの結成の経緯を改めて丁寧に説明した。僕たちがやりたかったことも。一つは※①ポップでありながら攻撃的なギターミュージック。例としては※②アトラクションズとやっていた頃のエルヴィス・コステロ、中期XTC、『アラジン・セイン』のデヴィッド・ボウイ、ビートルズのファーストアルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』。もう一つは複数のソングライターと複数のボーカリスト。クラッシュやビートルズ、クイーン、YMO。僕たちがエーテルワイズに惹かれたのは男女ツインボーカルなのと攻撃的かつポップな楽曲だったからとも説明した。

対してエーテルワイズは先輩2人が石田さんと石崎さんに声をかけて始まったプロジェクトだった。最初の頃は初期のスーパーカーのような男女混合ボーカルのギターポップバンドで、徐々に石田さんが曲を作ってイニシアチブを握るようになり、ロキシー・ミュージック的なポップでありつつも攻撃的でひねくれていてアーティスティックな要素を持つ要素をだんだんと増やしていったという。

「私が本当にやりたいのは初期と中期のロキシー・ミュージックみたいな、ちょっとどうかしてるような、やけになったようなポップミュージック。ほかにはトーキング・ヘッズとか。歌い方はメロディをさらりと歌い上げるようなものよりはどっちかっていうと演劇的な、わざとらしい大げさな歌い方したやつとか。まああんまりそういう曲はできてないんだけど」

僕たちはそういう要素はXTCとかコステロにもあって、石田さんの楽曲から十分そういう要素は感じた、だから一緒にやりたいと思ったと伝えた。彼女もそれほど熱心なリスナーではないもののXTCやコステロを通ってきているという。しかし僕たちはまだロキシー・ミュージックのたとえにピンときていなかった。そこで僕たちは白状した。僕はロキシー・ミュージックは※③ベスト盤しか聴いたことないことを。そして高岸は、

「親が持っていた※④『アヴァロン』しか聴いたことがないです…」

「えーーっ、そうなの?」

石田さんが結構大きなリアクションをしたため、店中が一斉に振り返った気がした。※⑤「TPO、TPO」と石崎さんが珍しくたしなめた。

「それは良くないねー」と石田さんはにこやかに言ったが目が笑ってなかった。

「よし今度CDもってきてあげるよ」

「いえいえ大丈夫です、次回までにちゃんと予習しときたいし、自分で買うか借りるかするのでおすすめを教えてください」高岸が言って僕がうなずいた。

「そうだなー。2枚目の『フォー・ユア・プレジャー』(For Your Pleasure)か5枚目の『サイレン』(Siren)かな、ファーストもいいけど…全部いいんだけど」

結局僕がベストを高岸に貸したうえで、オリジナルアルバムも何枚か次回までに聴くということで落ち着いた。

「石崎さんはどうなんすか」と僕が聞いた。

石崎さんは「オレは本当は※⑥プログレとかネオアコが好きなんだよね…」と言って柄にもなくてれた。前にも言ったが石崎さんは高校まで柔道をやっていて体もがっしりしている。その時は髪は短いながらも伸びていたが、坊主にしたら完全に※⑦フィル・アンセルモと言ってもいいようないかつさだった。そんないかにもハードコア・パンクしか聴きませんみたいな風貌だけど、冗談を飛ばしてよく笑う気さくなナイスガイだったし、プログレやネオアコを好いていた。ドラムプレイも激しくて単純なフレージングというよりは、細かくて繊細なプレイや手数の多いフレージングを好んだ。

という事でじゃあ全員が一致する所、重なり合う所はどういう音楽性なのかをいよいよすり合わせる時が来た。高岸が今まで出てきた話をメモしていて、それをまとめてくれた。

  • ポップでありながら攻撃的、ひねくれていて、ちょっとどうかしてるような、やけになったようなギターミュージック(初期中期ロキシー・ミュージック、トーキング・ヘッズ、初期中期エルヴィス・コステロ、中期XTC、等)
  • 複数のソングライターと複数のボーカリスト
  • プログレ、ネオアコ

「複数のソングライターと複数のボーカリストはこのままみんなで曲を作って、基本作曲者が歌ってるいまのスタイルで達成されてるね」と石崎さん。みんなが同意した。しかしこれだけではバンドの指針として何かが足りない気がしたし、不十分な気がしてみんな考え込んでいた。

「なんかもうちょっと具体性が欲しいかもしれないですね」と高岸。

「うん、そうかも」

「やるね、君」的な笑顔を高岸にむけて石田さんが言った。

「さっき石田さんが言ってましたよね。ブライアン・フェリーの歌い方について」と僕。

「そうだね。メロディを歌い上げるよりはどっちかっていうと演劇的な、わざとらしい大げさな歌い方、かな。もっというと言葉の抑揚が大きいというか」

「それは、コステロやXTCもそうで、言葉を打楽器みたいに打ち付けるように発している時があります、まるでラップみたいに」と僕。

「あんまり言葉を延ばさずにぶつ切りに発してる時があるね」と高岸。

「その一方でコステロが音を延ばして歌うときもあって、それが気持ちよかったりするんだよね」と僕。

この調子で歌に限らず、コードや曲の展開、ギター、ベース、ドラム、それ以外の楽器やコーラスの入れ方など、わかる範囲で洗い出していった。勿論楽曲によってはこの範疇に入らないものもあるだろうし、それにこの音楽性が我々にとって本当にベストなものかもわからなかったし、変わる可能性もあった。しかし一つの確固とした指針であることは間違いなかった。

あとはそれぞれ共有できていない音(僕と高岸にとって初期中期のロキシー・ミュージックなど)があるので各自自分のパートの要素を実際の音を聴いてそれぞれ洗い出すのが宿題となった。石崎さんは聴いてほしいプログレとネオアコのリストを送ってくれるという。スタジオでのモヤモヤが晴れて全員が何かスッキリした様な顔立ちになった。時刻は既に午後11時をまわっていた。

続く

※①当時ポップで攻撃的なギターミュージックで日本で1番影響力があったのは間違いなくNumber Girlだった。しかし僕たちの理想とは違った。僕はNumber Girlに心酔しており、ギタースタイルにめちゃくちゃ影響を受けていたが、高岸はどちらかといえば彼らが苦手だったし、僕たちはもっと楽曲ドリブン、歌ドリブンなバンドを目指していた。歌の建付けが多少いびつでも、個々の演奏能力とテンションとオリジナリティーでぐいぐい聴かせていくナンバガとは実は大分方向性が違う。それに、この後僕たちは無数のナンバガワナビーバンドをライブハウスで目撃し、その大半が残念なことになっていたので、目指さなくて良かったと思う。

※②あげようと思えば幾らでもいけたが、マイナーなバンドを挙げると話をややこしくするのと、ポップ要素が強すぎてど真ん中では無いという理由から僕たちはこれぐらいの例に留めていた。他に僕たちの念頭にあったのはThe dB’s、ニック・ロウ『ジーザス・オブ・クール』、バッドフィンガー、ラズベリーズ、The Beat、ストーン・ローゼズ、バーズ、チープ・トリック、ラモーンズ…。ほら、やりたい音楽性がぼやけてきた。

※③『TOKYO JOE ~ザ・ベスト・オブ・ブライアン・フェリー&ロキシー・ミュージック』のこと。実は『ギフト』という木村拓哉主演のドラマでロキシー・ミュージックのボーカルのブライアン・フェリーのソロ(カバー曲なのだが)「Tokyo Joe」が主題歌になっており、その関係でスマッシュヒットした同曲聴きたさに僕はこのベスト盤を聴いていた。

※④『アヴァロン』(Avalon)は1982年に出たロキシー・ミュージックのラストアルバム。アメリカではパッとしなかったがイギリスのチャートでは一位をとっており、一般的には人気のあるアルバム。が、その音楽性はシンセ・ポップやソフィスティ・ポップなどと言われ、初期のロキシーとは似てもにつかない口当たりのよい上品で上質な極上のポップアルバムである。「モア・ザン・ジス」”More Than This”と 表題曲「アヴァロン」 “Avalon”は完璧なポップミュージックだと思うので是非聴いてほしい。前述したようにかなり音楽性がソフトな方向にチェンジしているので、初期中期のファンの中にはこのアルバムをロキシーのアルバムじゃないといったりする人もある。石田さんは自分はそこまではいかないとはいっていたけど、僕は高岸の回答への反応を見るに結構きてるな思っている。

※⑤TPOはTime, Place, Occasionの頭文字で発言や行動は時と場所と場合を考慮して行えというような意味でしばしば使われてたけど最近聞かないね。

※⑥プログレッシブ・ロックは70年代に盛んだった、ロックにジャズやクラシックなどの要素を取り入れたテクニカルで大仰でプレイタイムが長めな楽曲構成が特徴なジャンル。代表的なバンドはキング・クリムゾン、イエス、ピンク・フロイド、ジェネシスなど。

ネオアコはネオ・アコースティックの略。その多くは欧米のバンドの音楽を指すにもかかわらずネオアコというジャンルわけは日本にしか存在しない。その名の通り、アコースティックな柔らかなサウンド、爽やかだったり、穏やかなサウンドを特徴とする。代表的なバンドはアズテック・カメラ、プリファブ・スプラウト、オレンジ・ジュース、ペイル・ファウンテンズ、エヴリシング・バット・ザ・ガールなど。

※⑦フィル・アンセルモは元パンテラのボーカリスト。パンテラはグルーヴ・メタルと言われる1ジャンルを開拓したメタルバンド。グルーヴ・メタルはスラッシュメタルを下敷きにしつつも、スラッシュよりもスロウで、その名の通りグルーヴィなメタルである。スラッシュ・メタルは…ここら辺で辞めておこう…。

タイトルとURLをコピーしました