邦楽アルバムベスト100【後編】をお送りします。
【前編】をチェックしたいかたは下のリンクからアクセスできます。
このページからベスト30に突入です。
30位から21位は意外と定番の名盤があんまり出てこないリストになりました。また90年代のアルバムが5枚もでてきて、60年代、80年代がゼロでした。
- 30位 はっぴいえんど『風街ろまん』 1971年
- 29位 友川カズキ『犬〜秋田コンサートライブ』1979年
- 28位 きのこ帝国『Long Goodbye』2013年
- 27位 Rhymester 『EGOTOPIA』1995年
- 26位 サニーデイ・サービス 『愛と笑いの夜』1997年
- 25位 Grapevine 『退屈の花』1998年
- 24位 KICK THE CAN CREW 『Greatest Hits』2001年
- 23位 BLANKEY JET CITY 『C.B.Jim』1993年
- 22位 KID FRESINO『ai qing』2018年
- 21位 くるり 『さよならストレンジャー』1999年
- 30位から21位まとめ
30位 はっぴいえんど『風街ろまん』 1971年

このアルバムがランクインしていない「日本のロックアルバムベスト100」が想像できないほど、日本のロック史に燦然と輝きつづける大名盤。
どっしりと落ち着いた極めて完成度が高い豊饒なアメリカンロックを日本語で展開して見せ、これ以降のミュージシャンに多大なる影響を及ぼしました。
参加メンバーが全員これ以降の日本のロック史、ポピュラーミュージックシーンを支えてきたという意味での伝説的なバンドの伝説的一枚でもあります。
そしてほぼ全曲の作詞を担当した、松本隆さんが、失われた東京を描いたソロアルバム的な見方もできるな、と今にしておもいます。
- 「抱きしめたい」
細野さんの濃厚なベースラインが最高な一曲目。はっぴいえんどフォロワーにこういう泥臭いサウンドはあんまり真似されてない気がするけど、このグルーヴをやってみせたことこそが大きな功績の一つかと。
- 「風をあつめて」
はっぴいえんどで一番有名な曲であり、細野さんの全キャリアの中でも一番の名曲として扱われるような重要作。
しかし、結構風変わりな曲だと思います。いい感じに響かせるのが難しいといういみで歌いにくい曲だし。ボーカルが二重録音なのもポイントで、メロディーラインの変さ、扱いにくさを軽減していると思います。
このアコースティックギターのイントロはほんとマジカルな響きをもってますよね。
ドラムのフレージングもとても豊かでリリカル。ドラマーは勉強になると思います。
もっとセンチメンタルに歌える曲だと思うんですけどとても軽やかに歌ってて、そこがいいんでしょうね。
- 「はいからはくち」
全パートめちゃくちゃ格好いい。特にイントロのギターと間奏のドラム。 大滝さんのこういうメロディよりリズム重視のボーカルがロンバケ以降封印されたのは実に残念。
29位 友川カズキ『犬〜秋田コンサートライブ』1979年

パンクよりパンクで、メタルより激しく、ラップより過激な言葉が舞うフォークロックの合間に、声を出して笑えるレベルのめちゃめちゃ面白いMCが挿入されてるどうかしてるライブ盤。
頭脳警察のパーカッション担当のトシさんが参加しています。
- 「サーカス」
中原中也の詩に曲をつけた一品。同じ現代詩に曲をつけるでも、高田渡の様な凝った編集はないんですが、秋田弁のテイストが混じっており、それが独特。
- 「寂滅」
ゆったりとしたテンポに割と言葉数多く詰めて切迫感を出していますね。万力で頭を締め付けられながら歌唱してる様な凄みがあって、秋田弁とこの種の凄みとの相性はとてもよいとおもいます。
- 「死にぞこないの歌」
色んな死に様を羅列した怖い歌で、どれも痛そうなんだけど変なユーモアを感じます(リンク音源はスタジオversion)。
- 「あいうえお狂歌」
とにかくこの一曲だけでも聴いてもらいたい、トンでもないテンションの曲。 僕はこの曲がラジオで流れてきて友川さんをしったのですが、その言葉やサウンドの激しさ、緊張感の高さに衝撃をうけました。
28位 きのこ帝国『Long Goodbye』2013年

1stと2ndの合間に発表されたEPで、きのこが最もシューゲイザーに接近していた一瞬の輝きをとらえた貴重なドキュメントにして日本のシューゲイザーの大名盤。
きのこがシューゲどんズバのこの音楽性なのってこのEPだけなんですよね。勿論それに近い曲は前後のアルバムに入ってたりはするんですけど、基本的にはこれだけ。一瞬の輝きみたいなEPだとおもいます。 勿論前後のきのこがダメというわけではなくて、この方向性での話です。
そして本作、ボーカルの佐藤さんの声の美しさ、透明性を最も前面に打ち出したアルバムではないかと。詩もサウンドに合わせて方向性を絞ってる感じで良いですね。
前作にあたるフルアルバム『eureka』では、割と日本のフォークに通づるような強い言葉や詩の朗読もあり、よくも悪くも多彩さがありましたが、今作はタイトルのような別離、もう届かないものへの憧れと諦念がテーマで統一感があります。
- 「MAKE L」
アルバム最終曲で一分強の小品。ですが、アルバム中最も美しい曲かもしれません。夢の様な曲。で夢の様にばっさり終わります。歌のないコーラスのみの曲。
- 「海と花束」
この曲できのこの虜に。意外な展開を見せるPV含め最高にエモい演奏ですね。しかし歌はどこまでも押さえたトーンで、その対比が冴えてます。深い諦念と悲しみを感じさせる曲。
- 「ロンググッドバイ」
表題曲。「心のどこかで まだ少し信じてた愛おしい幻 このままどこまで行こう」 「噂で聞いたよ 意外と平気さ」 破れた恋はUSインディーの爆音でかき消すしかない…
- 「パラノイドパレード」
付き合うのは大変だが抗えない魅力を備えた人物についての歌。
27位 Rhymester 『EGOTOPIA』1995年

日本語ラップ黎明期の生々しい雰囲気、気迫や気負いが十二分に伝わってくる名盤2nd。
古いソウルやファンク、ジャズ、R&Bを中心としたトラックも秀逸で個人的にはライムスター最高傑作。
- 「口から出まかせ feat. KING GIDDRA, SOUL SCREAM」
ソウル・スクリーム、キングギドラをゲストに迎え、ユニット又はMCごとにジャジーなトラックがコロコロ入れ替わる日本語ラップ界のパラノイド・アンドロイド笑。
冗談はさておきイントロから飛ばしまくるギドラの2人が全部持っていってます。ここだけ何度繰り返し聴いたことか。
- 「悪趣味節」
ベースのサンプリングがめちゃくちゃカッコいい一曲。Mummy-Dのこの頃のトラックは神がかってるとおもいますね。てか、単に僕の好みなんですけど。
- 「あしたのショー」
ブレイク前夜のどさ回りの様子をライミングした曲。当然『あしたのジョー』のパロディタイトル。顎足枕という表現はこれで覚えました。
- 「君の瞳に映るオレに乾杯」
De La SoulのMe, Myself &Iが恐らく下敷きになって作られた曲。 結構真理をついた歌詞だと思います。
26位 サニーデイ・サービス 『愛と笑いの夜』1997年

他のサニーディのアルバムに比べて、本作がどういうアルバムか結構説明しづらいですが、強力にうったえてくる楽曲が複数入っている名盤かと。
本作の影の主役がSEで、曲間や曲中に結構入っているんですが、曲との親和性が高く、意識してないと入ってるって気づかないぐらい。全然わざとらしくなくてめちゃくちゃ有能なつなぎ、またはアレンジの一部として機能しています。
サニーディの凄さって、日常の間にふと訪れる特別な瞬間を切り取って、それをポップソングとしてパッケージングする力だとおもうんですけどそれが結構濃厚に感じられる一枚だと思うんですよね。
- 「雨の土曜日」
艶っぽいイントロのギターフレーズが印象的。サニーデイは曲がいいのは勿論ですがアレンジが行き届いていて退屈さを感じさせないのが凄いです。歌に限らず、メロディーをとても大切にしているバンドだと思います。
- 「愛と笑いの夜」
SEが影の主役といいましたが、それが端的にわかるのがこの表題曲。間奏の汽車の音や人々の話し声にうっとりとしてしまいます。
- 「サマー・ソルジャー」
大名曲。6分もあるんだけど3分ぐらいに感じます。このテンポで6分で長さを感じさせないってのが凄い。
曲そのものの良さもあるんですが飽きさせないアレンジがポイントで、ストリングスとバンドの配分とか絶妙だと思います。こういうゆったりした曲は編曲センスめちゃ問われるのにそのハードルをクリアして尚6分。凄い。
25位 Grapevine 『退屈の花』1998年

メンバー4人がそれぞれ作曲した曲が並ぶ1から4曲目までの流れが特に素晴らしい一枚。いきなり完成度の高さを見せつけこれから先どうするんだと心配になるデビュー作でしたが、このクオリティを維持し続けているのが彼らの恐ろしいところ。
本作についての詳しい解説はこちらから↓
24位 KICK THE CAN CREW 『Greatest Hits』2001年

大ブレイク前のインディ音源のコンピ盤。平気で7文字5文字で堅く韻踏むスキルフルなラップは当時から健在で、それに「若さ」と、この先どうなるんだろう的な「焦燥感や切なさ」が加り、今の3人では絶対再現出来ない輝きがある名盤。
- 「one for the what, two for the who」
Kickで1番好きな曲。夕暮れの黄昏の中でずっと聴いていたい曲。メロウなトラックにのせて気持ちよく長いワードで、故郷の待ちについての郷愁ただようリリックが刻まれていく名曲。
- 「ユートピア」
理想に向かい突き進む思い、ハングリー精神が歌い込まれた感動的なナンバー。
既に成功を手に入れた今の彼等にはもう作れない熱気をたたえた曲。
再現不可能な何かがあるアルバムってやっぱり惹かれてしまいますね。
- 「Good time!」
本作で1番勢いがあるナンバーで後の「マルシェ」の青写真になった曲だと思います。短い間隔で次々にリレーしていく様は実にスリリング。
しかも交代の時にいちいち長いパッセージで硬く韻踏んでいくところが憎い。
23位 BLANKEY JET CITY 『C.B.Jim』1993年

音楽的にも詩的にも、独自の世界観にさらに磨きをかけた3枚目。「PUNKY BAD HIP」、「D.I.Jのピストル」、「3104丁目のDANCE HALLに足を向けろ」と、彼等のディスコグラフィー中、最も沢山強力な楽曲が入っているアルバムではないかと思います。
特に最後の9分近い「悪い人たち」は圧巻。
- 「PUNKY BAD HIP」
「新しい国ができた人口わずか15人。 それも全員センスの無い単車乗りばかりが揃ってる」
バイク乗りの集団についてのロックンロールアンセム。カッコ良すぎ。
- 「D.I.Jのピストル」
ドラムはレッド・ツェッペリンの「ロックンロール」、ギターリフはDEVOの「Uncontrollable Urge」を拝借したロックチューン。メロンソーダとチリドッグの売り上げに、絶対貢献してる曲。
- 「悪い人たち」
言うまでもなく白人によるアメリカ入植に伴うネイティブアメリカンの虐殺とそれに続く文明の虚栄を表した曲。
ブランキーの楽曲はブランキー市長のジェット・シティという架空の街の物語という設定なのですが、だいたいアメリカの地方都市のような雰囲気をもっていて、アメリカの歴史をなぞったこの曲もそんなテイストが伺えます。
ボーカルの浅井さんが参考にしたかどうかは謎ですが、実は似たような壮大なテーマを持つ曲は他にもあって、イーグルスの「ラスト・リゾート」、ニールヤングの「ポカホンタス」などもそうですね。三曲比べて聴いてみてほしいです。全部名曲です。
22位 KID FRESINO『ai qing』2018年

多彩なゲストを迎えつつもそのパッケージが体現している様な透明感と情熱を感じさせる、統一感のある一枚。
心地よくて格好良い音が沢山詰まったヒップホップアルバム。リリースから年月は浅いが既に名盤の風格アリ。
フレシノさんは最初はトラックメーカーで、後にラップと始めた人なんですけど、そういうトラックも作るし、ラップもやる人が自分は結構好みですね。自分のリリックの世界観をトラックで自由に表現できるのは強みだと思います。
このアルバムはトラックを結構他の人に任せてたり、バンドと共演してたりするんですけど、ゲストは多彩なんですが、不思議とゲストの力頼りのアルバムには全然聴こえないです。それは良いヒップホップのアルバムの必要最低条件かなとおもいます。全体のカラーやベクトルをちゃんとコントロールできてるっていう。
- 「Coincidence」
アルバム一曲目。ヒップホップアクトでは珍しくこのアルバムでは三浦淳悟(bass / ペトロールズ)、 佐藤優介 (keyboard)、 斎藤拓郎(guitar / Yasei Collective)、 石若駿(drum)、 小林うてな(steelpan, Chorus) のバンド編成をバックとしてしたがえています。この曲もその編成で、クリーントーンの透明感のあるギターに、マスロック、ポストロックっぽいリズム隊、スティールパンの熱くてクールなトーンの演奏が聴きどころ。
PVもめちゃくちゃ格好よい。
- 「Cherry pie for ai qing 」
打って変わって打ち込みのリズムにシンセサウンドの二曲目。核にフレシノさんのラップがあるからかもしれないが、一曲目とまるで違和感なくシームレスに聴ける。
- 「Arcades (feat. NENE) 」
ゆるふわギャングNENEとの共演。 子供のコーラスが気持ちいい。 携帯のコール音が、効果的に響く。
- 「Winston (feat. 鎮座DOPENESS) 」
再びバンドとの共演。鎮座DOPENESSが客演でサザンを引用してますね。 セクシャルな話題ですが英語と日本語ちゃんぽんなスタイルでちゃんと聴かないとそうと分からない笑。 ライムと声のトーンの気持ち良さの追求という意味で結構この二人はスタイルが似ていてコンビとしてマッチしていると思いました。
- 「Nothing is still (feat. C.O.S.A.) 」
盟友C.O.S.A.との共演。二人の友情が感じられる熱いトラック。石若さんのドラムがキモ。
- 「Way too nice (feat. JJJ) 」
水曜日のカンパネラのブレインであるケンモチヒデフミ氏のトラック曲。水曜日が割とユーモラスなイメージだったのでこういうシリアスなトラックは意外でした。本作で一曲選ぶとしたらコレですね。
なんか大陸的な雄大さを連想させるトラック。中国の仙人とかが住んでそうな奥地を想像しちゃいますね。
21位 くるり 『さよならストレンジャー』1999年

基本的に歌に軸を置いたフォークロックだが、90年代を総括する様な新しさもあるデビュー作。
表現している内容は青春や若さ故の焦燥感や感傷だったりするんですが、バンドとしては最初からしっかりとしていた強固さを感じます。
また三拍子が多いアルバムですね。エイトビートばかりでバウンスもなく、適切な攻撃性すらないアルバムは最後まで聴いてられないですが、このアルバムは全然違います。
実はインストも12曲中3曲で結構多い。全然そんな印象無いんですけどね。歌入り曲の一曲一曲の濃度が高くて満足度が高いからそう感じないのかもしれません。
プロデューサーはザ・ブルーハーツやJUDY AND MARYのプロデュースで知られる佐久間正英。
アルバムの詳細については下記の記事で書いてます。
30位から21位まとめ
はっぴいえんど『風街ろまん』。このアルバムが30位なのが納得できない読者のかたもいるのではないでしょうか。この手のランキングではかなりの上位に位置してもおかしくないアルバムですね。
僕も最初仮で順位付けする段階では一位にしてました。でも結果的にこの順位になってしまったのは、メンバーがそれぞれこの後に発表したアルバムのほうが、より強い情熱を感じるという理由ですね。
結構これはクールに作られたアルバムなんじゃないかなと、思ってます。ドキュメンタリーとかでも皆さん結構淡々と語られてますし。
29位友川カズキ『犬〜秋田コンサートライブ』は超名盤だとおもうんですが、現在入手困難。再発かサブスク解禁モトム。
サニーデイ・サービス 『愛と笑いの夜』。今回のランキングで非常に悩んだのがサニーデイのアルバムでどれを選ぶか何位にするか… 。
サニーデイのアルバムはどれも高水準で、本当にその時の気分気分で「このアルバムが一番だ!」ってなってしまうんですよね…。
Grapevine 『退屈の花』。Grapevineも常に高水準のアルバムを発表し続けるアーティストで、これも選出に苦労しましたね。
こういうランキングに意外とノミネートされないのが不思議でして、ガリレオガリレイやトライセラトップスと同じく、今回高順位で紹介できてよかったです。
KICK THE CAN CREW 『Greatest Hits』はベストと名をうっていまして、一応このランキングではベスト盤は除外というルールでやっていますが、これ以前のアルバム一枚に数曲を足したコンピ盤的な一枚ですので、例外としてランクにいれました。
次回は20位から11位です。アルバムランキング常連の70年代の名盤が多数出てくるセレクトになっています。